↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/134

【第59話】新たな商機


鉱山を出る頃には、すっかり日が傾き始めていた。


森の木々の間から差し込む夕陽が、長く伸びた影を地面へ落としている。


大地たちは来た道を戻り、温泉宿へ向かって歩いていた。


その途中。


バルガスが、大きく息を吐いた。


「……疲れたな」


「調査だけだったはずなんですけどね」


リディアが淡々と返す。


「Bランク級の魔物に続いて、Sランク級と推定されるダンジョンまで見つかったんです。むしろ、これだけで済んだことを喜ぶべきでしょう」


「分かってるよ」


バルガスは肩をすくめる。


「だからこそ――」


ちらり。


彼の視線が、大地たちの向こうへ向いた。


「温泉でリフレッシュをだな……」


「……」


リディアの眉がぴくりと動く。


「バルガスさん」


「なんだ?」


「先ほどの話、聞いていましたか?」


「もちろん聞いてたぞ」


「なら、なぜそんなことを?」


「いや、だってよ」


バルガスは真剣な顔で言った。


「こんな命懸けの調査の後だぞ? 温泉が目の前にあるんだぞ?」


「報告が先です」


「分かってるって」


「本当に?」


「ああ」


バルガスは力強く頷いた。


そして――。


温泉宿が見えてくる。


その瞬間。


バルガスの歩く速度が、わずかに上がった。


「……」


リディアが目を細める。


「バルガスさん」


「なんだ?」


「今、歩く速度が上がりましたよね?」


「気のせいだ」


「明らかに速くなっています」


「気のせいだって」


さらに速度が上がる。


「……温泉、入りたいんですね?」


「違う」


「では、なぜ宿の方向へ一直線に?」


「帰る方向が同じだからだ」


「……」


リディアは無言になった。


そして――。


温泉宿へ到着。


「じゃあ、俺はひとっ風呂――」


「駄目です」


「即答かよ!」


バルガスが叫ぶ。


その直後。


後ろから、別の声が飛んできた。


「バルガスさん!」


ギルド本部から同行していたガレスだった。


「大至急、クレーベルへ戻ります!」


「……」


バルガスの顔が固まる。


「報告書の作成と、本部への緊急報告があります。ダンジョン発生の可能性だけでも重大案件ですが、今回は周辺への影響も大きい。できるだけ早く戻らなければなりません」


「……いや」


バルガスは温泉宿を見る。


「五分だけ」


「駄目です」


「三分」


「駄目です」


「一分!」


「不可」


「なんでだよ!」


バルガスが頭を抱える。


すると――。


リディアが無言でバルガスの背後へ回った。


「……バルガスさん」


「なんだ?」


「帰りますよ」


「いや、ちょっと待て」


「報告が先です」


「分かった! 分かったから!」


次の瞬間。


「うおっ!?」


リディアがバルガスの後ろ首を掴んだ。


「おい! リディア!」


そのまま――。


ずるずるずるずる。


「ちょ、待て! せめて温泉を一目――!」


「さようなら、大地さん、エレナさん!」


リディアは微笑みを崩さず、二人に挨拶をさて、バルガスを片手で引きずってゆく。


引きずられながら、バルガスが叫ぶ。


「次こそ絶対入るからなぁぁぁ!」


「はいはい」


大地が苦笑しながら手を振る。


「また今度な」


「ギルドを抜け出す口実が中々ねぇんだよぉぉぉ!」


バルガスの叫び声が、森の中へ遠ざかっていった。


「……」


大地はしばらく、その姿を見送る。


「元気だな……」


「元気というより、温泉への執念がすごいですね」


エレナが苦笑する。


「ふふっ」


二人は顔を見合わせると、温泉宿へ戻っていった。


◇


「――ダンジョン?」


宿へ戻るなり、ミレッタへ事情を説明した。


そして。


「鉱山の奥に、新しいダンジョンができた」


その言葉を聞いたミレッタは、目を丸くした。


「……ほんとか?」


「ああ」


大地が頷く。


「岩壁の向こうに空間がある。そこから魔力と瘴気が漏れ出していた。ガレスさんの測定でも、かなり高い反応が出ていた」


「へぇ……」


ミレッタは腕を組む。


「そりゃ、鉱山の魔鉱石が増えてたのも、魔物が変になってたのも納得だな」


「そういうことみたい」


大地は頷いた。


「今後、ギルド本部が正式に調査することになると思う」


「なるほどな」


ミレッタは少し考え込んだ。


「……ってことは」


「ん?」


「これから、あの辺に冒険者が増えるんじゃない?」


「……」


大地とエレナが顔を見合わせる。


「たぶん」


「私もそう思います」


ミレッタはニヤリと笑った。


「じゃあ――」


「じゃあ?」


「商売のチャンスじゃん」


「……」


大地は一瞬、言葉を失った。


だが。


すぐに、その意味を理解する。


「……確かに」


鉱山には、すでに大量の魔鉱石が存在している。


そして、その奥には新たなダンジョン。


ダンジョンが存在する以上、そこへ挑む冒険者が集まる。


冒険者が集まれば――。


食事。


宿泊。


装備。


薬。


道具。


様々な需要が生まれる。


「今までは、温泉宿そのものを目的地にすることを考えていたけど……」


大地は机の上に地図を広げた。


「これからは、ダンジョンへ向かう冒険者たちが、ここを拠点として利用する可能性がある」


「そうですね」


エレナも地図を覗き込む。


「鉱山とこの土地の距離を考えれば、ここはかなり便利な場所になります」


「だったら――」


ミレッタが地図を指差した。


「温泉宿だけじゃ足りない」


大地も頷く。


「俺もそう思う」


「食堂とか?」


「それも必要だな」


「武器屋や防具屋は?」


「冒険者が増えるなら必要になる」


「薬屋もいるだろ」


「治癒薬や状態異常回復薬なんかを扱う店も必要だな」


三人で話しているうちに、次々と案が出てくる。


「道具屋」


「食料品店」


「酒場」


「酒場も必要か?」


「冒険者が集まる場所なら、情報交換の場にもなるだろ」


「なるほど……」


「あと、鍛冶屋」


「それは絶対いるな」


大地は地図へ次々と書き込んでいく。


気がつけば。


温泉宿を中心に、いくつもの建物が並んでいた。


「……なんか」


大地が呟く。


「街みたいになってきたな」


その言葉に、三人が黙った。


しばらくして。


ミレッタがぽつりと言った。


「……本当に、街にする?」


「え?」


「この土地」


ミレッタは地図を見る。


「ダイチが買った土地、かなり広いんだろ?」


「ああ」


「だったらさ」


ミレッタが笑う。


「温泉宿だけじゃ、もったいないじゃん」


大地も地図を見つめる。


この土地を購入したとき。


自分は、ただ温泉宿を建てる場所として考えていた。


けれど――。


今は違う。


温泉を中心に、人が集まる。


人が集まれば、店が必要になる。


店が増えれば、働く人が必要になる。


そして――。


人が暮らす場所が必要になる。


「……街」


大地が呟く。


その言葉が、妙に現実味を帯びて聞こえた。


エレナが静かに微笑む。


「素敵ですね」


「エレナ?」


「温泉宿だけではなく、そこに暮らす人たちの街ができる」


エレナは地図を見つめながら続ける。


「そして、人が集まる場所になれば……大地さんが望んでいる『みんな仲良く入湯』という言葉も、もっと多くの人へ届くのではないでしょうか」


「……」


大地は少しだけ照れながら笑った。


「そうだな」


だが。


ミレッタが腕を組む。


「ただし」


「ん?」


「問題がある」


「問題?」


「人手」


「あ……」


大地の表情が固まった。


ミレッタは指を一本立てる。


「温泉宿を運営する人員」


二本目。


「冒険者に役立つ店を運営する人」


三本目。


「街を作る職人」


四本目。


「管理する人」


そして――。


「あと、飯を作る人」


「……」


大地は黙った。


確かに。


土地はある。


資金もある。


温泉もある。


さらにダンジョンという、予想外の集客要素まで現れた。


しかし。


人がいない。


「……人材集め」


大地が呟く。


「急がないといけないな」


「そういうこと」


ミレッタが頷く。


「温泉宿が完成しても、働く人がいなきゃ営業できない」


エレナも頷いた。


「街を作るのであれば、なおさらです」


「冒険者が増える前に、最低限の受け入れ体制を整えないとな」


大地は地図を見つめる。


鉱山。


温泉宿。


そして、その周囲に広がる土地。


これまでは、ただの森だった。


けれど――。


ここには、これから人が集まる。


冒険者が。


商人が。


職人が。


そして、いつかはこの場所で暮らす人々が。


「……よし」


大地が顔を上げる。


「まずは人を集めよう」


「おう」


ミレッタが笑う。


「忙しくなるぞ、ダイチ」


「だな」


エレナも微笑んだ。


「私もお手伝いします」


こうして――。


温泉宿を作るために始まった計画は。


いつしか。


一つの宿では収まらない、大きな街づくりへと動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。