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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第32話】冒険者ギルドで依頼達成報告


クレーベルの街へ戻ってきた大地とエレナは、そのまま冒険者ギルドへと向かった。


昼を少し過ぎた頃。


大通りに面した冒険者ギルドの扉を開けると、依頼帰りの冒険者や受付嬢たちの声が飛び交っていた。


「……戻ってきたな」


大地が周囲を見渡す。


数日前まで何度も通っていた場所だ。


しかし、今回はいつもとは少し事情が違う。


鉱山の魔物討伐。


そして――。


最深部で遭遇した、Sランク級の魔鉱巨獣。


「まずは依頼の報告ですね」


隣に立つエレナが言う。


「ああ。そのあと、鉱山の状況も詳しく伝えないとな」


二人は受付カウンターへ向かった。


「お帰りなさいませ、ダイチさん。エレナさん」


受付嬢が笑顔で出迎える。


「鉱山の依頼からお戻りになったんですね」


「はい。ちょうど報告をしようと思いまして」


受付嬢が書類を取り出す。


「では、依頼についてお聞きしますね。今回の討伐数は――」


「それなんですが」


大地が口を挟んだ。


「ちょっと問題がありまして」


受付嬢の手が止まる。


「……問題、ですか?」


「はい」


大地は真面目な顔で頷いた。


「鉱山の最深部に、かなり危険な魔物がいました」


「かなり危険……?」


「Sランク級です」


「…………」


受付嬢の笑顔が止まった。


「……はい?」


「俺の【鑑定】では、危険度Sランク級と出ました」


「…………」


受付嬢がゆっくりと隣のエレナを見る。


エレナは困ったように微笑んだ。


「……本当です」


「…………」


受付嬢の顔から、みるみる血の気が引いていく。


「少々、お待ちください!」


「はい」


受付嬢は奥へ走っていった。


「……ダイチさん」


「ん?」


「受付の方、かなり驚いていましたね」


「まあ、Sランク級だしな」


「ダイチさん」


「ん?」


「そういうところです」


「……何が?」


エレナは小さくため息をついた。


「普通は、Sランク級の魔物を見つけたら、もっと大騒ぎするものだと思います」


「そうなのか?」


「そうです」


「でも倒したぞ?」


「そこです」


「…………?」


大地は本気で分かっていない顔をしている。


エレナはもう一度ため息をついた。


「……やっぱり、ダイチさんは規格外です」


「褒めてる?」


「褒めていません」


そんなやり取りをしていると――。


「お待たせしました!」


先ほどの受付嬢が戻ってきた。


「ギルドマスターがお会いしたいそうです!」


「ギルドマスター?」


「はい。こちらへどうぞ!」


二人は受付嬢に案内され、ギルドの奥へ進んでいく。


やがて、一つの扉の前で足が止まった。


「こちらです」


「ありがとうございます」


大地が扉をノックする。


「入れ」


低く落ち着いた声が返ってきた。


「失礼します」


部屋へ入ると、そこには一人の大柄な男がいた。


机の向こうに座り、書類へ目を通している。


鋭い目つき。


鍛え上げられた身体。


いかにも冒険者ギルドの長といった雰囲気を漂わせている。


男は二人へ視線を向けた。


「……お前たちがダイチとエレナか」


「はい」


大地が頭を下げる。


「弓守大地です。こちらはエレナ」


「エレナと申します。よろしくお願いいたします」


エレナが丁寧に頭を下げる。


男も立ち上がった。


「俺はクレーベル冒険者ギルドのギルドマスター、バルガス・ヴァレンシュタインだ」


「よろしくお願いします」


「こちらこそな」


バルガスは二人へ椅子を勧めた。


「それで――」


椅子へ座るなり、バルガスの表情が変わる。


「Sランク級の魔物が鉱山にいたという話だが、本当か?」


「はい」


「どんな魔物だ?」


「魔鉱巨獣という魔物です」


「……魔鉱巨獣?」


バルガスの眉が動いた。


「聞いたことのない名前だな」


「俺の【鑑定】ではそう表示されました」


「【鑑定】持ちか」


「はい」


大地は頷いた。


「鑑定結果を説明します」


「頼む」


「種族名は魔鉱巨獣。危険度はSランク級。高純度魔鉱石を長期間、大量に摂取した特殊個体で、全身の組織が魔鉱石化していました」


バルガスの表情が険しくなる。


「……なるほど」


「物理攻撃、魔法攻撃の両方に対して高い耐性がありました。それから、体内に蓄積した魔力を使って、周囲の魔鉱石から常時魔力を吸収していました」


「待て」


バルガスが手を上げる。


「つまり、そいつが鉱山の魔鉱石から魔力を吸い続けていた、と?」


「そうです」


「……それで、最近の魔物の異常強化が起きていた可能性がある?」


「エレナもそう考えています」


「はい」


エレナが頷く。


「魔鉱巨獣が長期間にわたって魔力を吸収していたのであれば、鉱山内部の魔力濃度そのものに影響を与えていた可能性があります。その結果、周囲の魔物が魔鉱石を取り込み、異常な強さを得たのではないかと」


「なるほど……」


バルガスは腕を組む。


「早急にSランクの緊急依頼を出して、高ランクパーティを招集する必要性があるな」


「倒しました」


「…………」


沈黙。


バルガスは大地を見る。


「……ん?…誰が?」


「俺が」


「…………」


「エレナにも手伝ってもらいましたけど」


「…………」


バルガスの視線がエレナへ移る。


エレナは苦笑した。


「私は、ほんの少しです」


「ほんの少し……?」


「はい。魔力を吸われてしまって、ほとんど魔法が使えませんでしたので」


「……そうか」


バルガスは再び大地を見る。


「ど、どうやって倒した?」


「胸にある核を壊しました」


「核?」


「赤黒い魔鉱石です。そこに魔力が集中していたので」


「…………」


バルガスは額を押さえた。


「お前……」


「はい?」


「Sランク級を一人で倒したのか?」


「いや、一人じゃないですよ」


大地は首を横に振る。


「エレナが魔法で動きを止めてくれたので、その隙に核を殴りました」


「…………」


エレナが小声で付け加える。


「ダイチさん、最後は正面から前脚を受け止めていましたけど」


「そうだったな」


「……普通、受け止めません」


「でも避けたらエレナとミレッタに当たるだろ」


「だからといって、Sランク級の前脚を正面から受け止めるのは普通ではありません」


「…………」


バルガスが頭を抱えた。


「……話を聞けば聞くほど、お前の普通が分からなくなるな」


「そうですか?」


「当たり前だ!」


バルガスは深く息を吐いた。


「まあいい。証拠はあるのか?」


「あります」


大地はアイテムボックスを開いた。


「……ま、待て待て!」


「はい?」


「アイテムボックス持ちか!?」


「そうですが…?」


「容量は?」


「分かりません」


「…………」


「今のところ困ったことがないので」


バルガスは天井を見上げた。


大地はバルガスを半ば無視しながら、素材を漁り始める。


「これです」


ドサッ。


机の上に、黒々とした鉱石の塊が置かれた。


「…………」


バルガスの目が見開かれる。


「これは……」


「魔鉱巨獣の外皮です」


「外皮……?」


「一部です」


「…………一部?」


「ああ」


大地は何でもないことのように答えた。


「全部持ってくると邪魔だったので」


バルガスは絶句した。


「……そうか」


続いて、大地は別の素材を取り出す。


ドサッ。


ドサッ。


ドサッ。


机の上へ次々と素材が積み上がっていく。


「魔鉱巨獣の爪」


「……」


「結晶部分」


「…………」


「赤黒い核の破片」


「………………」


「あと、これは普通の魔鉱石です」


バルガスは積み上がった素材を見つめる。


「……もういい」


「?」


「もう驚くのに疲れた」


エレナが思わず口元を押さえる。


「……ふふ」


「エレナ」


「はい?」


「こいつ、本当に普段からこんな感じなのか?」


「……はい」


即答だった。


「非常に困っています」


「エレナ!?」


「ふふっ」


部屋の中に、小さな笑い声が響いた。


だが、バルガスはすぐに素材へ視線を戻した。


「しかし……これは本当に凄いな」


先ほどまでの冗談めいた表情が消える。


「これほど純度の高い魔鉱石は、そう簡単には採れない」


「そうなんですか?」


「そうなんですか、じゃないんだよ!」


バルガスは呆れたように言う。


「この品質なら、一つだけでも相当な価値がある」


「へえ」


「しかも量が異常だ」


「そんなに?」


「そんなにだ」


大地は首を傾げる。


「じゃあ、これも買い取ってもらえますか?」


「もちろんだ」


バルガスは即答した。


「ギルドとしても、これだけの素材を正式に買い取れるならありがたい」


「じゃあお願いします」


「分かった。では査定を――」


バルガスが素材へ目を向ける。


「…………」


数秒後。


「……いや、待て」


「はい?」


「これ、全部売るつもりか?」


「そのつもりです」


「…………」


バルガスはもう一度素材の山を見る。


そして、大地を見る。


「……悪い」


「はい?」


「うちのギルドには、これを全部買い取れるだけの現金がない」


「…………」


今度は大地が固まった。


「……え?」


「だから、金がない」


「ギルドなのに?」


「ギルドにも予算というものがあるんだよ!こんなレアな素材…どれだけするか分かってるのか?ちっさなそこそこの街が買えるぐらいの金額だぞ!?バカなの!?」


バルガスが机を叩いた。


「Sランク級の魔物の素材を一気に持ち込むな!」


「いや、倒したから……」


「そういう問題じゃない!」


エレナが横で苦笑する。


「ダイチさん……」


「はい」


「やっぱり、一度に全部売ろうとするのは無理があったのでは?」


「……そうかな?」


「そうです」


バルガスも大きく頷く。


「そうだ」


「…………」


大地は机の上に積み上がった素材を見つめる。


「じゃあ、どうしましょう?」


「……まずは査定だけはしよう」


バルガスは疲れたように椅子へ深く腰を下ろした。


「金額を出して、分割して買い取るなり、商業ギルドを通すなり考える」


「なるほど」


大地は頷いた。


「じゃあ、お願いします」


「……分かった」


バルガスは書類を取り出し、口元を緩める。


「その腕を見込んでだが、うちのギルドの専属冒険者になってくれないか?」


「専属ですか?」


「ああ」


バルガスは大地を見る。


大地は少し考えてから答えた。


「街のはずれに温泉宿を建てる予定なので、遠慮しておきます」


「…………」


バルガスの手が止まった。


「……温泉宿?」


「はい」


「……宿屋か?今回の報酬があれば豪華な宿屋でもなんでも思うがままだろうよ」


「そうなんですね」


エレナが隣で小さく笑った。


「ダイチさん」


「ん?」


「ギルドマスターさん、疲れてしまったようですよ」


「そうみたいだな」


「誰のせいだと思ってるんだ……」


バルガスの呟きだけが、静かな部屋に響いた。

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