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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第87話】帰る場所


「――これで、最後だ!」


大地が拳を振り抜く。


――ドゴォォォンッ!


目の前の魔物が吹き飛び、そのまま壁へ叩きつけられた。


「グルァ……」


魔物はそのまま動かなくなる。


「……」


静かになった。


あれほど部屋を埋め尽くしていた魔物の群れが――。


今は、一体も残っていない。


「……終わった?」


後衛にいた女性冒険者が、恐る恐る周囲を見回す。


「……ああ」


バルガスが大剣を下ろした。


「終わった……みたいだな」


誰も動かない。


誰も声を上げない。


ただ――。


全員が目の前の光景を見つめていた。


そして。


「……すげぇ」


男の冒険者の一人が、ぽつりと呟いた。


その視線の先にいるのは――。


大地。


そして、その腕に抱かれている白銀の少女だった。


「……ダイチさん!」


その時。


エレナが駆け寄ってきた。


「エレナ」


大地が振り返る。


エレナは大地の身体を頭から足元まで確認するように見つめた。


「お怪我は……?」


「これくらいなら大丈夫」


大地は血の滲んだ拳を見せる。


「この程度なら――」


「大丈夫ではありません」


エレナが大地の手を取る。


「血が出ています」


「いや、でも……」


「大丈夫ではありません」


「……はい」


有無を言わせぬ笑顔だった。


「それに……」


エレナの声が少し震える。


「本当に……無事でよかったです」


「エレナ……」


その瞬間。


エレナが大地へ抱きついた。


「……っ」


大地が少し驚く。


だが――。


すぐに、その背中へ腕を回した。


「心配かけたな」


「……本当に、心配したんですよ」


エレナの声が胸元から聞こえる。


「大地さんがあのクリスタルへ向かっていった時……何かあったらと思って……」


「ごめん」


「……でも」


エレナが顔を上げる。


「戻ってきてくれて……よかったです」


「ああ」


大地は笑った。


「俺も、エレナが無事でよかった」


その様子を少し離れた場所から見ていたリゼが――。


「……」


無言で近づいてくる。


「リゼ?」


「……無茶しすぎ」


「いや……」


「見ていて、怖かった」


リゼの表情はいつもと変わらない。


けれど。


その声には、はっきりとした心配が滲んでいた。


「……ごめん」


大地が謝る。


すると――。


リゼも、大地へ身体を寄せた。


「……無事でよかった」


「ああ」


大地はエレナとリゼ。


二人を同時に抱きしめる。


「二人とも……ありがとう」


「……うん」


「……はい」


短い言葉だった。


けれど――。


それだけで十分だった。


三人が無事だった。


それだけでよかった。


その光景を見ていたバルガスが――。


「……ゴホン」


わざとらしく咳払いをする。


「そろそろ俺たちの存在も思い出してくれないか?」


「……あ」


大地が顔を上げる。


「すみません」


「いや、いいんだがな……」


バルガスは苦笑する。


そして――。


深々と頭を下げた。


「改めて礼を言わせてくれ」


「え?」


「お前がいなければ、俺たちは全滅していた」


バルガスが真剣な表情で言う。


「このダンジョンの調査も、あの少女を助けることも……できなかっただろう」


その後ろで――。


三人の冒険者たちも頭を下げた。


「本当にありがとうございました!」


「兄貴がいなかったら、マジで死んでました!」


「……あんな化け物みたいな魔物を一人で吹っ飛ばすなんて……兄貴は人間ですか?」


「……兄貴?」


大地が首を傾げる。


「はい!」


「いや、俺、兄貴じゃないけど……」


「俺たちの中では、もう兄貴です!」


「……そうか」


大地は苦笑した。


その横で、バルガスが腕を組む。


「しかし……」


バルガスは大地を見る。


「さっきの力……本当にどうなってるんだ?」


「え?」


「俺は高ランクの冒険者を何人も見てきた」


バルガスが続ける。


「だが――」


その視線が、砕け散ったクリスタルへ向く。


「一撃であれを粉々にするような奴は見たことがない」


「……」


「それどころか、あのランク帯の魔物の群れを真正面から素手で蹴散らしていくなんて……」


バルガスが苦笑した。


「Sランクどころの話じゃないぞ」


「そんなに?」


「ああ」


即答だった。


「少なくとも、俺が知る限りでは――完全に規格外だ」


三人の男たちも頷く。


「ですよね、兄貴!」


「だから兄貴じゃないって」


「じゃあ……ダイチの兄貴!」


「増えただけだろ!」


「はははっ!」


緊張が続いていた部屋に――。


ようやく笑い声が響いた。


それからしばらくして。


全員が落ち着いたところで――。


バルガスが砕けたクリスタルへ視線を向けた。


「さて……」


「……ああ」


大地も表情を引き締める。


「ここで起きたことを整理しよう」


全員がクリスタルのあった場所を見る。


そこには――。


砕けた結晶の欠片と。


気を失った白銀の髪の少女がいる。


「まず、あのクリスタルだ」


大地が言う。


「普通の魔力結晶じゃない」


「魔物を生み出していた……」


エレナが続ける。


「はい」


大地は頷いた。


「少女から魔力を吸い上げて、それを使って魔物を作っていたんだと思う」


「そして……あの少女自身が、魔物を生み出すための魔力源だった」


リゼが呟く。


「……酷い」


エルザも険しい顔をする。


「誰が、何のためにこんなことを……」


「それはまだ分からない」


大地は少女を見る。


「この子が何者なのかも分からない」


白銀の髪。


白銀の瞳。


そして――。


エレナとよく似た姿。


気になることはいくつもある。


だが。


ここで話し続けても答えは出ない。


「詳しい話は――」


大地が言った。


「ダンジョンから出て、旅館で話そう」


「そうですね」


エレナが頷く。


「ここでは何が起こるか分かりません」


「それがいいだろう」


バルガスも同意する。


「まずはこの子を安全な場所へ連れていくことだ」


「じゃあ――」


大地は少女を抱き直す。


「帰ろう」


こうして。


長かったダンジョン探索は――。


終わりを迎えた。


◇ ◇ ◇


鉱山からの帰り道――。


夜の森は静寂に包まれており、風が葉を揺らす音が耳心地よい。


「いやぁ……」


歩きながら、男の冒険者が大地を見る。


「改めて考えると、やっぱりおかしいっすね」


「何が?」


「兄貴の強さですよ」


「だから兄貴じゃないって」


「だって一応Aランクの俺たちが苦戦してた魔物を、一発ですよ?」


「……」


別の男が真顔で頷く。


「俺、あれ見た時に冒険者辞めようかと思いました」


「なんでだよ!」


「自分の努力が全部無駄に思えて……」


「いやいやいや!」


大地が苦笑する。


「そんなことないだろ」


「でも兄貴は――」


「また兄貴って言った」


「もう諦めてください」


「なんでだよ!」


そのやり取りを見て――。


バルガスが笑った。


「まあ、気持ちは分かる」


「バルガスまで……」


「お前さんの強さは、正直言って異常だ」


「……そんなに?」


「そんなにだ」


バルガスは即答した。


「Aランク冒険者を基準にしても、比較するのが難しい」


「……」


大地は少し困った顔をする。


その少し前では――。


リゼとエルザが並んで歩いていた。


「短剣の使い方……いや体捌きか?…かなり独特だな」


エルザが言う。


「そう?」


「ああ。踏み込みが小さい」


「その方が懐に入りやすい」


「なるほど……」


二人は歩きながら、戦闘技術について話し込んでいる。


「大剣なら、逆に間合いを広く取る必要がある」


「でも、近づかれたら?」


「その時は――」


エルザが大剣を軽く持ち上げる。


「こうする」


「……なるほど」


どうやら二人とも――。


戦いの話になると止まらないらしい。


一方。


エレナの周囲には、二人の女性冒険者がいた。


「お姉様!」


「……はい?」


エレナが振り返る。


「さっきのアイスランス、どうやってあんなに速く撃ったんですか?」


「えっと……魔力の流れのイメージを――」


「お姉様、ファイアボールと同時に別の魔法を使うコツは?」


「それはですね……」


「お姉様!」


「はい!」


エレナは困ったように笑う。


「お姉様って……」


「だって、すごく格好よかったんです!」


「私も、あんな魔法使いになりたいです!」


「そう言っていただけるのは嬉しいですが……」


エレナは少し照れながら微笑む。


「私はまだまだですよ」


「またまた!」


「絶対嘘です!」


「……」


エレナは苦笑する。


そんな様子を見ながら――。


大地は思った。


「……なんか、帰りは賑やかだな」


さっきまで死ぬかもしれない戦いをしていたとは思えない。


けれど。


それが妙に嬉しかった。


そして――。


ようやく。


『大地の湯宿』が見えてきた。


「……あ」


大地が足を止める。


旅館の門の前に――。


三人の人影が立っていた。


「ダイチ!」


ミレッタだった。


その隣には――。


セリーナ。


そして――。


リディア。


三人とも、こちらを見つめている。


「みんな……」


大地が声を漏らした瞬間。


「ダイチ!」


ミレッタが駆けてきた。


「無事だったんだな!」


「ミレッタ」


「心配したんだからな!」


そう言いながら――。


ミレッタが大地へ抱きつく。


「……無事を信じてましたけれど」


セリーナもゆっくり近づいてくる。


「やっぱり、あなたの顔を見るまでは安心できないものね」


「セリーナさん……」


「おかえりなさい」


セリーナも大地へ抱きつく。


「……ただいま」


その後ろでは――。


「バルガスさん!」


「……げ」


リディアの声が響いた。


「お前……!」


「いや、これはだな――」


「心配かけさせるなぁぁぁっ!」


――ゴンッ!


「ぐはっ!」


リディアの拳がバルガスの頭に直撃した。


「痛ぇ!」


「当たり前です!」


「こっちは死にかけたんだぞ!俺だって好きで心配かけたわけじゃ――」


「言い訳するな!」


「だからって殴ることはないだろ!」


「殴る!」


「二回目はやめろ!」


――ゴンッ!


「ぐあっ!」


「バルガス……」


大地は苦笑する。


「いつものやつだな」


「そうね」


セリーナも笑った。


「戻ってきたって感じがするでしょう?」


「……ああ」


その時。


「……私も」


エレナが一歩前へ出た。


「ダイチさん」


「ん?」


エレナが大地の隣へやってくる。


「私も、もう一度――」


言葉を最後まで言う前に。


大地が腕を広げた。


「おいで」


「……はい」


エレナが大地へ抱きつく。


リゼも――。


少し遅れて近づいてくる。


「……私も」


「もちろん」


大地が笑う。


「ほら」


四人が大地を囲む。


ミレッタ。


セリーナ。


エレナ。


リゼ。


それぞれが、大地の無事を確かめるように寄り添う。


「……なんか」


大地が呟いた。


「帰ってきたって感じ」


「いいじゃないか」


ミレッタが笑う。


「全員無事でなによりだ」


「そうね」


セリーナも笑う。


「みんなで帰ってこられた」


「……はい」


エレナが頷く。


「それが一番です」


リゼも小さく頷いた。


「……うん」


その少し離れた場所では――。


「だから痛ぇって!」


「うるさい!」


「俺、ギルドマスターだぞ!」


「心配させた罰です!」


「理不尽だろ!」


「いつものことだろ!」


バルガスとリディアの言い争いが響いている。


「ははっ……」


大地は笑った。


長い夜だった。


死ぬかもしれない戦いもあった。


謎の少女も助けた。


そして――。


ようやく帰ってきた。


大地は皆の顔を見渡す。


ここが――。


自分たちの帰る場所なのだと。


改めて、そう思った。

お読みいただきありがとうございます。


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