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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第6話】薬草採取のはずなのに


大地は、街の外れに立っていた。


背中には、冒険者ギルドから借りた小さな籠。


腰には、同じくギルドから借りた短いナイフ。


そして手には、昨日受け取った依頼書。


「薬草十束……」


大地は、もう一度依頼内容を確認する。


依頼内容はいたって簡単。


指定された薬草を十束採取して、ギルドへ持ち帰る。


それだけだ。


「これを集めれば、報酬がもらえる」


金額にすれば、決して大きな額ではない。


それでも――。


大地にとっては、この世界に来て初めて、自分の力で稼ぐ金だった。


前の世界では、会社から与えられた仕事をこなし、その対価として給料を受け取っていた。


しかし、今は違う。


自分で仕事を探し、自分で動き、自分で報酬を得る。


たったそれだけのことなのに、不思議と胸が高鳴った。


「よし」


大地は拳を握る。


「やってやる!」


「張り切るのはいいですが――」


突然、後ろから声がした。


「無理はしないでくださいね」


「エレナさん!」


振り返る。


そこには、エレナが立っていた。


「薬草の種類をお教えするのを忘れてましたし、ダイチさん一人では危険ですから」


「危険?」


「街の外ですからね。魔物が出る可能性もあります」


「……あ」


すっかり忘れていた。


この世界には、魔物がいる。


昨日スライムに遭遇したばかりなのに、薬草採取に夢中になって完全に油断していた。


「そういえば、そうでした」


「念のため、私も一緒に行きます」


「ありがとうございます!」


大地は素直に頭を下げる。


そして、すぐに顔を上げた。


「じゃあ、さっそく行きましょう!」


「はい」


二人は並んで、森へと向かった。


◇


街から少し離れた場所にある森。


木々が生い茂り、地面には落ち葉が積もっている。


鳥の鳴き声。


風で揺れる木々。


遠くから聞こえる、正体の分からない獣の声。


日本にいた頃なら、こんな場所を歩く機会などほとんどなかった。


「なんか……」


大地は周囲を見回す。


「エレナさんについてきてもらってよかったです」


「そうですか?」


「だって、普通に魔物がいるんですよ?」


「そう言われると、確かにそうですね」


エレナは苦笑する。


「私たちにとっては、これが普通なので忘れていました」


「文化の違いってやつですね」


そんな話をしながら、二人は森の中を進んでいく。


しばらく歩いたところで、エレナが足を止めた。


「この辺りです」


「ここ?」


「はい」


エレナはしゃがみ込み、地面を指差す。


「この葉です」


「これが薬草?」


大地も隣にしゃがみ込む。


そこには、地面から伸びた小さな緑色の葉があった。


一見すると、ただの雑草にしか見えない。


「……普通の草にしか見えませんけど」


「最初はそう思いますよね」


エレナは一本の葉を手に取る。


「ですが、この葉には傷口の治癒を助ける成分が含まれています」


「へぇ……」


「薬師の方たちには、よく使われる素材です」


「なるほど」


大地は興味深そうに薬草を見る。


「じゃあ、これを採ればいいんですね?」


「はい。ただし――」


エレナが注意する。


「根まで抜かないでください」


「え?」


「根を残しておけば、また生えてきます」


「なるほど」


大地は感心した。


「ちゃんと採り方まで決まってるんですね」


「薬草は貴重ですから。乱獲してしまえば、すぐに数が減ってしまいます」


「それなら、根を残して採るほうがいいですね」


大地は慎重に葉を摘み取った。


「これで一個?」


「はい」


「じゃあ、あと……」


大地は依頼書を見る。


「九十九本?」


「一束十本ほどですから、十束なら百本ですね」


「……百本」


「はい」


「…………」


大地は森を見る。


「地味だな」


「ふふっ」


「いや、冒険者の仕事っていうから、もっとこう……」


大地は立ち上がり、拳を握る。


「巨大なドラゴンと戦ったり!」


「昨日、スライムから逃げていた人が何を言っているんですか?」


「…………」


「ふふふっ」


「エレナさん」


「はい?」


「俺への扱いが雑じゃありません?」


「そうでしょうか?」


エレナは楽しそうに笑った。


「でも、こういう仕事も大切ですよ」


「……そうですね」


大地は再びしゃがみ込む。


一本ずつ、丁寧に薬草を採取していく。


「人の怪我を治す薬になるんですもんね」


「はい」


「だったら、ちゃんと集めないと」


「そうですよ」


エレナは微笑む。


二人は並んで薬草を集めていった。


一本。


二本。


三本。


気がつけば、籠の中には少しずつ薬草が増えていた。


そして――。


「エレナさん」


「はい?」


「なんかこれって……」


大地は隣を見る。


「デートみたいですね」


「…………」


エレナの手が止まった。


「……え?」


「いや、こうやって二人で森を歩いて、薬草を採って……」


大地は少し照れながら笑う。


「なんか、そういう感じしません?」


「…………」


エレナの頬が、ほんのり赤くなる。


「……そ、そういうことを平気で言うんですね」


「え?」


「何でもありません」


エレナはぷいっと視線を逸らすと、黙々と薬草を採り始めた。


「……?」


大地は首を傾げる。


そして心の中で呟いた。


(……可愛すぎるんだが)


その横顔を見ていると――。


ふと、大地の目に何かが引っかかった。


「……あれ?」


「どうしました?」


「この辺だけ……植物の生え方が変じゃないですか?」


大地が指差した。


そこには、周囲とは明らかに違う光景が広がっていた。


同じ森なのに。


そこだけ、植物の色が濃い。


薬草も多い。


小さな花まで咲いている。


木々の葉も、他の場所より青々としていた。


「確かに……」


エレナも周囲を見回す。


「おかしいですね」


「ですよね?」


「この辺りだけ、植物の成長が明らかに早いです」


「何か理由があるんでしょうか?」


エレナは地面を見る。


「土壌が肥えている……というだけでは説明できませんね」


「じゃあ、何だろう?」


「地下水が豊富なのかもしれません」


「地下水……」


その言葉を聞いた瞬間だった。


――ピコン。


頭の中で、聞き慣れない音が鳴った。


『温泉サーチが反応しました』

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