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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第46話】温泉の完成


――それから、数日後。


「ダイチー!」


昼下がりの拠点に、ミレッタの大声が響き渡った。


「おーい! ダイチ! どこにいるんだー!」


「いるって。そんな大声出さなくても聞こえるぞ」


宿の建設現場で木材の運搬作業をしていた大地は、手にしていた木材を地面へ置き、振り返った。


そこには、満面の笑みを浮かべたミレッタが立っている。


「ついに完成したぞ!」


「……完成?」


「そうだ!」


ミレッタは胸を張った。


「温泉、完成だ!」


「……!」


その言葉を聞いた瞬間、大地の表情がぱっと明るくなる。


「本当に?」


「ああ! 昨日の夜、最後の調整まで終わった。今日から入れるぞ!」


「マジか……!」


思わず笑みがこぼれた。


ここ数日、職人たちは昼夜を惜しんで作業を続けていた。


宿本体の建設はまだ途中だったが、先に温泉施設だけは完成したのだ。


「エレナにも知らせてくる!」


「もう呼んである!」


「早いな!」


「当たり前だろ。完成した温泉を最初に見せるのは、ダイチたちに決まってるじゃねぇか」


ミレッタが得意げに笑う。


そのとき――。


「大地さん!」


聞き慣れた声が響いた。


振り返ると、エレナがこちらへ歩いてくる。


「温泉が完成したと聞きました」


「ああ!」


大地も嬉しそうに頷く。


「ついにだよ」


「ふふっ。楽しみですね」


「ああ。俺も楽しみだ」


大地は笑いながら、ミレッタを見る。


「じゃあ、さっそく見に行こう」


「おう!」


ミレッタを先頭に、大地とエレナは完成した温泉施設へ向かった。


入口を抜け、脱衣所を通り過ぎる。


そして――。


「…………」


大地は、思わず言葉を失った。


目の前に広がっていたのは、数日前まで木材や石材が積み上げられていた工事現場ではない。


そこには、立派な浴場が完成していた。


まず目に入ったのは、広々とした内湯だった。


浴場の中央には、大人数でもゆったりと浸かれるほどの大きな木製の浴槽が据えられている。


湯はすでに張られており、白い湯気が静かに立ち上っていた。


浴場いっぱいに、ほんのりと木の香りが漂っている。


「……すごい」


大地はゆっくりと浴槽へ近づいた。


手を伸ばし、縁に触れる。


丁寧に磨かれた木の感触。


湯気の向こうに広がる、たっぷりとした湯船。


思い描いていた光景が、今は目の前にある。


「ちゃんと……できてる」


思わず、そんな言葉が漏れた。


「どうだ?」


隣でミレッタが尋ねる。


大地はしばらく浴場を眺めてから、静かに笑った。


「……最高だよ」


その一言に、ミレッタの顔がぱっと明るくなった。


「へへっ。そうだろ?」


大地は浴場を見渡す。


浴槽の手前には、身体を洗うための洗い場が設けられている。


湯船と洗い場はしっかりと分けられており、複数の人が同時に利用できるよう、十分な広さが確保されていた。


「ここも綺麗に仕上がってるな」


「職人連中がかなり丁寧に仕上げたんだ」


ミレッタが答える。


「木材の加工も、浴場の床も、細かいところまで手を抜いてねぇよ」


「ありがとう。みんなにも伝えてくれ」


「直接言ってやってくれよ。あいつら、たぶん喜ぶからな」


「ああ。もちろん」


大地は頷いた。


そして――。


「外も見てみよう」


ミレッタが奥の扉を開ける。


外へ出た瞬間、森の爽やかな空気が頬を撫でた。


その先に広がっていたのは――。


大きな露天風呂だった。


「……おお」


思わず声が漏れる。


浴槽の周囲には大小さまざまな岩が配置され、その向こうには竹や松を思わせる木々が植えられている。


湯気の向こうで木々が風に揺れ、葉擦れの音が静かに響いていた。


森の緑。


岩の質感。


立ち上る湯気。


それらが一体となって、落ち着いた風情を醸し出している。


「……いいな」


大地はしばらく、その光景を眺めていた。


「そうそう。こういう感じにしたかったんだ」


「だろ?」


ミレッタが嬉しそうに笑う。


「景色の配置は職人連中がかなりこだわったんだ。岩の置き方一つでも、何度も動かしてたぞ」


「なるほどな」


大地は頷いた。


自分が思い描いていたものを、職人たちがここまで丁寧に形にしてくれた。


そのことが、素直に嬉しかった。


大地は露天風呂をさらに見て回る。


まず目に入ったのは、湯の中から細かな泡が絶えず湧き上がっている浴槽だった。


「これが泡の出る風呂か」


「ああ。魔道具を使って、下から空気を送り込むように調整してある」


湯面が小さく揺れ、無数の泡が弾けている。


「へぇ……」


大地は興味深そうに浴槽を覗き込んだ。


「試してみたいな」


「あとで入ればいいだろ」


「それもそうだな」


その隣には、他の浴槽よりも明らかに湯気の濃い浴槽があった。


「こっちは?」


「熱い湯だ」


「普通より熱め?」


「ああ。熱い湯が好きな奴もいるだろ?」


「確かにな」


大地は湯気を眺めながら頷いた。


そして、さらに奥へ進んだところで足を止める。


「……これは?」


そこには、丸みを帯びた大きな陶器がいくつも並んでいた。


一つにつき、一人が入れる程度の大きさ。


上から湯が静かに流れ込み、縁から絶えず湯が溢れている。


「壺湯だ」


ミレッタが答えた。


「一人でゆっくり入りたい奴向けだな」


「……いいな、これ」


大地は壺湯を覗き込む。


「これなら、静かに温泉を楽しめる」


「だろ?」


ミレッタも満足そうに笑った。


大地は、もう一度浴場全体を見渡した。


大きな木製の内湯。


身体を洗うための洗い場。


自然に囲まれた露天風呂。


泡の湯。


熱い湯。


そして、一人で入れる壺湯。


どれも、大地が思い描いていた温泉の姿を、ミレッタと職人たちが見事に形にしてくれている。


「……ミレッタ」


「ん?」


「ありがとう」


「……急にどうした?」


「いや。本当に、よくここまで作ってくれたなって」


大地は笑った。


「俺が考えてたものを、こんなに綺麗に形にしてくれてさ」


ミレッタは一瞬だけ目を丸くした。


そして、照れくさそうに頭を掻く。


「……お前があたしの手を治してくれたおかげだ」


「……いや、それとこれとは別だろ」


「別じゃねぇよ」


ミレッタは少し照れたように笑った。


「ダイチがいなかったら、あたしは今ここで仕事してなかったかもしれねぇんだから」


「……そっか」


大地は少しだけ目を細める。


「でも、本当にありがとう」


「……おう」


ミレッタは小さく頷いた。


「ダイチが考えた温泉を、ちゃんと形にする。それがあたしらの仕事だからな」


「……そっか」


「それに――」


ミレッタは完成した浴場を見渡した。


「こうやって完成したところを見ると、あたしも嬉しいしな」


その言葉に、大地も笑った。


「じゃあ……」


大地は浴槽へ視線を向ける。


「今日は、みんなで入るか」


「もちろんだ!」


ミレッタが即答する。


「職人連中も、もう準備万端だぞ!」


「気が早いな」


「何日も働きっぱなしだったんだ。温泉が完成したのに入らないなんて、ありえねぇだろ!」


その言葉に、近くで聞いていた職人たちから歓声が上がる。


「待ってました!」


「今日は仕事終わりだ!」


「完成祝いだぞ!」


「酒も用意してある!」


「お前ら、仕事より元気じゃねぇか……」


大地は苦笑した。


そのとき――。


「わふっ!」


足元から元気な声が聞こえた。


「お前もか、ユズキ」


大地が見下ろす。


そこには、狼のような姿をした聖獣の子供――ユズキがいた。


大きな尻尾をぶんぶんと振りながら、完成した温泉を見上げている。


「お前も温泉、楽しみなのか?」


「わふっ!」


「そうか、そうか」


大地が頭を撫でると、ユズキは気持ちよさそうに目を細めた。


「ユズキも一緒に入るぞ!」


職人の一人が声をかける。


「わふっ!」


ユズキが嬉しそうに鳴いた。


こうして――。


温泉の完成祝いを兼ねた、最初の入浴が始まることになった。


     ◇


まずは、温泉へ入る前に身体を洗う。


大地たちは男湯へ。


エレナとミレッタは女湯へ。


そして、それぞれが身体を洗い終えると――。


いよいよ、完成した温泉へ足を入れた。


大地は、ゆっくりと湯船へ身体を沈める。


肩まで湯に浸かった瞬間――。


「…………」


言葉が出なかった。


「……はぁぁ……」


代わりに、深いため息が漏れる。


温かな湯が身体を包み込み、張り詰めていた筋肉から少しずつ力が抜けていく。


湯気と木の香りに包まれていると、ここ数日間の疲れまでもが遠ざかっていくようだった。


「……気持ちいいな」


「こりゃ……たまらんな」


「身体が軽くなっていくぞ……」


「疲れが抜けていく感じがするな」


職人たちからも、次々と声が上がる。


大地は目を閉じた。


そして、温泉へ意識を集中する。


今回、大地が設定した泉質の効能は――。


【疲労回復促進】。


【泉質効能調整LV2】によって新たに扱えるようになった効能だ。


さらに、LV2では【魔力増幅】も追加されている。


今回は、連日の作業で疲れ切った職人たちの身体を癒やすため、【疲労回復促進】を選んだ。


「……これなら、みんな喜んでくれるな」


大地が呟く。


「当たり前だろ」


隣で職人が笑った。


「こんな温泉があるなら、何日でも働けるぞ!」


「いや、それはちゃんと休めよ」


大地が苦笑する。


その横では、ユズキも湯に浸かっていた。


「くぅ~ん……」


普段なら元気に走り回っているユズキも、今はすっかり大人しい。


湯の中で身体を伸ばし、気持ちよさそうに目を細めている。


「お前も気持ちいいか?」


「……わふ」


「そりゃよかった」


男湯に、穏やかな笑い声が広がった。


やがて、しばらく温泉を堪能したところで――。


「……さて」


大地が湯船から立ち上がる。


「今日は完成祝いだろ?」


「おう!」


「もちろんだ!」


「酒だ、酒!」


職人たちが一斉に声を上げる。


「切り替え早すぎだろ……」


大地は苦笑しながらも、その表情には笑みが浮かんでいた。


こうして男たちは湯上がりの宴会へと向かっていった。


大地、ユズキ、そして職人たち。


用意された料理が並べられ、酒が次々と注がれていく。


「それじゃあ――」


大地が盃を持ち上げる。


「温泉の完成を祝って!」


「乾杯!」


「乾杯!」


「お疲れさん!」


一斉に盃がぶつかる。


「くぅん!」


ユズキも嬉しそうに鳴いた。


「お前は酒飲むなよ」


「くぅ……」


「そんな残念そうな顔するなって」


笑い声が起こる。


「いやぁ、それにしても頑張ったよな!」


「最初は温泉だけだったのに、ここまで形になったからな!」


「まだ宿は完成してねぇぞ!」


「それでも今日は祝っていいだろ!」


「もちろんだ!」


職人たちは酒を酌み交わしながら、完成した温泉について語り合う。


苦労した作業。


何度もやり直した場所。


完成した瞬間の喜び。


そんな話をしながら、夜は少しずつ更けていった。


一方――。


女湯では。


「はぁ……」


エレナが湯船に肩まで浸かり、気持ちよさそうに息を吐いた。


「これは……本当に素敵ですね」


「……あぁ。こりゃ最高だ」


隣ではミレッタも湯に浸かっている。


「ダイチの考えてた温泉、ちゃんと完成したな」


「はい」


エレナは周囲を見渡した。


こちらも男湯とほぼ左右対称に造られている。


大きな木製の内湯。


身体を洗うための洗い場。


外には、岩と木々に囲まれた露天風呂。


泡が湧き出る浴槽。


熱い湯。


そして、一人でゆっくりと入れる壺湯。


「大地さん、きっと喜んでいますね」


「そりゃそうだろ」


ミレッタは笑った。


「何日も楽しみにしてたからな」


しばらく二人は静かに温泉を楽しんでいた。


やがて――。


ふと、ミレッタがエレナを見る。


「なぁ、エレナ」


「はい?」


「この前の話なんだけどよ」


「この前……?」


「ダイチのこと」


「……!」


エレナの頬が、ほんのりと赤くなる。


「どうしたんですか?」


「いや」


ミレッタは湯の中で腕を組む。


「ダイチってさ……普段、どんな感じなんだ?」


「どんな感じ……ですか?」


「ああ。二人きりのときとか」


「…………」


エレナは沈黙した。


そして、少し困ったようにミレッタを見る。


「……ミレッタさん」


「なんだ?」


「どうしてそんなことを聞くんですか?」


「いや……なんとなく」


「……なんとなく、ですか?」


「そう。なんとなく」


エレナは小さく笑った。


「ミレッタさんも、本当に大地さんのことが好きなんですね」


「なっ……!」


ミレッタの顔が一気に赤くなる。


「だから……その……」


先ほどまでの勢いが嘘のように、声が小さくなる。


「……そ、そうなる。ごめん、エレナ」


その声は、先ほどまでとは違っていた。


「エレナとそういう仲だってことは知ってる。でも……気になって仕方がないんだ」


エレナはミレッタを見つめる。


そこに冗談めいたものはなかった。


ミレッタは本気で大地を想っている。


「……そうですね」


エレナは小さく笑った。


「私も、大地さんのことなら何でも知りたいと思います」


「すまない」


「どうして謝るんですか?」


「だって……」


ミレッタは俯いた。


「エレナの大切な人を、あたしも好きになっちまったから」


その言葉に、エレナは少しだけ目を伏せる。


そして――。


「好きになってしまったものは、仕方ありません」


「エレナ……」


「大地さんは、とても魅力的な男性ですから」


「……ありがとう」


ミレッタは小さく笑った。


「じゃあ……聞いていいか?」


「答えられる範囲でしたら」


「よし」


ミレッタが少しだけ身を乗り出す。


「ダイチって、好きな女にはどんなことするんだ?」


「い、いきなり……随分と踏み込んできますね」


エレナは少し考えるように視線を逸らす。


「……とても、えっちですね」


「……え?」


ミレッタが固まった。


「え、えっち……?」


「はい……」


エレナの頬が赤く染まる。


「それは……もう……」


「そ、そうか……」


ミレッタも顔を赤くする。


「ダイチは、やっぱりスケベなんだな……」


「そういうところも、ありますね……」


「そ、そうか……」


しばらく二人とも黙り込む。


そして――。


ミレッタが恐る恐る口を開いた。


「あ、あたしの体なんか……興味ねぇだろうな」


「え?」


「ほら……」


ミレッタは自分の胸元へ視線を落とす。


「あたし、エレナみたいに大きくねぇし……」


「ふふっ」


エレナは思わず笑ってしまう。


「何がおかしいんだよ!」


「いえ、ごめんなさい」


エレナは笑いを堪えながら答える。


「確かに大地さんは、胸の大きな女性に視線を奪われることもありますけど……」


「やっぱりか!」


「でも」


エレナはミレッタへ優しく微笑んだ。


「ミレッタさんのような、控えめで可愛らしい方もお好きだと思いますよ」


「……ほ、ほんとか?」


「ええ」


「……そうか」


ミレッタの表情が少し明るくなる。


「………」


少し間を置いてエレナが口を開く。


「……今夜、誘惑してみるというのはどうでしょう?」


「ええ?」


ミレッタが目を丸くする。


「エレナ、本気なのか?」


「ええ…今のミレッタさんは見てられませんもの」


エレナはにっこりと笑う。


「そ、そうか」


ミレッタは顔を真っ赤にしながらも、真剣だった。


「一度くらい……あたしのことを女として見てほしいんだ」


エレナはその言葉を聞いて、少しだけ考える。


そして――。


「……でしたら」


「え?」


「一つ、名案があります」


「名案?」


「はい」


エレナが少しだけ身を寄せ、ミレッタの耳元へ何かを囁く。


「…………」


ミレッタの顔が、みるみる赤くなっていく。


「お、おい……エレナ……」


「ふふっ」


「本当にそれ、やるのか?」


「ミレッタさんが望むのであれば」


「……う」


ミレッタは顔を覆った。


「恥ずかしすぎる……!」


そんなミレッタを見て、エレナは小さく笑う。


「でも――」


「ん?」


「大地さんのことを諦めるつもりは、私にもありませんよ?ダイチさんは今まで以上に私を愛してくれるとを信じてますので」


「……ああ」


ミレッタは苦笑した。


「分かってる」


そして、ぽつりと呟く。


「あたしたちはライバルだからな」


「はい」


「でも……」


ミレッタの声が少し震えた。


「出会ってから一ヶ月くらいしか経ってないのに、頭の中がずっとダイチのことでいっぱいなんだ」


エレナは黙ってミレッタを見つめる。


「仕事しててもダイチ。


飯食っててもダイチ。


寝ようとしてもダイチ……」


ミレッタは困ったように笑う。


「どうしたらいいんだよ、これ……」


その瞳に、うっすらと涙が浮かんだ。


「……つらかったですね」


エレナはそっとミレッタの肩へ手を置いた。


「よく頑張りました」


「……エレナ」


次の瞬間。


ミレッタはエレナへ抱きついた。


「ごめん……」


「いいんですよ」


エレナは優しくミレッタの頭を撫でる。


「好きになることは、悪いことではありませんから」


「……ありがとう」


しばらくして、ミレッタが顔を上げる。


涙を拭いながら、少し照れくさそうに笑った。


「……なぁ、エレナ」


「はい?」


「あたしたち――」


ミレッタは少し迷ってから言った。


「ライバルであり、親友ってことにしないか?」


エレナは目を丸くした。


そして、ふっと笑う。


「もちろんです」


「それとさ……」


ミレッタが照れながら続ける。


「エレナも、もう『ミレッタさん』じゃなくて……ミレッタって呼び捨てにしてくれよ」


「……分かりました」


エレナは少しだけ間を置いてから、微笑んだ。


「では――ミレッタ」


「……おう」


「私も、大地さんに一番愛されるように頑張りますね」


「……ははっ!」


ミレッタが笑った。


「上等だ!」


二人は顔を見合わせ――。


声を上げて笑った。


こうして、温泉での女子会はいつしか、大地をどう振り向かせるかという恋愛相談へと変わっていった。


そして――。


その頃、男湯側では。


「乾杯だー!」


「まだ飲むのかよ!」


「今日はいいんだ!」


「温泉完成祝いだぞ!」


「ユズキまで寝てるぞ!」


「……わふ……」


すっかり酔いが回った職人たちの声が、夜の森へ響いている。


ユズキも宴会の喧騒の中で、いつの間にか丸くなって眠っていた。


やがて夜も更けていき、酔いが回った者から、それぞれの寝床へ戻っていく。


完成したばかりの温泉。


まだ宿は完成していない。


それでも――。


この日、この場所には確かに人の笑い声があった。


男たちの豪快な笑い声。


女たちの楽しげな会話。


そして、その中心にいる大地。


まだ始まったばかりの、小さな温泉宿。


けれど――。


大地が夢見た「人が集まり、笑い合える場所」は、確実に形になり始めていた。

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