【第56話】ミレッタと工房と温泉と
数日後
自分の業務が忙しいエレナと別れ、大地はいつも通り仕事へ向かっていた。
向かった先は――ミレッタの工房。
「ミレッタ、いるか?」
工房の扉を開けると、金属を打つ音と魔道具の駆動音が重なって聞こえてきた。
「おう、ダイチか!」
奥からミレッタが顔を出す。
相変わらず作業着姿で、額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
「ちょうどいいところに来たな。例の話、進めておいたぞ」
「サウナの件か?」
「ああ!」
ミレッタは嬉しそうに頷いた。
「昨日聞いた話を元に、いくつか考えてみたんだ。熱を発生させる魔道具と、温度を一定に保つ制御装置。それから――」
ミレッタは作業台の上に並べられた図面を指差していく。
「この魔石を使えば、内部の温度をかなり細かく調整できる」
「なるほど……」
大地は図面を覗き込んだ。
「でも、これだと熱源が強すぎないか?」
「そこは制御装置で調整する。問題はむしろ、蒸気だ」
「蒸気?」
「ああ。サウナってのは熱いだけじゃなくて、湿度も重要なんだろ?」
「そうそう」
大地は頷いた。
「いわゆるロウリュだな。熱した石に水をかけて、一気に蒸気を発生させる」
「だったら、その水を一定量だけ出す魔道具を作ればいい」
ミレッタの目が輝いた。
「なるほど……!」
「……やっぱり食いついたな」
「当たり前だろ!」
ミレッタは図面に新しい線を書き加えていく。
「水量を制御する弁を魔道具化して……いや、それなら温度センサーと連動させたほうが……」
「おいおい、まだ構想段階だぞ」
「こういうのは思いついた時に形にしておくんだよ!」
そこから先は早かった。
大地が日本で知っていたサウナの構造を説明し、ミレッタが異世界の魔道具技術に落とし込んでいく。
「これなら作れそうだな」
「本当に?」
「ああ。少し時間はかかるけどな」
「さすがミレッタ」
「ふん。これくらい当然だろ」
そう言いながらも、ミレッタの口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
◇
打ち合わせが一段落する頃には、外はすっかり暗くなっていた。
工房の窓から見える空には星が浮かび、森の中には夜の静けさが広がっている。
「……もうこんな時間か」
大地が時計代わりの魔道具を見る。
「今日はここまでにするか?」
「そうだな」
ミレッタも肩を回した。
長時間の作業で身体が凝り固まっている。
その姿を見て、大地はふと思い出した。
「そういえばさ」
「ん?」
「工房の裏に露天風呂、作ったよな」
「ああ」
ミレッタの視線が僅かに泳ぐ。
「………」
「せっかくだし、入らないか?」
「……二人で?」
「嫌か?」
「い、嫌ってわけじゃ……」
ミレッタは頬を掻いた。
「ただ……なんというか……」
「?」
「……は、恥ずかしいから」
「いつもエレナとは普通に入ってるぞ!」
「エレナと一緒にするな!」
即答だった。
大地は思わず笑う。
「じゃあ、俺が先に入ってるから。嫌なら来なくてもいい」
「……」
ミレッタはしばらく黙り込んだ。
やがて小さく息を吐く。
「……わかったよ」
「本当か?」
「ただし、変なことするなよ?」
「しないって」
「……本当だろうな?」
「本当、本当」
ミレッタは疑わしそうな目を向けながらも、浴場へ向かった。
◇
工房の裏手。
木々に囲まれた小さな露天風呂から、白い湯気が夜空へと立ち昇っている。
「……綺麗だな」
大地は空を見上げた。
街明かりのない森では、星が驚くほど鮮明に見える。
しばらくして、ミレッタも浴場へやって来た。
「……本当に入るんだな」
「誘ったのはダイチだろ」
「まあ、そうだけど」
二人は湯に浸かった。
温かな湯が身体を包み込む。
「……はぁ」
ミレッタの口から、力の抜けた声が漏れた。
「気持ちいいな……」
「だろ?」
「……これなら、毎日仕事終わりに入りたくなる」
「温泉の良さが分かってきたな」
「うるさい」
ミレッタは少し照れたように顔を背ける。
その横顔を見ながら、大地はふと思った。
先日、解放された新しい効能。
【精力増強】
そして――。
「……ちょっと試してみるか」
大地は温泉効能調整のスキルを発動する。
『温泉効能調整LV:2 精力増強』
温泉の効能がゆっくりと変化していく。
「……ダイチ?」
「ん?」
「今、何かしたか?」
「いや、ちょっと温泉の効能を変えただけ」
「何に?」
「……魔力増幅」
(本当は精力増強だけどね)
「…………へぇ」
ミレッタの動きが止まった。
「ミレッタどうだ?……体に変化はあるか?」
ミレッタの顔が見る見る赤くなる。
「……ダ、ダイチ…なんか体が火照って」
「……そうなのか?」
「……な、なんか体が変だ」
ミレッタの顔が紅潮し、温泉にぺたんと座り込んで、太腿を擦り合わせている。
「……ほうほう」
「……ん……は…はぁ……はぁ……はぁ」
湯船の端の方にいたミレッタは目を潤ませながらも、大地から目を離さず、ゆっくりとこっちに近づいてくる。
「…ダ、ダイチ…」
「なんだ?ミレッタ体調でも悪いのか?」
(効いてる!効いてる!)
ふらつくミレッタを両腕で抱きとめる。
「ーーーーーーーッ!」
両腕で抱き止めた小さな肩はビクビクと波打つように痙攣し、艶かしい吐息を洩らす。
大地の腹部にはミレッタの控えめな胸の先端の硬い突起の感触が伝わる。
「……ぁん…ダイチ……た、助けて」
(……恐ろしい子……っ!)
「……ん?……どうしてほしいんだ?」
そのときーー。
ーーピコン。
『温泉効能強化LV:EXを発動します』
『対象者ユモリダイチの精力を大幅に増強します』
「………あ…」
「……まだ効力弱めてなかった」
腕の中で潤んだ瞳で懇願するミレッタの下腹部付近のダイチのダイチが凶悪に変貌してゆく。
「………ぁ…はぁ…はぁ…ダイチのコレで助けて?」
「ーーーーーッ!」
ーーぷちん!
淫靡な上目遣いで見上げるミレッタを視界に捉えた後、大地の目の前が真っ暗になった。
◇
「……ん…」
大地は心地よい気怠さを体に感じながら、頭を掻きながら、むくりと体を起こす。
ベッドの隣に眠る小さな体。
乱れに乱れ、所々体液で汚れたシーツ。
むせかえる様な発情した男女の匂い
「………」
(記憶がない……またやっちまったか…)
「……ダイチ」
「おはよ。ミレッタ」
「………おはよ」
ミレッタはシーツで体を隠しながら起き上がろうとするも、蹌踉めいて、ベッドに座り込む。
「………あのー……俺…昨日乱暴なことしてないよね?」
「…………!」
頭を左右にぶんぶんと振りながら、赤らめた顔で恨めしそうにこちらを睨んでいる。
「ダイチ……」
「変な温泉効能にしやがったな」
足腰も治ったのか、わなわなを肩を震わせながら、こちらにゆらりと近づいてくる。
「……ミ、ミレッタさん?…ほんの戯れのつもりだったんです…」
「言い訳無用」
「……ひっ…!」
大地はボディブローを警戒して、腹をクロスアームブロックする。
「こんの大馬鹿やろぉぉぉぉぉお!!」
ーーードゴン!
ミレッタの強烈なストレートは大地の股間にめり込むと同時に、大地の意識は遠のいていった。




