【第73話】愛の証明
クレーベルの街。
その中心部には、この街で最も格式が高いと言われる高級レストラン『夜蝶の集い』があった。
白い石造りの外観。
大きな窓。
入口には上品な制服を着た店員が立ち、店内には落ち着いた音楽が流れている。
「……こちらクレーベルで一番有名なレストランです。貴族や高位の冒険者や豪商等に人気みたいです」
入口の前で、エレナが目を輝かせた様子で呟いた。
「そうなのか?」
「はい。皇都でも、このような店は限られています」
「じゃあ、今日は奮発するか」
「え?」
大地は笑った。
「せっかく二人で来たんだから」
「……はい」
エレナは嬉しそうに微笑む。
ドレスコードがあるらしく、近くの衣装店で購入する。
大地は薦められるがままに仕立ての良い黒の礼装を購入し着用する。
淡い青の絹でできたドレスを身に纏い、着飾ったエレナは何処から見ても見目麗しい皇女に見え、店員や店内の人々は羨望の目を向ける。
「お待たせいたしました」
「………凄く綺麗だ。似合ってるよエレナ」
「ありがとうございます。ダイチさんも良くお似合いですよ」
顔を二人して赤らめながら、仲良さそうに腕を組み、『夜蝶の集い』への道を歩いてゆく。
目的地までの道へは、以前とは違った意味合いで人が避けていき、二人は人目を避けるように店内へ入っていった。
◇
「美味しい……」
料理を口に運んだエレナが、思わず目を細める。
前菜として、季節の野菜のテリーヌ。
ビシソワーズのような穀物由来の冷製スープ。
魚料理は蟹やホタテを細かく刻んだタルタル。
メインは牛肉のフィレのペッパーステーキ
そして最後のデザートのプディングまで。
エレナはフランス料理のような格式高い料理を、惚れ惚れするようなテーブルマナーで口に運んでゆく。
「気に入った?」
「はい」
エレナは満面の笑みを浮かべる。
「とても美味しいです」
「よかった」
「ダイチさんは?」
「俺も美味しいよ」
「……ふふっ」
エレナは嬉しそうに笑う。
豪華な料理を食べ、ワインを飲みながら、二人だけでゆっくり会話をする。
旅館のこと。
街のこと。
ミーナたちのこと。
そして――。
これまで二人で経験してきたこと。
時間はあっという間に過ぎていった。
店を出る頃には、すっかり夜になっていた。
「美味しかったですね」
「ああ」
「こんなに素敵な時間……」
エレナは街灯に照らされた大通りを歩きながら、ぽつりと呟く。
「幸せすぎるくらいです」
「……?」
大地はエレナを見る。
エレナは笑っている。
けれど――。
どこか寂しそうだった。
◇
二人は街の中心にある女神像がある大きな泉の前までやってきた。
昼間は多くの人で賑わう場所だが、夜になると人影も少ない。
泉の水面に、街灯の光が揺れている。
二人は並んでベンチに腰掛けた。
「……綺麗ですね」
「ああ」
しばらく、二人とも泉を眺めていた。
やがて。
「大地さん」
「ん?」
エレナが口を開く。
「少し……お話してもいいですか?」
「もちろん」
エレナは両手を膝の上で重ねる。
「私……最近、少し怖いんです」
「怖い?」
「はい」
エレナは泉を見つめたまま続ける。
「今の生活が、幸せすぎるんです」
「……」
「温泉旅館を作って。
大地さんと一緒に暮らして。
毎日、リゼさんの温かいご飯を食べて。
好きな人の隣で眠って……」
そこでエレナは、小さく笑った。
「以前の私からしたら、夢のような生活です」
「だったら――」
「でも」
エレナが言葉を遮る。
「だからこそ、怖いんです」
大地は黙って聞く。
「こんな幸せが、いつかなくなってしまうんじゃないかって」
「エレナ……」
「私は、皇国の第一皇女です」
エレナは自嘲するように笑った。
「本来なら、自分の幸せなんて考えてはいけない立場でした」
「……」
「それなのに今は、大地さんに愛してもらえて……」
エレナの声が少し震える。
「こんなにも幸せで……」
そして。
「大地さんの周りには、魅力的な女性がどんどん増えていく」
大地は何も言わない。
「ミレッタさんも。
リゼさんも。
セリーナさんも……」
エレナは胸の前で手を握る。
「皆さん、素敵な方々で、大地さんのことが好きです」
「……」
「皆さん、大地さんと一緒にいる時間があって……」
そこで一度、言葉を止める。
「私は……」
エレナが俯いた。
「私は、本当に大地さんの一番なんでしょうか?」
「……」
「大地さんの周りにいる女性の中で……私は、本当に特別なんでしょうか?」
声が震えていた。
「最近……自信がなくなってしまって」
大地は静かにエレナを見る。
そして。
ゆっくりとエレナの手を取った。
「エレナ」
「……はい」
「ごめん……俺がいい加減だから…今まで、そんなふうに思わせてた?」
「……違います」
エレナは首を横に振る。
「大地さんは、いつも優しくしてくれます」
「だったら」
大地はエレナの目を見る。
「俺の答えは一つだよ」
「……」
「みんな好きだし、とても大切だ」
エレナが少し目を伏せる。
「でも――」
大地は、握った手に少し力を込めた。
「エレナが一番大切だ」
「……!」
エレナが顔を上げる。
「俺にとって、エレナは特別だよ」
「大地さん……」
「最初に出会った時から、ずっとそうだった」
「……」
「一緒に旅をして。
色んなことを経験して。
温泉を作って。
旅館まで作って……」
大地は笑う。
「気がついたら、俺の人生にエレナがいるのが当たり前になってた」
エレナの瞳に涙が浮かぶ。
「だから、心配しなくていい」
「……でも」
「うん」
「私……嫉妬してしまいます」
「知ってる」
「……ミレッタさんにも、リゼさんにも、セリーナさんにも……」
「うん」
「寛大な素振りをみせて、嫉妬してる嫌な女です、私」
「そんなことない」
大地は即座に否定した。
「好きな人を取られたくないって思うのは、普通だろ?」
「……」
「俺だって、エレナが他の男と仲良くしてたら嫌だよ」
「本当ですか?」
「本当……まぁ他の女に目移りする俺が言えた義理はないけどな」
エレナが少しだけ笑った。
「……ふふ」
「だから」
大地はエレナの手を包む。
「これからも嫉妬していい」
「……」
「不安になったら、俺に言って」
「はい」
「不安にさせないように、それ以上に愛情を伝えるから」
「……はい」
エレナの頬を、一筋の涙が伝った。
けれど。
その顔には笑顔が浮かんでいる。
「……ダイチさん」
「ん?」
「私は……ダイチさん以外に身も心も許すことはありません」
「知ってるよ」
「ずっと、私の一番でいてください」
「ああ」
大地は微笑んだ。
「ずっと」
エレナは大地の肩に頭を預ける。
「……幸せです」
「俺も」
泉の水面が静かに揺れている。
街の喧騒も遠い。
二人だけの時間だった。
◇
「……ダイチさん」
「ん?」
「このまま……宿に行きませんか?」
「宿?」
エレナが少し恥ずかしそうに頷く。
「は、早く……愛し合いたいんです」
大地は微笑んだ。
「分かった」
二人は立ち上がる。
そして向かったのは――。
この街で最も格式の高い宿だった。
◇
「……すごいな」
部屋に入った大地が、思わず声を漏らす。
広い部屋と装飾。
上質な家具。
大きな天蓋付きのベッド。
窓からは、夜のクレーベルを一望できる。
「ここ……一泊だけでも、かなりするんじゃないか?」
「……そうですね」
エレナが苦笑する。
「でも、今日はいいんです」
「エレナ?」
エレナが大地へ歩み寄る。
「今日は……私のことだけ見て、私のことだけを愛してほしいんです」
「もちろん」
大地が答えると――。
エレナはそっと大地の胸に顔を埋めた。
「……ダイチさん」
「うん」
「さっき……嬉しかったです」
「何が?」
「私が一番だって言ってくれたこと」
「本当のことだから」
「……もう一度、聞いてもいいですか?」
「何度でも」
大地はエレナを抱きしめる。
「エレナが一番大切だよ」
「……はい」
エレナは顔を上げる。
そして、二人の距離がゆっくりと縮まる。
唇が重なる。
一度。
そして、もう一度。
離れては見つめ合い、また自然に抱きしめ合う。抱きしめると同時にエレナの細い腰を撫で、嫋やかな臀部へと手を伸ばす。
「……あ、あの…ダイチさん」
「ん?」
「し、嫉妬ばかりしてしまう…だ、駄目な私にお仕置きしてください」
「そうだな…今日は一晩中分らせないといけない。かわいいエレナの反応を堪能するとしよう」
エレナは顔を赤らめて、期待する眼差しを向け、嬉しそうに微笑む。
「……お願いします」
舌を絡め合い唾液を交換しながら、お互いが乱暴に衣服に手を掛ける。
「……ん…ちゅ……ぁ…はぁ…ん…」
ドレスを剥ぎ取られたエレナは月明かりに照らされて、艶やかな肢体を晒している。
「相変わらず綺麗だ…エレナ」
「ーーーーんっ!」
エレナの蠱惑的な双丘の先端を爪弾き、大地の膝を使って、エレナの秘められた花弁に滑り込ませて少しずつ開いてゆく。
「………あ、ありがとうございます」
滑り込ませた大地の太腿は、止めどなく溢れる蜜により、濡れそぼり、部屋は甘い官能的な匂いで埋め尽くされている。
ーーもう準備はできているようだ。
部屋を充満する淫靡な薫りは、二人の思考を奪い、ただ恥肉を貪る獣へと豹変させてゆく。
「……ぁん……ダイチさん…」
大地はエレナの朱に染まった耳元で優しく囁く。
「こんなに濡らして、だらしのない女だ」
大地は月明かりによりテラテラと妖しく光ったエレナの秘部に指をなぞらせる。
「……ご、ごめんなさぃ…んっ…はしたないエレナをお赦しくださ…ぃ」
指先をメトロノームのように一定のリズムを刻みながら動かすと、静寂の中に淫靡な水音が響き渡る。
「いつから濡らしていたんだ?」
次は緩急を付けながら、秘部の中を掻き分けて、エレナの最も敏感な蕾を爪弾く。
「ーーーーーーーーーっ!!」
エレナはビクビクと体を痙攣させ、虚で焦点が合わない目は何処を向いているのか、快楽に溺れ、恥肉を弛緩させてゆく。
「…は、はい……さ、最初からです……食事の時にはっ……ぁ…下着がぐしょぐしょで…は、履き替えました…」
物寂しそうにしている果実のような双丘を乱暴に揉みしだき、屹立した先端を露わにさせる。
「……これでハイデンベルク皇国の皇女だと?……娼館にいる卑しいエルフじゃないのか?」
その言葉に一瞬、生気を目に宿らせる。
「……そ、そんな…わ、私は……!」
「違うのか?だったらお前は何者なんだ?」
しかし、秘部を這う指先はギアを一気に上げて、激しく荒々しく、エレナの内壁を擦り上げる。
すると、目から力は失われ、エレナから溢れる甘い蜜は自分自身の足や大地の手をつたい、足元の水溜りを大きくしてゆく。
「……わ、私は……ダイチさんに悦んでもらう為だけの卑しい…ぁん…玩具です」
「ーーーーーーーーーーーッ!!」
エレナは体を痙攣させ、呼吸に肩を踊らせながら、力なく真下にある水溜りに座り込む。
「……ぁ…ん……はぁ…はぁ…はぁ…」
呆然と座り込んだ状態のまま、エレナは大地の下腹部にある雄々しく屹立したものを物欲しそうな目で見上げる。
「なら悦ばせてもらおうか」
「……はぃ…精一杯ご奉仕させていただきます」
ーーこの夜は誓い。
ーーこの夜は赦し。
豪奢な一室で愛に溺れ合う二人を邪魔するものはなく、ただ唯一、重なり合う二人を引き裂いたのは太陽という存在だけであった。




