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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第82話】紅影のリゼ


ダンジョンの入口に向かい炭鉱山の中を、三人は足早に進んでいた。


夜の炭鉱の中は静まり返っている。


聞こえてくるのは、入口からの風の音と、三人の足音だけ。


「……静かですね」


エレナが周囲を見渡す。


「ああ」


大地も頷く。


「前に来た時よりも、不気味に感じるな」


「ダンジョンがあると分かっているからでしょうね」


「かもしれない」


その時だった。


「……止まって」


先頭を歩いていたリゼが、二人を静止し、突然足を止めた。


大地とエレナも立ち止まる。


「どうした?」


大地が小声で尋ねる。


リゼは答えない。


ただ、じっと前方の暗闇を見つめている。


そして――。


「そこ」


リゼが小さく呟くと、同時に地面を蹴った。


次の瞬間。


シュッ――!


何かが闇の中を駆け抜けた。


「え?」


大地が目を見開く。


直後――。


ドサッ。


少し離れた場所から、何かが倒れる音がした。


「……え?」


エレナも驚いた表情を浮かべる。


暗闇の中から引き返して来るリゼの手には、いつの間にか二振りの短剣が握られていた。


「魔鉱狼」


リゼが淡々と告げる。


「……もう倒したのか?」


大地が呆然とする。


リゼは何事もなかったかのようにナイフをしまった。


「三匹いた」


「三匹……?」


大地が倒れている魔鉱狼を見る。


確かに――。


三匹とも、一撃で絶命し、横たわっている。


しかも。


大地もエレナも、魔鉱狼が三人に襲い掛かろうとしていることすら認識できていなかった。


「……速い」


エレナが呟く。


「元Aランク冒険者とは伺っていましたが、ここまでとは…」


「昔より調子がいい」


リゼは自分の手を見つめる。


「なんだろう……」


指を軽く動かす。


「身体が軽い」


「温泉の効果か?」


「たぶん」


リゼは小さく笑った。


「昔より、身体のキレがいい」


「……」


大地は倒れた魔鉱狼を見る。


そして、リゼを見る。


かつてAランク冒険者として名を馳せた女。


紅影のリゼ。


その異名は――。


決して伊達ではない。


「……すごいな」


大地が素直に呟く。


「何?」


「いや」


大地は苦笑する。


「紅影って呼ばれてた理由が、少し分かった気がする」


リゼは少しだけ照れたように視線を逸らした。


「……そう」


その頬が、ほんの少しだけ緩んでいた。


◇


さらに進むこと、しばらく。


やがて三人の前に――。


以前は立ち入り禁止となっていた区域が見えてきた。


「ここから先ですね」


エレナが呟く。


「ああ」


大地も頷く。


鉱山の奥。


そこには明らかに人工的に作られたものとは違う、巨大な空洞が口を開けていた。


「……これが」


リゼが入口を見上げる。


「ダンジョン」


「そうだ」


大地が頷く。


その先は――。


光が届かないほど暗い。


「中は、かなり暗そうですね」


「なら――」


エレナが一歩前へ出る。


杖を掲げると、静かに目を閉じた。


「――闇を照らす、静かなる光よ」


淡い光が杖の先に集まっていく。


「我らの歩む道を示し、その輝きを絶やさず――」


光が次第に強くなる。


「《ルミナス・ライト》」


パッ――。


瞬間。


三人の周囲が明るく照らされた。


「おお……」


大地が目を細める。


暗闇だった通路が、まるで昼間のように見渡せる。


「これなら進めますね」


エレナが微笑む。


「便利だな」


「ありがとうございます」


リゼも周囲を見渡す。


「……凄い」


「え?」


「これだけ広い範囲を、ここまで均一に照らせるなんて」


リゼはエレナを見る。


「ルミナス・ライトは燃費が悪い魔法…Bランクで躊躇なく使えるってことは相当魔力量に自信があるってこと」


「魔力量には自信あります。この状態で3日間でも余裕がありますよ」


エレナが嬉しそうに微笑む。


「旅館ではあまり魔法を使う機会がありませんから」


「いや……」


リゼは少し苦笑する。


「そんな魔力量聞いたことない」


そして――。


リゼが先頭へ出た。


「私が先に行く」


「罠か?」


大地が尋ねる。


「そう」


リゼは足元を確認する。


「ダンジョンなら、魔物だけじゃなくて罠も警戒した方がいい」


「分かった」


「私が進んだところを、二人は少し間を空けてついてきて」


「了解」


エレナも頷く。


「私も探索魔法を使います」


「探索魔法?」


リゼが振り返る。


「はい」


エレナは目を閉じる。


「周囲の魔力の流れを探ります」


しばらくすると――。


「……反応があります」


「魔物?」


大地が尋ねる。


「少し先に複数」


エレナは集中する。


「それと……」


「それと?」


「人の気配も感じます」


大地の表情が変わった。


「バルガスたちか?」


「まだ距離があるので、断定はできません」


エレナが答える。


「ですが、人間と思われる魔力反応が複数あります」


「……生きてる可能性があるってことだな」


「はい」


大地は少しだけ安堵した。


「よし。急ごう」


「待って」


リゼが止める。


「急ぐのはいいけど、足元には気をつけて」


「……そうだった」


大地は苦笑した。


「悪い」


リゼは小さく笑う。


「エレナの探索魔法もあるし、かなり助かる」


「ありがとうございます」


「正直、頼もしい」


リゼは前を向く。


「私一人だったら、ここまで正確に周囲を把握できない」


エレナも微笑んだ。


「お役に立てているなら嬉しいです」


三人は慎重に奥へ進んでいく。


◇


しばらく進んだ、その時。


「……止まって」


リゼが手を上げた。


大地とエレナが止まる。


「何かいる」


前方。


暗闇の奥から――。


ズシン。


ズシン。


地面を踏みしめる音が響いた。


「……一体じゃない」


エレナが呟く。


「かなりいます」


「どれくらい?」


「……二十……いや、もっと」


次の瞬間。


闇の奥から、無数の魔物が姿を現した。


「グルルル……!」


「ギャアアア!」


大小様々な魔物たちが、三人を取り囲む。


「これは……」


リゼが二振りの短剣を構える。


「数が多すぎる」


エレナも杖を握る。


「ダイチさん、下がって――」


「いや」


大地が一歩前へ出た。


「俺がやる」


「ダイチ?」


リゼが驚く。


大地は軽く拳を握る。


「二人は背中合わせに固まって安全を優先してくれ、こっちはまとめて片付ける」


「でも――」


「大丈夫」


大地は魔物の群れを見渡し、鑑定スキルを発動させる。

お馴染みとなったメタルリザードや魔鉱狼をはじめ、ケイブビートルやリキッドスライムといったCランクからAランク相当の魔物が約20体襲いかかって来る。


そして――。


大地は腰を落として、腰を連動させた渾身の右ストレートを虚空に放つ。


「せーの」


ブォンッ!!


地面が震えた。


一瞬だった。


大地の拳から放たれた衝撃が真空波のようになって目の前の魔物たちをまとめて吹き飛ばす。


「グギャッ!」


「ギャアアア!」


「ガァッ!」


次々と魔物が倒れていく。


そして――。


静寂。


先ほどまで響いていた魔物の咆哮が、嘘のように消えた。


「……」


リゼは呆然としていた。


エレナも目を丸くしている。


大地は肩を回しながら二人の元に戻る。


「……こんなもんか」


「……」


リゼの頬が、少し赤くなる。


「……かっこいい」


「え?」


大地が振り返る。


「今、何か言った?」


リゼの顔がさらに赤くなる。


すると――。


「……ダイチさん素敵です」


エレナが頬を染めて大地の腕に体を密着させる。


「エレナ?」


「ダイチかっこいい」


エレナを押し退けるようにして、エレナよりも大きく実った胸を押し付ける。


「リゼまでどうした?」


エレナは負けじとリゼを押し退けて、大地に抱きつく。


「ダイチさんが素敵過ぎて、子宮が疼きます」


リゼは対抗して逆側の腕に抱きつく。


「昂った戦士を鎮めるのは前衛役目。エレナは危ないから下がってて」


「役目って……」


エレナが引き攣った顔で微笑む。


「そんな前衛の役目聞いたことないですよ?」


「Aランクパーティにはそういうのがある」


「そんなものないです!」


エレナが頬を膨らませる。


「エレナはずるい!」


「ずるい、ですか?」


「そう!」


「では、どうしましょう?」


「どうしましょうって……」


二人が睨み合う。


「こらこら!」


大地が慌てて二人の間に入る。


「今、ダンジョンだから!危険だから!」


「……」


「……」


二人が同時に大地を見る。


「喧嘩なら帰ってからにしろ」


「「でも……!」」


「でもじゃない」


大地は頭を抱える。


「無事に帰ったら二人一緒にお仕置きだ!」


「………」


「………」


エレナとリゼは顔を見合わせながら赤く染めてる。


「ふ、二人一緒ですか!?」


「……ダイチがそうしたいならいいよ」


「……二人とも何か変な想像しているんじゃないのか?」


狼狽える大地をよそに、エレナが笑い、それを見たリゼも小さく笑った。


「何笑ってんだよ……」


大地は呆れながらも、少しだけ笑う。


しかし――。


その時。


エレナの表情が変わった。


「……待ってください」


「どうした?」


「探索魔法に、反応があります」


「魔物か?」


「いえ」


エレナはダンジョンの奥を見つめる。


「人です」


「……バルガスたち?」


「まだ分かりませんが、恐らくそうでしょうね」


エレナは目を閉じ、さらに魔力を集中させる。


そして――。


「……複数人います」


大地は拳を握る。


「行こう」


リゼも短剣を構え直す。


「うん」


エレナも頷く。


三人は再び、ダンジョンの奥へ向かって歩き始めた。


その先に待っているものが何なのか――。


まだ、誰にも分からなかった。

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