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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第75話】歓迎の宴


「それじゃあ――」


エレナがミーナたち三人に微笑みかける。


「まずは、温泉に入りましょうか」


「えっ?」


ミーナが目を丸くした。


「温泉……ですか?」


「はい」


エレナは当然のように頷く。


「これからここで働くのですから、まずは温泉を知ってもらわないといけません」


「で、でも……」


リリィが戸惑ったように周囲を見る。


「私たち、まだ仕事も……」


「仕事のことは後で大丈夫です」


エレナは優しく微笑む。


「今日は歓迎する日ですから」


「そうそう」


ミレッタも腕を組みながら笑った。


「働く前に、まずここの温泉がどんなもんか知ってもらわねえとな」


「……私も賛成」


リゼも短く頷く。


そして。


「もちろん、わたくしもご一緒いたしますわ」


セリーナまで加わった。


ミーナたちは顔を見合わせる。


「……皆さんも?」


「はい」


エレナが頷いた。


「今日は女同士で、ゆっくりお話ししましょう」


「女同士……」


ミーナが少しだけ頬を赤くする。


「……なんだか、緊張します」


「大丈夫ですよ」


エレナが微笑んだ。


「温泉では、身分も種族も関係ありませんから」


その言葉に――。


ミーナたちは、少しだけ肩の力を抜いた。


◇


そして。


女湯。


「わぁ……」


湯気の向こうに広がる大きな浴場を見て、ミーナたちは言葉を失った。


大きな木造りの浴槽。


その向こうには大きな窓があり、外には侘び寂びのある日本庭園が広がっている。


「……すごい」


リリィが呟く。


「こんなに広いお風呂……初めてです」


「まずは身体を洗いましょう」


エレナが三人を洗い場へ案内する。


「ここで身体を洗ってから、お湯に入ります」


「こうですか?」


フォルナが見よう見まねで椅子に座る。


「はい。そうです」


エレナはシャンプーや石鹸の使い方まで丁寧に説明していく。


「こちらがシャンプーです。髪を濡らしてから――」


「す、すごい……」


ミーナが目を輝かせる。


「こんなにいい匂いのするもの、初めてです!」


「これは髪を洗うためのものです」


「へぇ……」


ミーナは興味津々だ。


リリィも手に取って匂いを嗅ぐ。


「いい香り……」


「気に入ってもらえたようでよかったです」


エレナは嬉しそうに微笑む。


そして、三人の髪を見ながら。


「リリィさんは髪が長いので、こちらのトリートメントも使うといいですよ」


「トリートメント?」


「髪を整えるためのものです」


「そんなものまで……」


リリィは驚いた。


「この旅館には、本当に色々なものがあるんですね」


「大地さんが故郷である日本という場所の知識を持っているんです」


エレナが説明する。


「私たちは、それをこの世界で使える形にしているんですよ」


「なるほど……」


ミーナたちは感心したように頷く。


身体を洗い終えると――。


「では、入りましょう」


エレナが湯船を指差した。


「ゆっくり入ってくださいね」


「はい!」


四人が湯船へ入る。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


しばらく誰も喋らなかった。


そして――。


「……あったかい」


ミーナが呟いた。


「はい……」


リリィも目を細める。


「気持ちいい……」


フォルナは完全に力が抜けていた。


「ふわぁ……」


「ふふっ」


エレナが笑う。


「どうですか?」


「最高です……!」


ミーナが即答した。


「これなら毎日入りたいです!」


「皆さんの生活していただく居住棟にも従業員専用の温泉がありますから、仕事終わりに入浴することもできますよ」


「…わぁ…私たちみたいな獣人族が…そんな待遇いいんでしょうか?」


ミーナだけでなく、リリィもフォルナも表情に影を落とす。


「心配しないでください。あなたたちは今まで精一杯生きてきました。これから期待していますよ」


エレナは不安そうな三人を抱きしめる。


「……エレナお姉様とお呼びしても良いですか?」


ミーナたちの目は羨望の眼差しに変わる。


「……お、お姉様…?」


「……ダメでしょうか?」


ミーナたちは寂しそうな目をして、涙を浮かべる。


「わかりました。好きに呼んでください」


エレナは観念したような口調でクスりと笑う。


「やったぁ!……エレナお姉様これからもよろしくお願いします!」


温泉の湯船ではしゃぐ三人を見て、エレナも嬉しそうに笑った。


◇


「ところで――」


ミーナがエレナを見る。


「エレナお姉様って、本当にすごい人ですよね」


「え?」


「綺麗で、優しくて、それに魔法も使えて……」


ミーナは尊敬の眼差しを向ける。


「私たち、昨日からずっと驚いてばかりです」


「そんな……」


エレナが少し照れる。


「私なんて、まだまだですよ」


「謙虚だなぁ」


ミレッタが笑う。


「エレナ程の魔力を持ってるやつ見たことないぞ」


「ミレッタさんも、すごい人ですよね」


リリィが振り返る。


「この旅館の魔道具も全部ミレッタさんが作ったって聞きました」


「まあな」


ミレッタは胸を張る。


「魔道具なら、そこそこ自信があるぜ」


「そこそこ?」


リゼが呟く。


「……国で一番」


「たはは!」


ミレッタはストレートに褒められて、照れながら胸を張る。


「まぁ大したことはないぜ!」


「……ミレッタはすごい」


「まあ……そうだけどよ」


ミーナたちは思わず笑った。


「リゼさんも、お料理がすごいんですよね?」


「……料理は好き」


「昨日聞きました」


リリィが頷く。


「すごく美味しいって」


リゼは少しだけ目を逸らした。


「……普通」


「あんなに美味い食い物食べたことねぇもん」


ミレッタが突っ込む。


「昨日の料理だってダイチがめちゃくちゃ喜んでたじゃねえか」


「……そう?」


「そうだよ」


そして――。


「セリーナさんも、商人としてすごい方なんですよね?」


フォルナが尋ねる。


「ええ」


セリーナは優雅に微笑んだ。


「わたくしはアーベル商会という看板を使って商売をしているだけですわ」


「なんだか……」


ミーナが三人を見る。


「皆さん、すごい人ばかりですね」


エレナ。


ミレッタ。


リゼ。


セリーナ。


それぞれが違う分野で才能を持ち、しかも自分たちのような獣人を自然に受け入れてくれている。


ミーナたちの中に、少しずつ憧れが生まれていった。


「私たちも……」


ミーナが呟く。


「こんな人たちと一緒に働けるんですね」


「はい」


エレナが笑う。


「ですから、一緒に頑張りましょう」


「はい!」


三人の返事が重なった。


温泉の湯気の中で。


昨日までの不安が、少しずつ消えていった。


◇


その日の夕方。


「今日は歓迎会だ!」


大地の声が食事処に響いた。


テーブルには、料理が所狭しと並べられている。


焼き魚。


煮物。


唐揚げ。


だし巻き卵。


野菜の和え物。


そして――。


「これは……?」


ミーナが目を丸くする。


「炊き込みご飯」


リゼが答えた。


「……美味しそう」


「食べてみて」


「はい!」


ミーナが一口食べる。


そして――。


「……!」


目が見開かれた。


「お、おいしい……!」


「本当ですか?」


リリィも一口食べる。


「……!」


「これ……すごいです……!」


フォルナはというと。


「おかわり!」


「早いな!」


大地が笑う。


「まだ一口しか食ってないだろ!」


「だって美味しいんです!」


「ははは!」


食卓に笑い声が広がる。


「こんな料理、初めて食べました」


ミーナが感動したように言う。


「リゼさん……すごいです」


「……ありがとう」


リゼが少しだけ微笑んだ。


そして酒も入ってくると――。


「いやぁ、今日はいい日だな!」


ミレッタが豪快に笑う。


「そうですわね」


セリーナも酒を口にする。


エレナも頬を赤くしていた。


「ダイチさん……」


「ん?」


エレナが大地の隣へ座る。


「今日は、とても嬉しいです」


「そうだな」


「……ですから」


エレナが大地の腕に抱きつく。


「今日は、私が隣にいてもいいですよね?」


「もちろん」


「ちょっと待て!」


ミレッタが割り込んできた。


「エレナだけずるいだろ!」


「え?」


「ダイチ、こっち来いよ!」


「いや、俺はここに――」


「ほら!」


ミレッタが大地の腕を引っ張る。


「……」


リゼが静かに立ち上がる。


「……ダイチ」


「ん?」


「こっち」


「リゼまで!?」


「今日は歓迎会」


「だからって――」


「……私も隣がいい」


「お、おう……」


さらに。


「皆様、少し落ち着いてくださいませ」


セリーナが優雅に立ち上がった。


「わたくしもダイチ様のお隣に座りたいのですが?」


「セリーナさんまで!?」


「当然ですわ」


「いや、席が足りないだろ!」


「では、詰めればよろしいでしょう?」


「そういう問題か!?」


ミーナ。


リリィ。


フォルナ。


三人は固まっていた。


「……」


「……」


「……」


目の前で繰り広げられる光景。


エレナ、ミレッタ、リゼ、セリーナ。


四人の憧れの女性が、一人の男を取り合っている。


「……すごい」


ミーナが呟く。


「これが……旦那様の日常なんでしょうか?」


「た、多分……」


リリィが小声で答える。


「私たち……すごいところに来ちゃったんじゃ……」


「……」


フォルナは黙っていた。


そして。


「旦那様って……こんなにもすごいお姉様方から慕われて、やっぱり凄い方なんだ!」


「本当に……」


三人は同時に頷いた。


◇


その時だった。


「……ん?」


大地が顔を上げる。


「ユズキ?」


入口から、小さな影が入ってきた。


「わん!」


「おう、ユズキ」


ユズキがトコトコと歩いてくる。


そして――。


ミーナたちの前で止まった。


「……?」


三人がユズキを見る。


「……え?」


ミーナの耳がぴくりと動いた。


「この子……」


リリィも目を見開く。


フォルナは尻尾を大きく揺らした。


「まさか……」


三人の顔から、笑顔が消える。


「聖獣……?」


「え?」


大地が首を傾げる。


ミーナが震える声で言った。


「獣人の国では、昔から伝説として語られているんです」


「聖なる獣――」


リリィが続ける。


「大口真神……」


「その子供だと……?」


フォルナがユズキを見つめる。


ユズキは胸を張った。


「わん!」


三人が慌てて立ち上がる。


「ユズキ様!」


「ユズキ様!」


「ユズキ様!」


「え?」


大地が目を丸くする。


「急に様付け!?」


三人はユズキの前に跪きそうな勢いで頭を下げている。


「まさか、本当に聖獣様にお会いできるなんて……」


「こんなところで……」


「感激です……!」


ユズキは得意げに胸を張った。


「わん!」


そして――。


ミーナたちの顔を順番に見て。


「わんわん!」


「……え?」


ミーナが固まった。


「今……何か言いました?」


「わん!」


「……分かる」


リリィが目を見開く。


「この子の言葉……なんとなく分かります」


「え?」


大地が振り返る。


「俺には普通の鳴き声にしか聞こえないぞ?」


フォルナがユズキを見る。


そして――。


「……ユズキ様が、何か言っています」


「何て?」


「えっと……」


フォルナの顔が少しずつ赤くなる。


「……旦那様についてのようですね」


「俺?」


ユズキが尻尾を振る。


「わん!」


「……」


三人が大地を見る。


「旦那様は――」


「ちょっと待て」


嫌な予感がした。


「エレナさんや……」


ユズキがさらに鳴く。


「ミレッタさんや……」


「おい」


「リゼさんや……」


「待て待て」


「セリーナさんとも――」


「ユズキ!」


大地が叫んだ。


しかし。


時すでに遅し。


「交尾を繰り返す……万年発情している性獣だ……そうです」


三人が沈黙する。


エレナたちも固まった。


「……」


「……」


「……」


ユズキは満足そうに尻尾を振っている。


フォルナが小声で言った。


「……かなり仲がいいんですね」


「そうみたいです……」


リリィが頬を赤くする。


ミーナは大地を見つめた。


「……わ、私たちも、気をつけたほうがいいですね」


「何を!?」


大地が叫ぶ。


「いや、何もないからな!?」


ユズキがまた鳴いた。


「わん!」


「だから何を言ってるんだよ!」


大地は頭を抱えた。


「ユズキ……お前、後で覚えてろよ……」


「わん!」


「反省してないな!?」


食事処に笑い声が響く。


ミーナたちも、ついに笑ってしまった。


「ふふっ……」


「はは……」


「でも…こんなに雰囲気がいい場所ははじめてです!」


そして。


大地は周囲を見渡した。


エレナ。


ミレッタ。


リゼ。


セリーナ。


ミーナ。


リリィ。


フォルナ。


そしてユズキ。


少し前まで、この場所には何もなかった。


ただ温泉を作りたい。


そんな思いから始めた場所だった。


それが今では――。


こんなにも多くの人が集まり。


笑い。


食べ。


騒いでいる。


「……まあ」


大地は苦笑する。


「悪くないな」


「ダイチさん?」


エレナが首を傾げる。


「いや」


大地は笑った。


「こういうのも、いいなって思ってさ」


「はい」


エレナも笑う。


ミレッタが酒を掲げる。


「それじゃあ!」


「改めて――」


セリーナも杯を持ち上げる。


「新しい仲間たちを歓迎して」


リゼも静かに杯を掲げる。


「乾杯」


「「「乾杯!」」」


賑やかな声が旅館いっぱいに響き渡った。


ミーナ。


リリィ。


フォルナ。


三人にとって。


この日は忘れられない一日になった。


そして――。


ここが、自分たちの居場所なのだと。


初めて心から思えた夜だった。

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