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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第41話】建設初日の宴


夕暮れが近づくにつれ、森の中に響いていた作業音が少しずつ減っていった。


木材を運ぶ音。


斧を振るう音。


職人たちの掛け声。


朝から続いていた建設作業も、空が茜色に染まり始めたところで一区切りとなった。


「――今日はここまでにしよう!」


ミレッタが声を上げる。


「お疲れさん!」


職人たちから、次々と声が返ってくる。


「いやぁ、初日からかなり進んだな」


「明日は基礎の続きだ」


「この調子なら、思ったより早く形になりそうだ」


皆、疲れた顔をしている。


それでも、その表情には充実感があった。


大地も額の汗を拭いながら、周囲を見渡す。


朝は何もなかった場所に、建物の基礎となる部分ができている。


積み上げられた木材。


整地された土地。


そして、温泉の周囲には浴場を作るための印までつけられていた。


「……初日としては上出来だな」


大地が呟く。


「そうですね」


エレナも嬉しそうに頷いた。


その横で、ミレッタが腰を伸ばす。


「さすがに疲れたな……」


「ミレッタもずっと動いてたもんな」


「当たり前だろ。あたしだけ休んでるわけにはいかねぇよ」


「じゃあ――」


大地は職人たちを見渡した。


「今日はみんなで飯にしよう」


「飯?」


「せっかく初日なんだ。労いも兼ねて、俺が作るよ」


「ダイチが?」


ミレッタが目を丸くする。


「ああ」


「二十人分だぞ?」


「それくらいなら何とかなる」


「……本気か?」


「本気」


大地は笑った。


「今日は唐揚げにする」


「からあげ?」


ミレッタが首を傾げる。


「なんだ、それ?」


「まあ、食べてみれば分かる」


◇


それからしばらくして。


仮設の調理場では、大地が大量の鶏肉を仕込んでいた。


一口大に切った鶏肉に、醤油や調味料を揉み込んでいく。


「……いい匂いですね」


エレナが隣で興味深そうに覗き込む。


「まだ揚げてないんだけどな」


「それでも食欲をそそられます」


「今日はかなり作らないとな」


大地は山のように積まれた鶏肉を見る。


「二十人分だからな」


「お手伝いします」


「じゃあ、衣をお願いできる?」


「はい」


エレナが小麦粉と片栗粉を混ぜ合わせていく。


一方、大地は油を熱した。


やがて――。


ジュワァァァッ!


熱した油へ鶏肉を入れた瞬間、激しい音が響いた。


「……!」


職人たちが一斉に振り返る。


ジュワジュワと油が弾ける。


それと同時に、香ばしい匂いが一気に辺りへ広がっていった。


「なんだ、この匂い……」


「肉を焼いてるのか?」


「いや、違う。何か揚げてるぞ」


「こんな匂い、初めてだな……」


作業を終えたばかりの職人たちが、次々と調理場へ集まってくる。


大地は笑いながら、鶏肉をひっくり返した。


衣が徐々に黄金色へ変わっていく。


「おい……」


一人の職人が呟いた。


「なんだ、その色……」


「美味そうだろ?」


「美味そうっていうか……」


職人はごくりと喉を鳴らした。


「腹が勝手に鳴るんだが」


周囲から笑い声が起こる。


大地は揚がった鶏肉を油から取り出す。


網の上へ置くと――。


ジュッ……。


余分な油が落ちていく。


表面はこんがりとした黄金色。


ところどころに衣が不規則に膨らみ、見るからにカリカリしている。


「よし」


大地は一つ摘まみ上げる。


「完成」


「おお……!」


職人たちから歓声が上がる。


テーブルの上には、山のような唐揚げが並べられた。


「……すげぇ量だ」


「二十人分だからな」


「本当に全部食っていいのか?」


「ああ。今日は遠慮なしだ」


「いただきます!」


一人の職人が、恐る恐る唐揚げを手に取った。


まだ熱い。


「熱っ……!」


息を吹きかける。


そして――。


「……いただきます」


ガブッ。


――サクッ!


衣が砕ける小気味いい音が響いた。


「……!」


職人の動きが止まる。


「どうした?」


隣の職人が尋ねる。


しばらく無言だった男は――。


「……うまい」


「そんなに?」


「いや……」


男は唐揚げを見つめる。


「なんだこれ?」


「だから唐揚げだって」


「そういうことじゃねぇ!」


男が声を上げる。


「外側が、こんなにカリッとしてるのに……!」


もう一口。


今度は少し大きく噛む。


――サクッ。


その直後。


ジュワッ。


肉の中から大量の肉汁が溢れた。


「うおっ!」


「どうした!?」


「肉汁が出てきた!」


「当たり前だろ」


「当たり前じゃねぇよ!」


男は驚きながらも、夢中で食べ続ける。


「味が染みてる!」


「肉が柔らけぇ!」


「衣が香ばしい!」


「なんだこれ、止まらねぇぞ!」


それを聞いた他の職人たちも我慢できなくなった。


「俺も!」


「一個くれ!」


「俺にもだ!」


「熱いから気をつけろ!」


一斉に唐揚げへ手が伸びる。


「うまい!」


「なんだこれ!」


「こんな料理、見たことねぇぞ!」


「酒が欲しくなるな!」


その言葉に、大地が笑った。


「もちろん用意してる」


「何!?」


大地は立ち上がる。


「まだ本番はこれからだ」


◇


大地が運んできたのは、いくつもの木箱だった。


「なんだ?」


「酒だよ」


「酒!」


職人たちの目が一斉に輝く。


ドワーフ族にとって酒は馴染み深い。


酒造りを得意とする者も多く、職人たちも当然のように酒を嗜む。


だからこそ――。


「……ん?」


一人の職人が木箱の中を覗き込んで首を傾げた。


「瓶が濡れてるぞ?」


「本当だ」


「なんでだ?」


大地は瓶を一本取り出す。


表面には無数の水滴。


触れた職人が目を丸くする。


「冷たっ!」


「なんだこれ!?」


「まるで氷のそばに置いてたみたいだぞ!」


大地が笑う。


「エレナに魔法で冷やしてもらったんだ」


「魔法で?」


エレナが頷く。


「はい。かなり冷やしています」


「ここまで冷やすのか?」


「はい」


職人たちは顔を見合わせる。


「酒を冷やす……?」


「そんな飲み方があるのか?」


「俺たちは酒を冷やすなんて聞いたことねぇぞ」


「そもそも、どうやってここまで冷やしたんだ?」


エレナが少し得意そうに微笑む。


「魔法です」


「便利すぎるだろ……」


大地が瓶を開ける。


――プシュッ!


「おおっ!?」


突然響いた音に、職人たちが一歩下がる。


「なんだ!?」


「爆発したのか!?」


「違う違う!」


大地が笑う。


「大丈夫だから」


瓶の口から、白い泡が少しだけ溢れた。


「泡……?」


「酒から泡が出てるぞ」


「こんなの初めて見た……」


大地はグラスを傾ける。


黄金色の液体が流れ込み、その上に真っ白な泡がどんどん積み重なっていく。


「……綺麗だな」


誰かが呟いた。


大地は全員へグラスを配った。


「これはビールっていう酒だ」


「ビール……」


ミレッタもグラスを受け取る。


冷たい。


いや――。


冷たいというより、手のひらが痛いほどだ。


「こんなに冷やして、本当に飲めるのか?」


「もちろん」


大地が笑う。


「じゃあ、初日の作業、お疲れさまでした!」


「お疲れ!」


「乾杯!」


「乾杯!」


――カンッ!


グラスが一斉にぶつかる。


職人たちは、まず香りを嗅いだ。


「……なんだ、この匂い」


「麦みたいな匂いがするな」


「少し苦そうだ」


「酒なのに透明じゃないのも珍しいな」


「飲んでみろよ」


一人の職人が意を決して口をつける。


ごくっ。


「…………」


止まる。


「どうだ?」


「……冷たい」


「それは見れば分かる」


「そうじゃねぇ」


男がもう一口飲む。


「冷たいのに、口の中で泡が弾ける」


「泡が?」


「舌が……なんていうか、くすぐったい」


周囲が興味津々に見つめる。


そして男がもう一口。


ごくっ。


「……うめぇ」


「本当か?」


「飲んでみろ!」


次々と職人たちが口をつける。


「……!」


「なんだこれ!」


「苦い!」


「でもうめぇ!」


「苦いのに、後味がすっきりしてる!」


「しかも冷てぇ!」


「喉を通った瞬間が気持ちいいぞ!」


一人の職人が一気に飲み干した。


「ぷはぁっ!」


そして――。


「もう一杯!」


「早ぇよ!」


大地が笑いながら注ぐ。


「これ、夏に飲んだらどうなるんだ……」


「最高だろうな」


「こんな酒が存在するのか……」


酒好きのドワーフたちが、完全にビールに夢中になっている。


その光景を見て、ミレッタも恐る恐る口をつける。


「……」


ごくっ。


冷たい。


苦味が舌に広がる。


けれど、その苦味は嫌なものではない。


むしろ――。


「……ん」


もう一口。


「……これ、うまいな」


大地が笑う。


「だろ?」


「……ああ」


ミレッタは素直に頷いた。


そして唐揚げを一つ取る。


サクッ。


肉汁が溢れる。


すぐにビールを一口。


ごくっ。


「…………」


ミレッタの目が見開かれた。


「……これ」


「ん?」


「これ、反則だろ」


「何が?」


「唐揚げ食った後に、この酒飲んだら……」


もう一口。


「止まらなくなるじゃねぇか!」


大地が吹き出す。


「ははは!」


「笑うな!」


「いや、だって……」


「ほら、もう一個!」


ミレッタは唐揚げを口へ放り込む。


サクッ。


ごくっ。


「……うめぇ」


また唐揚げ。


またビール。


「……うめぇ!」


完全に虜になっていた。


◇


宴会は一気に盛り上がった。


「唐揚げ追加!」


「ビールもだ!」


「こっち空だぞ!」


「まだまだある!」


大地が次々と料理と酒を追加していく。


二十人の職人たちは、唐揚げとビールを交互に楽しみながら、大声で笑い合っていた。


「こんな飯を食ったのは初めてだ!」


「酒も最高だ!」


「明日も頑張れそうだな!」


「明日どころか一ヶ月くらい働けるぞ!」


「それは働きすぎだ!」


大地も笑う。


「明日もちゃんと休憩は取れよ!」


「分かってる!」


「でも唐揚げは毎日食いてぇ!」


「毎日は無理!」


また笑い声が響く。


◇


宴会が盛り上がる中。


ミレッタは少し離れた場所で、ビールの入ったグラスを眺めていた。


「……すげぇ酒だな」


グラスの中で泡が弾けている。


その向こうには、大地がいる。


職人たちに囲まれ、楽しそうに笑っている。


その隣にはエレナ。


エレナもまた、楽しそうに笑っていた。


ミレッタは二人を見つめる。


そして――。


一度だけ視線を逸らした。


「……飲もう」


グラスを口へ運ぶ。


冷たいビールが喉を通る。


胸の奥に残る、ほんの少しの寂しさまで流し込むように。


「ミレッタさん」


エレナの声が聞こえた。


「はい?」


振り向く。


「今日は、本当にありがとうございます」


「……何が?」


「こんなにたくさんの職人さんを集めてくださって。これから大変な作業になりますが、とても心強いです」


「……」


ミレッタは少しだけ驚いた。


そして笑う。


「気にすんなって」


「でも――」


「ダイチには、あたしもいっぱい助けてもらったんだ」


ミレッタはそう言って、もう一度ビールを飲む。


「だから、これくらい返させてくれよ」


エレナは優しく微笑んだ。


「ありがとうございます、ミレッタさん」


「……ああ」


その笑顔に、少しだけ胸が痛んだ。


それでもミレッタは笑った。


「明日からも、頑張ろうな」


「はい」


ミレッタは立ち上がる。


そして、大地たちのところへ戻っていった。


「おい、ダイチ!」


「ん?」


「唐揚げ、もうなくなりそうだぞ!」


「えっ、もう!?」


「早く追加しろ!」


「分かったよ!」


大地が笑う。


ミレッタも笑う。


今は、それでいい。


好きな人の隣に立てなくても。


こうして同じ場所で笑っていられるなら――。


それだけで、十分だから。


夜の森に、職人たちの笑い声がいつまでも響いていた。

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