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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第68話】アーベル商会の一団


それから――。


数日が経った。


温泉旅館の建設は、着実に進んでいた。


本館そのものはすでに完成している。


けれど、宿として本格的に営業を始めるためには、まだまだ準備しなければならないことが多い。


家具。


寝具。


厨房設備。


アメニティ。


魔道具。


周辺施設。


そして、実際に宿を運営するための細かな備品。


それぞれが、それぞれの仕事に追われる日々が続いていた。


そんな中――。


「……できた」


離れの一角。


そこには、新しく建てられた小さな家があった。


大地とエレナの家。


ミレッタの工房。


そして、その隣に新しく増築された――。


「リゼの家だな」


大地が建物を見上げる。


木造を基調とした、落ち着いた雰囲気の家。


決して大きくはない。


けれど、一人で暮らすには十分な広さがある。当然温泉も設置されている。


厨房も備えられており、料理人として生活するリゼのために、使いやすいように設計されていた。


「……私の家」


リゼが玄関先に立っている。


その表情には、どこか信じられないような色が浮かんでいた。


「うん」


大地は笑う。


「ここがお前の家だ」


「……」


リゼはしばらく黙っていた。


店を失い。


住む場所を失い。


一人で生きていくしかないと思っていた。


それが今では――。


自分だけの家がある。


「……ありがとう」


小さな声だった。


「どういたしまして」


「大切にする」


リゼはそう言って、家の中へ入っていった。


そして――。


その数分後。


「……これ、厨房?」


「そうだぞ」


「……すごい」


リゼの目が輝いた。


そこには、料理をするために必要な設備が一通り揃えられていた。


「これなら……」


リゼは包丁を手に取る。


「料理ができる」


「まあ、それが目的だからな」


「……じゃあ、使ってみる」


「今から?」


「うん」


リゼは即答した。


「ダイチの故郷の料理、まだ覚えたい」


「……」


大地は苦笑する。


「本当に料理が好きなんだな」


「好き」


リゼは迷いなく答えた。


そして――。


その日から。


リゼは、暇さえあれば厨房に籠もるようになった。


朝食が終われば料理の研究。


昼も料理の研究。


夕方になっても料理の研究。


時には大地を捕まえて――。


「これ、どう?」


「ん?」


「昨日教えてもらった煮物」


「おお……」


大地が味見をする。


「かなり近いな」


「本当?」


「うん」


リゼの顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ、次」


「次?」


「別の料理も覚えたい」


「……吸収が早すぎないか?」


大地は思わず呟いた。


リゼの料理への理解は、想像以上に早かった。


出汁の取り方。


醤油や味噌の使い方。


砂糖や酢との合わせ方。


焼く。


煮る。


蒸す。


揚げる。


それぞれの調理法を覚えるだけではない。


日本料理特有の、素材そのものを活かす考え方まで理解し始めていた。


そして――。


「……すごい」


大地は厨房で、リゼの手元を見つめていた。


包丁が、まるで踊るように動いている。


トントントン――。


均一に切り揃えられていく野菜。


さらに。


「……そこまでできるのか?」


大地が驚く。


リゼが手にしているのは、一枚の野菜。


包丁を細かく入れながら、形を整えていく。


花。


葉。


細かな飾り。


懐石料理で使われるような、食材そのものを美しく見せる細工だった。


「こう?」


「いや、こういうのは日本人でも簡単にはできないぞ……」


「……楽しい」


リゼは淡々と言う。


そして、完成した飾り切りを皿へ並べた。


「……綺麗だな」


「料理は、味だけじゃないから」


リゼは小さく笑った。


「見た目も大事」


「……なるほど」


大地は感心する。


これなら――。


本当に、この宿の料理を任せられる。


そう思えるほどだった。


◇


一方――。


「……ふぅ」


別の場所では、エレナが作業を続けていた。


宿の周辺整備。


土地の整地。


庭の仕上げ。


通路の調整。


それらは、ほぼ終わりを迎えていた。


「これで、ひとまず土地の整備は完了ですね」


エレナは周囲を見渡す。


以前は森と土だけだった場所。


そこには今、旅館があり。


庭があり。


石畳の道があり。


店舗や施設が並び始めている。


「……ずいぶん変わりました」


エレナは少しだけ嬉しそうに笑う。


そして今、エレナが力を入れているのは――。


「アメニティですね」


宿泊客が使う、さまざまな品の生産だった。


シャンプー。


トリートメント。


ボディソープ。


そして――。


「この香りも、いいですね」


エレナが小瓶を手に取る。


中には、淡い色をしたオイルが入っている。


ロウリュで使用するための香り豊かなオイルだ。


ハーブや薬草を使い、それぞれの香りや効能を考えながら調合している。


「これなら、サウナに入る人にも喜んでもらえそうです」


さらに。


旅館内で使用するだけではない。


「店頭販売分も、もっと必要ですね」


宿泊客が気に入った商品を、そのまま購入して持ち帰れるようにする。


温泉。


サウナ。


そして――。


その余韻を、自宅でも楽しんでもらう。


「ダイチさんが考えていた通りになってきましたね」


エレナは瓶を並べながら微笑んだ。


「せっかくなら、宿だけで終わらせない方がいいですから」


一つ一つの商品を丁寧に確認しながら、エレナは生産量を増やしていく。


「まだまだ作らないといけませんね」


◇


そして――。


「……よし」


ミレッタの工房では、また別の作業が進められていた。


「これで……どうだ?」


巨大な魔道具を前に、ミレッタが腕を組む。


その目の前にあるのは――。


大きな箱型の魔道具。


「冷蔵庫だ」


大地が横から覗き込む。


「おお……」


扉を開ける。


中には十分な収納スペースがある。


「温度は一定に保てる」


ミレッタが説明する。


「魔力を使って内部の温度を下げて、食材が傷まないようにする」


「……すごいな」


「これくらいなら簡単だ」


ミレッタは得意げに胸を張る。


だが。


その隣には、さらに奇妙な魔道具が置かれていた。


「で、こっちは?」


「自動販売機」


「……本当に作ったのか」


「作れって言ったのはダイチだろ?」


「まあ、そうだけど」


大地は苦笑する。


旅館の休憩所やゲームコーナーなどで飲み物を販売するための設備。


硬貨を入れる。


商品を選ぶ。

と言っても、まだ内容は瓶詰めのコーヒー牛乳と牛乳のみなんだがな。


そして――。


「ガコン」


「……出た」


「当たり前だろ」


ミレッタが呆れたように言う。


「構造は最初に工房で打ち合わせした通りだ。ダイチが仕組みを説明して、私が魔道具として成立する形にした」


「いや、それでも凄いよ」


大地は自動販売機を眺める。


「俺が頭の中で説明したものを、本当に形にするんだからな」


「……まあ、あたしは天才だからな」


ミレッタは少し得意げに笑った。


「これくらいできなくてどうする」


「やっぱり天才なんだな……」


「今さら気づいたのか?」


「はいはい」


大地は苦笑する。


構想を考えるのは大地。


それを異世界の技術として成立させるのは、ミレッタ。


二人の役割が、少しずつ形になっていく。


「次は何を作る?」


「まだまだあるぞ」


ミレッタは楽しそうに笑った。


「温泉宿なんだから、必要な魔道具は山ほどあるからな」


◇


そして――。


大地自身も、暇ではなかった。


「……よっと」


両腕に大きな荷物を抱えている。


「ダイチさん、大丈夫ですか?」


エレナが心配そうに声を掛ける。


「これくらい平気だよ」


大地は笑う。


温泉の効果で身体能力を強化できる大地にとって、この程度の荷物は問題ではない。


「客室用の家具だな」


机や椅子。


棚や布団。


職人が丁寧に仕上げた家具や寝具をそれぞれの部屋に運び込んでいく。


「この部屋はこれで終わり」


大地は家具を置いていく。


「次は二階の奥か」


さらに休憩所。


受付。


食事処。


それぞれに必要な家具を搬入していく。


「フロントにはこれ」


「休憩所にはこの椅子を」


「食事処にはテーブルを――」


気づけば、朝からずっと動きっぱなしだった。


「……」


大地は一度、窓の外を見る。


数日前まで何もなかった場所に、少しずつ人の生活が生まれている。


「本当に……宿になってきたな」


そう呟いた、その時だった。


遠くから――。


「……ん?」


人の声が聞こえてきた。


大地は玄関の方へ視線を向ける。


石畳の道の向こう。


複数の人影がこちらへ向かって歩いてくる。


先頭に立っているのは――。


「……あれは」


見覚えのある女性だった。


艶やかな栗色の髪。


上品な身なり。


そして、どこか隙のない優雅な立ち姿。


「セリーナ……さん?」


大地が目を細める。


その後ろには、複数の商人らしき人物たち。


馬車まで連なっている。


どうやら、ただの訪問ではない。


かなりの人数だ。


「……アーベル商会か?」


大地は玄関へ向かう。


やがて。


一団が旅館の正面門へ到着する。


セリーナが馬車から降りると、周囲を見渡した。


完成したばかりの旅館。


整えられた庭。


石畳の道。


建設途中の店舗。


そして――。


その中心に堂々と建つ、日本風の温泉旅館。


セリーナはしばらく無言で眺めていた。


そして。


「……見違えましたわね」


「すごいでしょう?」


大地が笑う。


「数日前とは、まるで別の場所みたいでしょう?」


セリーナは大地へ視線を向ける。


「ええ」


そして――。


その瞳を細めた。


「流石はダイチ様ですわ。……ですが、今日は旅館を見に来ただけではありませんの」


「……?」


大地が首を傾げる。


セリーナは優雅に微笑んだ。


「本日は、アーベル商会としてのお話をしに参りました」


「商会として?」


「はい」


その言葉に、大地の表情が少し変わる。


旅館の完成。


日本料理。


アメニティ。


温泉。


そして、それらを支える商品。


これから、この場所を本格的に動かしていくためには――。


商人との関係も避けては通れない。


セリーナは、旅館を見上げた。


「これほどの施設を、商人として見過ごすわけにはいきませんもの」


「……なるほど」


大地は苦笑する。


「それで、今日は何の話なんですか?」


セリーナは扇子を軽く閉じる。


「それは――」


一拍置いて。


「これから忙しくなりますわ。ひとまず中で、ゆっくりお話しいたしましょう」


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