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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第65話】朝食と少し大胆な彼女


朝。


森の中に建つ温泉宿を、柔らかな朝日が照らしていた。


夜の静けさはすっかり消え、木々の間からは鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。


大地は、ゆっくりと目を開けた。


「……朝か」


身体を起こし、大きく伸びをする。


昨日は、本当に色々なことがあった。


クレーベルで起きた一件。


リゼとのこと。


そして――。


温泉宿へ戻ってきてからの、まさかの締め出し。


「……」


大地は遠い目をした。


昨夜。


リゼとミレッタは、新しく完成した家に泊まることになった。


もちろん、大地もそこへ向かおうとした。


しかし――。


『大地さんは、温泉宿で寝てください』


『そうだぞ。男は立入禁止だ』


『え?』


『三人で話したいことがあるんです』


『いや、俺も住人なんだけど……』


『ダイチ』


『はい』


『女三人の夜に入ってくるのは野暮だろ?』


『……』


結局。


大地は泣く泣く温泉宿で一人、眠ることになった。


その後も、新居の方からは時折、三人の楽しそうな笑い声が聞こえていた。


「……何を話してるんだよ」


布団の中でそう呟く。


とはいえ――。


三人が仲良くなったのなら、それはそれで嬉しい。


大地はそう自分に言い聞かせながら、大地は寂しく眠りについたのだった。


◇


翌朝


「……ん?」


どこからか、音が聞こえてくる。


トントン。


トントン、トントン。


一定のリズムで響く、軽快な音。


「この音……」


大地は耳を澄ませる。


トントン。


トントン、トントン。


「……厨房か?」


まだ朝も早いというのに。


大地は厨房へ向かった。


扉を開ける。


すると――。


「……あ」


そこにいたのは、リゼだった。


桃色の髪を後ろでまとめ、簡素な作業着に身を包んでいる。


その手には包丁。


まな板の上には、色とりどりの野菜が並べられていた。


リゼは大地の気配に気づくと、手を止める。


「……ダイチ」


「おはよう、リゼ」


「……おはよう」


リゼの頬が、ほんのりと赤くなる。


昨夜のことを思い出したのかもしれない。


「こんなに早くから起きてたのか?」


「うん」


リゼは再び包丁を握る。


トントン、トントン。


迷いのない包丁さばき。


野菜はあっという間に、均一な大きさへ切り揃えられていく。


「すごいな……」


大地は思わず感嘆の声を漏らした。


「もう朝食を作ってるのか?」


「……うん」


「俺も手伝うよ」


「大丈夫」


リゼは首を横に振る。


「私には……これくらいしかできないから」


「……?」


リゼは少しだけ俯いた。


「ダイチには、助けてもらってばかりだから」


包丁を握る手が、一瞬だけ止まる。


「だから……私には料理で恩返しするしかない」


「リゼ……」


大地は少し驚いた。


昨日までのリゼは、どこか自分を責めるようなところがあった。


けれど今は違う。


自分にできることを、自分の意思でやろうとしている。


「ありがとう」


大地は素直にそう伝えた。


「でも、恩返しなんて気にしなくていいぞ」


「……ううん」


リゼは首を横に振った。


「私がしたいから」


「……そっか」


「うん」


リゼは小さく笑う。


「だから……今日は私に任せて」


「じゃあ――」


大地は袖をまくった。


「俺も手伝う」


「……いいの?」


「もちろん」


リゼは少し嬉しそうに頷いた。


「……ありがとう」


二人で並んで厨房に立つ。


リゼが食材を切り、大地がそれを受け取って鍋へ入れていく。


火加減を調整し、スープを煮込む。


別のフライパンではベーコンを焼く。


その横では卵がじゅうじゅうと音を立てていた。


厨房に、食欲をそそる香りが広がっていく。


そして――。


大地は、改めてリゼの手際の良さに驚かされていた。


野菜の切り方。


火加減。


調味料を入れるタイミング。


どれも迷いがない。


「本当に手際がいいな」


「料理は……ずっとやってきたから」


「なるほど」


リゼの動きには、長年の経験が染みついている。


包丁を使う姿も。


鍋を扱う姿も。


一切の無駄がない。


「これなら、宿の料理も安心して任せられそうだな」


「……本当に?」


「ああ」


大地が笑う。


「むしろ俺が教えてもらいたいくらいだ」


リゼは少し嬉しそうに笑った。


その時だった。


リゼが身体を動かす。


そのたびに――。


「……」


大地の視線が、ふと止まった。


料理に集中していたはずなのに。


目の前で動くリゼの胸元へ、どうしても視線が引っ張られてしまう。


「……」


(デカい…!)


大地は慌てて目を逸らす。


しかし。


数秒後。


また見てしまう。


「……」


(まさに凶器……!)


そして、また逸らす。


そんな大地の様子を――。


リゼはしっかりと見ていた。


「……ダイチ」


「ん?」


「さっきから、私の胸を見てる」


「――っ!?」


大地の動きが完全に止まった。


「いや、これは、その……」


「……気になる?」


「……」


リゼは包丁を置いた。


そして、大地へ身体を向ける。


「触ってもいい」


「……え?」


大地の目が丸くなる。


「いやいやいや!」


「嫌?」


「いや、触りたいけど!」


「じゃあ、いい」


「そういう問題じゃなくてだな!」


大地が慌てる。


しかし、リゼはどこか真剣な表情をしていた。


「昨日、ダイチは私を助けてくれた」


「……」


「私は……ダイチに何か返したい」


「だからって――」


「それに」


リゼは少しだけ頬を赤くする。


「ダイチが気になるなら……私は嫌じゃない」


「……」


大地は固まった。


「……本当に?」


「うん」


「後悔しない?」


「しない」


リゼは小さく頷いた。


大地はしばらく迷った。


けれど――。


「……じゃあ」


恐る恐る手を伸ばす。


そして――。


そっと触れた。


「……」


「………んっ…」


二人の間に、妙な沈黙が流れる。


柔らかな感触に、大地は鷲掴みにした手をワナワナと広げ、驚愕している。


「……」


数秒後。


大地は慌てて手を離した。


「……思った以上だった」


「……そう」


リゼの頬も赤い。


けれど、その表情にはどこか満足そうな笑みが浮かんでいた。


「……これで、少しは恩返しになった?」


「料理の手伝いをしてる途中で、何の話をしてるんだよ……」


大地は頭を抱える。


リゼは小さく笑った。


「ふふ」


「……リゼ、昨日より積極的になってないか?」


「エレナとミレッタに……色々教えてもらったから」


「……あの二人、何を教えたんだ?」


「秘密」


「ですよね……」


大地は遠い目をした。


◇


しばらくして。


厨房には、香ばしい匂いが広がっていた。


テーブルの上に並べられたのは――。


焼きたてのライ麦パン。


色とりどりの野菜をたっぷり使った、栄養満点の野菜スープ。


カリカリに焼かれたベーコンと、その隣には黄身がとろりとした半熟の目玉焼き。


そして、新鮮な野菜を盛り合わせたサラダ。


どれも派手な料理ではない。


けれど、一皿一皿に丁寧な仕事が施されていた。


大地は並べられた料理を見て、思わず感嘆する。


「……すごいな」


「うん?」


「朝からこんなに作ったのか?」


「うん」


リゼは頷く。


「朝は、ちゃんと食べた方がいいから」


「なるほど……」


大地は料理を眺める。


これまで大地が作ってきた食事は、味や手軽さを優先することが多かった。


もちろん、肉や野菜を使うことはあった。


だが――。


ここまで栄養バランスを考えて、一食を組み立てたことはなかった。


「俺にはなかった発想だな……」


「そう?」


「うん。俺なら、腹がいっぱいになればいいって考えちゃうから」


「……それじゃ駄目」


リゼは少しだけ頬を膨らませた。


「身体を使う仕事なんだから、ちゃんと食べないと」


「はい……」


大地は素直に頷く。


その様子を見て、リゼが小さく笑った。


「だから、これからは私が作る」


「……ありがとう」


大地は、改めて料理を見る。


焼きたてのライ麦パン。


野菜の旨味が溶け込んだスープ。


香ばしいベーコン。


半熟の目玉焼き。


そして、新鮮なサラダ。


「……やっぱり、リゼを連れて来て正解だよ」


「…がんばる」


そこへ――。


「おはようございます」


エレナが厨房へ顔を出す。


「おはよう、エレナ」


大地が振り返る。


その後ろから、ミレッタも姿を見せた。


「おっ、いい匂いだな!」


さらに、宿の建設を手伝っている職人たちも、次々と起きてくる。


「朝飯か?」


「腹減ったなぁ」


「昨日遅かったからな」


食卓へ料理が並べられていく。


そして――。


「いただきます!」


全員が料理へ手を伸ばした。


「……!」


「うまい!」


「なんだこれ!?」


職人たちから、次々と声が上がる。


「パンが焼きたてだ!」


「スープも野菜の味がしっかり出てる!」


「このベーコン、香ばしくて最高だな!」


「卵も半熟でうまい!」


エレナも目を丸くしていた。


「これは……とても美味しいです」


ミレッタも夢中で食べている。


「リゼ、これすげえな!」


「……ありがとう」


リゼは少し照れながら答える。


大地はそんなリゼを見て、嬉しそうに笑った。


「やっぱりリゼに料理を任せて正解だったな」


「……うん」


リゼの頬が、また赤くなる。


朝食は、あっという間になくなった。


「ごちそうさまでした!」


職人たちは満足そうに立ち上がる。


「よし、今日も仕事だ!」


「今日は何をするんだ?」


ミレッタが答える。


「今日は宿の周辺整備だな」


「それと、近隣の店の建設も進めます」


エレナが続ける。


「従業員の方々が暮らせる居住スペースも必要ですから」


宿が完成したとはいえ、やることはまだまだ残っている。


宿の周辺を整え。


近隣の店舗を建て。


将来的に働く従業員のための住居も用意する。


本格的な温泉宿として動き始めるための準備が、ここから始まるのだ。


「じゃあ、行ってくるな」


ミレッタが立ち上がる。


「エレナも、行こう」


「はい」


エレナも頷く。


そして二人は、厨房に残っているリゼを見る。


「……」


「……」


一瞬。


二人の視線が交差する。


ミレッタがニヤリと笑う。


エレナも、ほんの少しだけ微笑んだ。


「……?」


大地だけが、何のことかわからず首を傾げる。


「それじゃあ、ダイチ」


「ん?」


「後は頼んだぞ」


「おう」


二人が外へ出ていく。


その直前。


エレナが振り返り――。


リゼへ、小さく頷いた。


リゼも、ほんの少しだけ頷き返す。


「……」


大地だけが取り残された。


「……何だったんだ?」


当然、答える者はいない。


やがて。


厨房には、大地とリゼの二人だけが残った。


「……」


「……」


妙な沈黙が流れる。


大地が食器を片付けようとすると――。


「大地」


「ん?」


「この宿で出す料理について……聞きたい」


「料理?」


「うん」


リゼは大地の隣へ並ぶ。


「大地の故郷の料理」


「ああ」


大地は少し考える。


「日本の料理か」


「日本……」


「俺の故郷の名前だ」


リゼは興味深そうに頷いた。


「どんな料理がある?」


「色々あるぞ」


大地は指を折りながら話し始める。


「米を使った料理とか、魚料理とか、肉料理とか。あと――」


「温泉から上がったあとに食べたくなる料理は?」


「え?」


「温泉宿なら……温泉から上がったあとに食べたくなる料理も必要だと思う」


「……確かに」


大地は腕を組む。


「それなら、まずは――」


大地が料理の説明を始める。


その隣で、リゼは真剣に聞いていた。


時折、質問を挟み。


大地の話を一つひとつ覚えていく。


そして――。


「……リゼ」


「何?」


「なんか近くないか?」


「そう?」


「そうだよ」


気づけば、肩が触れそうなほど近い。


リゼは少しだけ笑った。


「料理を教えてもらうなら、このくらい近い方がいい」


「いや、距離は関係ないだろ」


「……そう?」


リゼは首を傾げる。


そして――。


大地の顔を、じっと見つめた。


「大地」


「ん?」


「昨日……私のこと、好きになったって言ったら……困るって言ってた」


「ああ」


「でも……嫌ではないんだよね?」


「……」


大地は答えに詰まる。


リゼは一歩だけ近づいた。


「なら……」


少しだけ頬を赤らめながら。


「私にも、チャンスはある?」


「リゼ……」


「私、頑張るから」


その言葉には、昨日までの彼女にはなかった強さがあった。


失ったものを取り戻すためではない。


新しく手に入れた居場所を、大切にするために。


そして――。


自分が好きになった人の隣へ行くために。


リゼは、大地へ微笑んだ。


「だから……料理も、恋も」


「……」


「ちゃんと覚えていく」


大地は思わず苦笑する。


「最後の一つは、誰が教えるんだよ?」


「……ダイチ」


「俺!?」


リゼは、くすりと笑った。


朝の陽射しが差し込む厨房で。


新しい温泉宿の一日が、静かに始まろうとしていた。

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