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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第50話】温泉宿の経過とミレッタの今後


朝食を終えると、三人はさっそく宿の建設現場へ向かった。


すると――。


「……え?」


エレナが足を止めた。


昨日までとは、明らかに景色が違っていた。


木材を組み上げた建物が、いくつも並んでいる。


柱が立ち、壁ができ、屋根まで取り付けられ始めていた。


まだ完成にはほど遠い。


それでも、数日前まで何もなかった場所とは思えないほど、建設は進んでいる。


「……すごいですね」


エレナが呟く。


「だろ?」


大地も思わず笑った。


「俺も来るたびに驚いてるよ」


「いやいや」


ミレッタが得意げに胸を張る。


「驚いてる場合じゃないって。あたしたちは寝る間も惜しんで働いてるんだから」


「寝る間は惜しめよ!」


大地が即座に突っ込む。


ミレッタは肩をすくめた。


「冗談だって」


そう言いながらも、彼女の表情はどこか誇らしげだった。


建設現場では、職人たちが忙しそうに動き回っている。


木材を運ぶ者。


柱を組み上げる者。


床板を張る者。


魔道具を設置する者。


その誰もが、驚くほど精力的に作業を続けていた。


「それにしても……」


大地は周囲を見渡す。


「本当に作業速度が尋常じゃないな」


「そりゃそうだよ」


ミレッタが答える。


「みんな温泉に入ってるからね」


「やっぱりか」


「『疲労回復促進』の効果で、体の疲れが残りにくい。しかも『身体能力向上』まである」


ミレッタは作業中の職人たちを指差した。


「普通なら一日働けば疲れて動けなくなるところを、温泉に入って休めば、翌朝にはかなり回復してる。それに身体能力まで上がってるんだから、作業効率が全然違うんだよ」


「なるほど……」


大地は改めて温泉の力を実感する。


戦闘だけではない。


こうして日常の仕事にまで、温泉の効能が影響している。


しかも――。


「これ、完成までかなり早まりそうだな」


「うん」


ミレッタが頷く。


「予定より、ずっと早い」


「どれくらい?」


「このままいけば、主要部分はかなり早い段階で完成すると思う」


「本当に?」


「本当」


ミレッタは建設途中の建物を見上げた。


「大地が考えた宿を、こんなに早く形にできるとは思ってなかったけどね」


「俺だけの力じゃないだろ」


「分かってるって」


ミレッタは笑った。


「だからこそ、あたしも最後までやるんだよ」


その言葉に、大地が振り返る。


「最後まで?」


「うん」


ミレッタは少しだけ視線を逸らした。


「宿が完成したら、あたしはここに残る」


「……え?」


大地が目を瞬かせる。


エレナも少し驚いたようにミレッタを見る。


「建物を作って終わりじゃないからね」


ミレッタは続けた。


「温泉を汲み上げる設備もある。湯温の調整も必要だし、浄化設備や魔道具の点検もしなきゃいけない。壊れたら修理しなきゃいけないし、新しい設備を作ることだってある」


そう言って、ミレッタは自分の胸を軽く叩いた。


「あたしじゃねぇと誰もできねぇだろ?」


「それは……そうだけど」


「だから、あたしがやる」


あまりにも自然に言ったため、大地は一瞬言葉を失った。


「……じゃあ、ずっとここにいてくれるのか?」


「うん」


ミレッタは答えた。


けれど。


その頬が、ほんの少しだけ赤くなる。


「……ダイチも、ここにいるんだろ?」


「まあ、俺は宿の経営者だからな」


「なら、あたしもいる」


短い言葉だった。


けれど、その意味を大地には十分に理解できた。


エレナはそんなミレッタを見て、微笑んで抱きしめる


「……あぁ……ミレッタ」


「……な、なんだ?」


「せっかくできた親友とお別れしなくていいなんて嬉しいです」


「そ、そう?」


「はい」


エレナは穏やかに頷いた。


「ここには、ミレッタにしかできない仕事がたくさんありますから」


「だろ?」


ミレッタが胸を張る。


「だから残るのは当然!」


……ただし。


その耳が真っ赤になっていることには、大地もエレナも気づいていた。


「まあ、ミレッタがいてくれるなら助かるよ」


「……!」


大地の何気ない一言に、ミレッタの表情が固まる。


「設備のことは俺には分からないからな。頼りにしてる」


「……うん」


ミレッタは小さく頷いた。


「任せろ」


その声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


その後。


三人は建設現場のさらに奥へと進んでいった。


「ここは?」


エレナが尋ねる。


そこには、宿泊棟とは少し離れた場所に、新しい建物の基礎が作られていた。


「従業員用の居住スペース」


大地が答える。


「宿で働く人たちが住める場所だ」


「なるほど」


「毎日街から通ってもらうのは大変だからな。ここで生活できるようにする。ダイチとエレナの家もここに併設して建てる」


大地が説明していると、ミレッタが横から口を挟んだ。


「もちろん、こっちにも温泉を引くよ」


「従業員用の温泉?」


「そう」


ミレッタは当然のように頷いた。


「働いてくれる人たちにも、ちゃんと温泉に入ってもらわないと」


大地は思わず笑った。


「うちの宿、従業員まで温泉三昧だな」


「当たり前だろ」


ミレッタが即答する。


「温泉宿なんだから」


「確かに」


そして、その建物の隣には――。


さらに別の基礎が作られていた。


「……こっちは?」


大地が尋ねる。


ミレッタが、少しだけ得意げな顔をした。


「……あたしの工房」


「工房?」


「うん」


ミレッタは建設予定地を指差した。


「ここに、あたし専用の工房を作る」


「専用?」


「専用」


「……必要なのか?」


「必要」


即答だった。


「魔道具の整備や修理をする場所がいるし、新しい魔道具を作ることもある。それに、宿の設備を管理するなら、ここに工房があったほうが便利でしょ」


「それは確かに」


「だから作る」


ミレッタは腕を組んだ。


「それに――」


一瞬だけ、言葉を止める。


「……あたしも、ここに住むから」


大地が目を丸くする。


「工房の横に住居も作るのか?」


「そう」


「じゃあ、ミレッタ専用の家ってことか」


「……まあね」


「すごいな」


大地が感心していると、ミレッタが小さく付け加えた。


「温泉も付けるけど」


「そこまで!?」


「だって温泉宿だよ?」


「いや、そうだけど!」


エレナがくすくすと笑う。


「ミレッタさんらしいですね」


「でしょ?」


「はい」


「……それに」


ミレッタは小さく呟いた。


「仕事が終わったあとも、温泉に入れるし」


「それが一番の目的じゃないだろうな?」


「違うよ!」


即座に否定する。


だが。


「……たぶん」


小さく付け加えた。


「たぶんって言ったぞ」


「うるさい!」


ミレッタが大地の肩を軽く叩く。


そんな二人を見ながら、エレナは笑っていた。


けれど、その表情は以前とは少し違う。


そこには、二人の関係を受け入れた者の、穏やかな笑みがあった。


大地は建設途中の宿を見上げる。


大きな建物。


従業員たちの住居。


温泉設備。


そして、ミレッタの工房。


まだ完成していない。


けれど。


少しずつ。


確実に。


ここが「宿」ではなく、「人が暮らす場所」へと変わっていく。


大地はその光景を眺めながら、ふと笑った。


「……なんか、本当に町みたいになってきたな」


「町?」


エレナが首を傾げる。


「宿だけじゃなくて、働く人が住んで、職人がいて、設備を管理する人がいて……そのうち店とかも必要になるかもしれない」


「それは楽しみですね」


「うん」


エレナが笑う。


ミレッタも建物を眺めながら頷いた。


「その頃には、もっとたくさんの人がここに来てるかもね」


「ああ」


大地は頷いた。


「そうなったら――」


言葉を止める。


森の中に、木槌の音が響いていた。


カン、カン、と。


それはまるで。


この場所に新しい時間が刻まれていく音のようだった。


「……頑張らないとな」


大地が呟く。


「はい」


「うん」


三人の声が重なる。


温泉宿は、もう夢ではない。


目の前で、一つずつ形になっている。


そして。


その宿が完成する頃には――。


ここには、きっと。


今よりもっと多くの人が集まっている。


そんな予感を胸に抱きながら。


三人は再び、それぞれの仕事へと戻っていった。

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