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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第49話】朝から大騒ぎ


朝。


森の中に、鳥の鳴き声が響いていた。


夜の宴会の喧騒はすっかり消え、朝の澄んだ空気が辺りを包んでいる。


焚き火の跡からは、細い煙が立ち上っていた。


その傍らで――。


ミレッタは一人、腕を組んで座っていた。


「…………」


頬が赤い。


昨日の夜のことを思い出すたびに、顔が熱くなる。


「…………うぅ」


思わず両手で顔を覆った。


「なんであんなこと……」


もちろん、後悔しているわけではない。


むしろ、自分の気持ちを大地に伝えられたことには、どこか清々しさすら感じている。


けれど。


朝になって冷静になると――。


猛烈に恥ずかしい。


「……ダイチの顔、まともに見られないじゃん……」


そんなことを呟いた直後だった。


「おはよう、ミレッタ」


「――ッ!」


背後から聞こえた声に、ミレッタの肩が跳ね上がった。


振り返る。


そこには大地が立っていた。


「……お、おはよ」


「どうした?」


「な、なんでもない!」


「いや、なんでもない顔じゃないだろ」


「うるさい!」


ミレッタはそっぽを向いた。


大地は首を傾げる。


「顔、赤くないか?」


「赤くない!」


「いや、赤いぞ」


「朝だから!」


「朝だから顔が赤くなるのか?」


「なるの!」


「そうなのか?」


「そうなの!」


いつもの調子で言い合いを始める二人。


けれど――。


いつもと少しだけ違う。


大地も、どこか落ち着かない。


ミレッタも、大地の顔をまともに見ようとしない。


二人の間には、昨夜までとは違う空気が流れていた。


「…………」


「…………」


沈黙。


先に耐えられなくなったのはミレッタだった。


「……あのさ」


「ん?」


「昨日のこと……」


「うん」


「……その……」


ミレッタの耳まで赤くなる。


「……忘れろとは言わないけど」


「うん」


「……いちいち思い出してニヤニヤすんなよ」


「ニヤニヤしてないぞ」


「してる!」


「してないって」


「顔に出てる!」


「どんな顔だよ」


「……その……」


ミレッタはちらりと大地を見る。


そして、すぐに視線を逸らした。


「……嬉しそうな顔」


「…………」


大地も黙る。


「……まあ」


少しだけ照れながら、大地は笑った。


「嬉しいからな」


「…………っ!」


ミレッタの顔が一気に赤くなる。


「な、なに素直に言ってんのさ!」


「だって本当のことだし」


「そういうところ!」


「どういうところだよ」


「……もう!」


ミレッタは顔を背けた。


そんな二人のやり取りを――。


少し離れた場所から見ている人物がいた。


白い髪を朝の風になびかせながら、エレナが立っている。


「…………」


そして。


口元に、小さな笑みを浮かべた。


「お二人とも――」


「「!」」


同時に振り返る。


「おはようございます」


「エ、エレナ!?」


ミレッタが飛び上がるように立ち上がった。


「お、おはよ……」


「はい。おはようございます、ミレッタさん」


エレナはにこやかに近づいてくる。


その表情には、どこか楽しそうな色があった。


「……何?」


「いえ?」


エレナは首を傾げる。


「お二人とも、とても仲が良さそうだなと思いまして」


「べ、別に普通だよ!」


「そうですか?」


「そう!」


「昨夜までとは、少し雰囲気が違うように見えますけど」


「…………」


ミレッタが固まる。


大地も気まずそうに視線を逸らした。


「……エレナ」


「はい?」


「その辺にしておいてくれ」


「ふふっ」


エレナが笑う。


「申し訳ありません。ですが――」


ちらりと二人を見る。


「お二人とも、初々しくて、とても微笑ましいです」


「しょ、初々しいって……!」


ミレッタの顔がさらに赤くなる。


「なんだよ、それ!」


「昨日まで、あんなに威勢よく大地さんに話していたのに」


「そ、それは……」


「今は、大地さんの顔を見るだけで照れていらっしゃいますね」


「…………」


ミレッタは完全に言葉を失った。


大地が思わず笑う。


「確かに」


「ダイチ!」


「いや、だって本当――」


ゴンッ!


鈍い音が森に響いた。


「痛っ!」


大地が頭を押さえる。


ミレッタが拳を握っていた。


「余計なこと言うな!」


「朝から殴るなよ!」


「うるさい!」


「昨日の夜はあんなに可愛かったくせに!」


「…………ッ!」


ミレッタの顔は火が出たように赤く染まる。


「……っぷ」


エレナが思わず吹き出した。


「ふふっ……あははっ」


「エレナまで笑うな!」


「申し訳ありません……ふふっ」


「絶対申し訳ないと思ってないだろ!」


ミレッタが頬を膨らませる。


しかし。


そんなミレッタを見て、エレナは優しく微笑んだ。


「でも……良かったです」


「……え?」


「ミレッタさんが、そんな顔をしているのを見られて」


「…………」


ミレッタは目を瞬かせる。


「そんな顔って?」


「幸せそうな顔です」


その言葉に、ミレッタは少しだけ目を伏せた。


そして――。


「……うん」


小さく頷く。


「たぶん、あたし……幸せなんだと思う」


大地が二人の会話を静かに見守っていた。


すると、エレナがミレッタの隣へ腰を下ろす。


「それなら、良かったです」


「……エレナ」


「はい?」


「……ありがと」


「こちらこそ」


「なんでエレナがお礼言うのさ」


「私もミレッタのおかげであの後、色々ありましたから…」


「………ッ!」


「ふふっ」


二人の顔を見合わせる。


そして――。


どちらからともなく笑った。


「ふふっ」


「あははっ」


朝の森に、二人の笑い声が響く。


その光景を見ていた大地は、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じていた。


昨日までなら、考えられなかった光景だ。


自分を巡って複雑な感情を抱えていたはずの二人が、今こうして笑い合っている。


もちろん。


これから先、何も問題が起きないわけではないだろう。


けれど――。


少なくとも今は。


二人が笑っている。


それだけで、大地には十分だった。


「……なんだよ…二人して」


「何がですか?」


エレナが振り向く。


「いや」


大地は笑った。


「こういう朝も悪くないな」


ミレッタが立ち上がる。


「じゃあ、朝飯にしようよ」


「そうですね」


「ダイチ、何か作れるか?」


「俺?」


「料理担当だろ?」


「まあ、そうだけど……」


「じゃあお願い」


「はいはい」


大地が立ち上がる。


その瞬間――。


ミレッタが大地の袖を掴んだ。


「……あ」


「ん?」


「……いや」


ミレッタは少しだけ恥ずかしそうに手を離す。


「……なんでもない」


「?」


大地は首を傾げた。


エレナはその様子を見て、また小さく笑う。


「ふふっ」


「エレナ、笑わないでよ!」


「申し訳ありません」


「絶対楽しんでるでしょ!」


「はい」


「認めた!?」


朝から、また騒がしくなる。


昨日までとは少し違う。


けれど――。


不思議と心地のいい朝だった。


「ほら、二人とも。朝飯にするぞ」


大地が呼ぶ。


「はーい」


ミレッタが返事をする。


「はい、大地さん」


エレナも続く。


三人は並んで、朝の準備を始めた。


森の奥。


新しい関係が始まったばかりの三人を、朝の陽射しが静かに照らしていた。

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