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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第80話】確かな手応え


バルガスたちが鉱山へ向かってから、しばらく。


『大地の湯宿』には、いつもの穏やかな時間が戻っていた。


「……さて」


大地は玄関先から街道の方を眺める。


先ほどまで見えていた冒険者たちの姿も、すでに森の向こうへ消えていた。


「無事に戻ってくるといいな」


「そうですね」


隣に立つエレナが頷く。


「今回の調査対象は、以前ダイチさんたちが訪れた鉱山ですから」


「ああ」


大地は頷いた。


「魔鉱狼やメタルリザード、それに魔鉱巨獣まで出てきた場所だ。Aランクとはいえ、油断はできない」


「はい」


二人がそんな話をしていると――。


「ダイチさん」


後ろから声がした。


振り返る。


そこには、待機を命じられたリディアが立っていた。


「どうしました?」


「少し、ご相談したいことがあります」


「相談?」


「はい」


リディアは少し真剣な表情を浮かべていた。


「こちらでお話ししてもよろしいでしょうか?」


「もちろん」


大地たちは、そのまま旅館の応接室へ向かった。


◇


「それで、相談というのは?」


大地がソファに腰を下ろす。


向かいにはリディア。


隣にはエレナも座っている。


フォルナがゆっくりと全員分の緑茶を運んで来て、全員分配り終えたところで、リディアが口を開く。


リディアは一枚の書類を取り出した。


「冒険者ギルドについてです」


「ギルド?」


「はい」


リディアは書類を机の上に置いた。


「冒険者ギルド本部としては、この地域に、冒険者ギルドの支店を設置したいと考えています」


「……ここに?」


「正確には、この温泉旅館周辺の地域に、です」


大地は少し考える。


「理由を聞いてもいいか?」


「もちろんです」


リディアが説明を始める。


「ダンジョンが発見されたことで、この周辺では魔物の活動が活発になる可能性があります」


「なるほど」


「ダンジョン周辺では、魔物の討伐や素材の採取、護衛、調査など、様々な依頼が増える傾向があります」


「確かに」


「しかし、この場所はクレーベルの街から少し離れております」


リディアは地図を広げた。


「現在は依頼を受けるために、冒険者が一度クレーベルまで戻る必要があります」


「それは不便だな」


「はい」


リディアは頷く。


「そこで本部では、この周辺が再開発をしている旨をアーベル商会経由で聞き及んでおりました。現地を確認した後、支店を設置することを検討しています」


「なるほど……」


大地は地図を見る。


温泉旅館。


アーベル商会の支店。


そして、その周辺へ広がりつつある街。


そこへ冒険者ギルドまで加われば――。


「この辺り、どんどん街みたいになってきたな」


大地が苦笑する。


「そうですね」


エレナも微笑む。


「ですが、それだけ人が集まる場所になっているということでもあります」


「確かに」


大地はリディアを見る。


「俺は構わないですよ」


「本当ですか?」


「むしろ、あったほうが便利だろ」


大地は即答した。


「冒険者が増えれば、この辺りの安全にも繋がる。依頼を受ける場所が近くにあれば、魔物の討伐も早くなるだろうし」


「ありがとうございます」


リディアが頭を下げる。


「本部も、ダイチさんなら快く了承してくださると思っていました」


「それなら、さっそく場所を決めよう」


「ありがとうございます」


◇


その日の午後。


「この辺りならどうでしょう?」


エレナが地図を広げる。


大地とセリーナも、その地図を覗き込んでいた。


「旅館から近すぎると、冒険者の出入りが多くなりすぎるかもしれません」


セリーナが指を動かす。


「ですが、あまり離れてしまうと支店としての利便性が落ちますわ」


「じゃあ、この辺りは?」


大地が指差す。


「アーベル商会の支店からも近いし、旅館からも少し離れてる」


「良いと思います」


エレナが頷く。


「冒険者の方々が利用することを考えても、十分な広さがありますね」


「では、こちらで決めましょう」


セリーナが頷いた。


「職人への手配はこちらで進めておきますわ」


「助かるよ」


「お任せください」


セリーナは微笑む。


「アーベル商会の支店もありますから、資材の調達についても問題ありません」


「仕事が早いな……」


大地は苦笑する。


「何か?」


「いや。セリーナに任せると、話がどんどん進んでいくなと思って」


「それが商人ですもの」


セリーナは涼しい顔で答えた。


「ダイチ様は温泉旅館のことだけ考えていてくださいませ」


「……はい」


大地は素直に頷いた。


こうして――。


冒険者ギルドの支店建設も、正式に動き始めることになった。


◇


夕方に差し掛かる頃


『大地の湯宿』には、少しずつ宿泊客が訪れるようになっていた。


「いらっしゃいませ!」


ミーナの元気な声が響く。


旅館の玄関前に、一台の馬車が停まった。


そこから降りてきたのは、身なりの整った男女。


その後ろには、荷物を持った使用人たちが続いている。


見るからに裕福そうな老齢の夫婦だった。


「ここが……噂の温泉旅館ですか?」


男性が建物を見上げる。


「はい」


大地が笑顔で迎える。


「『大地の湯宿』へようこそ」


「これは立派ですね。長年生きておりますが、初めて見る建築様式ですな」


女性も庭を眺めながら目を輝かせている。


「クレーベルで聞いたのですが、最近こちらが話題になっているとか」


「ありがとうございます」


「噂の温泉というものにも興味がありまして」


「それなら、ぜひゆっくり楽しんでいってください」


「楽しみですわ」


夫婦は嬉しそうに微笑んだ。


その姿を見て――。


大地は少しだけ実感する。


「本当に、お客さんが来るようになったんだな……」


「はい」


エレナが隣で微笑んだ。


「旅館らしくなってきましたね」


さらには、鉱山の方角からも新しい客が来訪する。


「おう!」


「ミレッタ、久しぶりだな!」


旅館の玄関に、今度は数人の男たちがやってきた。


「……おっちゃん達!」


ミレッタが驚いた声を上げる。


やってきたのは――。


例の鉱山で出会った顔見知りの炭鉱夫たちだった。


「元気にしてたか?」


「もちろんだ!」


「ここが噂の温泉か!」


男たちは豪快に笑う。


「鉱山で働いてると、身体がボロボロになるからな!」


「疲労回復に効果があるって聞いたら、来ないわけにはいかねえ!」


「おっちゃん……」


ミレッタは呆れたように笑う。


「仕事終わりに酒飲みに来たんじゃねえだろうな?」


「もちろん酒だ!」


「飲む理由探してるだけじゃねぇのか?」


ミレッタが笑いながら突っ込む。


「ははは!」


男たちも豪快に笑った。


「ダイチ!」


「ん?」


「新しいお客さんだよ!おっちゃん達にも温泉を案内してやってくれ!」


「もちろん」


大地は笑う。


「疲れを取るには、うちの温泉はぴったりだぞ」


「そりゃ楽しみだ!」


炭鉱夫たちは嬉しそうに旅館へ入っていった。


◇


食事処には、今日宿泊する客たちの姿があった。


裕福そうな老夫婦。


その使用人たち。


そして、鉱山帰りの炭鉱夫たち。


客層はバラバラだった。


けれど――。


「いらっしゃいませ!」


ミーナが笑顔で料理を運ぶ。


「こちら、お食事になります」


リリィが丁寧に配膳する。


「お飲み物はこちらです!」


フォルナも一生懸命に動いている。


途中で尻尾がお盆に当たり――。


「わっ!」


「フォルナさん、大丈夫ですか?」


エレナがすぐに支える。


「は、はい!」


「ゆっくりで大丈夫ですよ」


「ありがとうございます!」


フォルナは笑顔で立ち上がる。


「こちら、お料理です!」


その姿を見ていた大地は、ふと笑った。


少し前まで――。


ここには誰もいなかった。


建物を作り。


温泉を掘り。


仲間を集め。


従業員を育て。


そして今――。


客がいる。


笑い声がある。


料理の香りがする。


「……順調だな」


大地が呟く。


「はい」


エレナが隣に立つ。


「本当に、良い始まりだと思います」


セリーナも少し離れたところから店内を眺めていた。


「宣伝の効果も出始めていますわね」


「そうだな」


「これから、さらにお客様は増えていくでしょう」


「……忙しくなりそうだ」


大地は苦笑する。


「ですが――」


エレナが静かに微笑む。


「それも、楽しみではありませんか?」


大地は店内を見渡した。


ミーナが笑っている。


リリィが料理を運んでいる。


フォルナが慌てながらも一生懸命に働いている。


リゼは厨房で料理を作り。


ミレッタは炭鉱夫たちと楽しそうに話している。


ユズキは食事処の隅で、料理の匂いに鼻をひくつかせている。


そして――。


旅館の外では、アーベル商会の支店が営業を続け、冒険者ギルドの新しい支店の建設も始まろうとしている。


少しずつ。


少しずつ。


この場所に、人が集まり始めていた。


「……大地の湯宿」


大地は入口に掲げられた看板を思い出す。


「本当に、ここから始まるんだな」


「はい」


エレナが頷く。


「これから、もっとたくさんの方が訪れる場所になります」


大地は笑った。


「じゃあ――」


「うん」


「頑張るか」


その言葉に、エレナも笑顔で頷いた。


温泉旅館『大地の湯宿』。


その営業は――。


上々の滑り出しを見せていた。

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