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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第25話】鉱山の異変


鉱山へ入る。


一歩、また一歩。


外から差し込んでいた光が背後へ遠ざかるにつれ、周囲は急速に暗くなっていった。


入口から数十メートルも進めば、もう振り返っても外の景色は見えない。


聞こえるのは、二人の足音と、時折どこか遠くから響いてくる水滴の音だけだった。


「……思った以上に暗いですね」


エレナが周囲を見渡す。


「このままだと何も見えないな」


大地も足を止める。


すると、エレナが杖を取り出した。


「それなら――」


杖の先端へ、淡い光が集まり始める。


「静かなる光よ、闇を裂き、我らの歩むべき道を照らし給え」


一瞬、周囲の空気が揺らいだ。


「――『ルミナス』」


ふわり。


小さな光球が生まれ、エレナの頭上へ浮かび上がる。


柔らかな光が坑道を照らした。


壁や天井、足元に至るまで、ぼんやりとした明かりが届く。


「おお……」


大地が感嘆の声を漏らす。


「便利だな、これ」


「洞窟や夜間の探索では、よく使う魔法ですよ」


「こういう魔法なら俺も欲しいな」


「ダイチさんは魔法が使えないんでしたね」


「そうなんだよな」


大地は少し残念そうに呟きながら、坑道の奥へ視線を向けた。


「……それにしても、思ったより広いな」


坑道はかなり奥まで続いている。


左右にはいくつもの横穴があり、ところどころには採掘途中と思われる跡も残されていた。


壁には無数のつるはしの跡。


長い年月をかけて掘り進められてきたことが分かる。


「かなり古い鉱山のようですね」


エレナも壁を眺めながら答える。


「ここでずっと鉱石を掘ってきたのか」


「おそらく」


二人は慎重に歩みを進める。


その途中で――。


「……来ます」


エレナの声が低くなった。


同時に、杖を構える。


「何かいる?」


「前方です」


大地も目を凝らす。


ルミナスの光が届かない暗闇。


その奥から――。


「グルルル……」


低い唸り声が響いた。


一度ではない。


複数。


「……三体」


大地が呟いた直後。


暗闇から、二つ、四つ、六つの赤い瞳が浮かび上がった。


やがて光の中へ姿を現したのは――三体の狼型魔物だった。


「鑑定」


大地が視線を向ける。


【魔鉱狼】


【魔鉱石の影響を長期間受けた狼型魔物】


【体内に魔鉱石を栄養素として取り込み、身体能力と魔力耐性が強化されている】


「魔鉱狼……?」


大地が表示された情報を読む。


「聞いたことがあります」


エレナが驚いたように目を見開いた。


「魔鉱石を体内に取り込んだ魔物ですね」


「つまり、こいつらも魔鉱石を食べてるってことか」


「おそらく。長期間にわたって魔鉱石を摂取したことで、通常のウルフとは性質そのものが変化しているのでしょう」


エレナが説明している間にも、魔鉱狼たちは低く身体を沈めていた。


「……来る!」


次の瞬間。


三体が一斉に駆け出した。


「ダイチさん!」


エレナが杖を振る。


「紅蓮よ、燃え盛る焔の意志を刃とし――」


杖の先に赤い光が集まっていく。


「一点に集いて、敵を貫く槍となれ!」


――『フレイム・ランス』!


轟音とともに、炎の槍が放たれた。


一直線に飛翔した炎が、先頭の魔鉱狼へ直撃する。


――ボッ!


炎が弾ける。


しかし――。


「……え?」


エレナが目を見開く。


魔鉱狼の身体を包んだ炎は、一瞬だけ大きく燃え上がったものの、まるで何かに吸い取られるように勢いを失っていった。


魔鉱狼は止まらない。


ほとんど傷を負った様子もなく、そのまま突っ込んでくる。


「魔法が……!」


「魔鉱石が魔力を吸収しているんです!」


「なるほど!」


大地は即座に前へ出た。


魔鉱狼が牙を剥き、飛びかかってくる。


「せやっ!」


大地は真正面から拳を叩き込んだ。


――ドゴォッ!


拳が腹部へめり込み、魔鉱狼の巨体が宙へ浮く。


そのまま勢いを殺せず、岩壁へ激突した。


――ズドンッ!


「一体!」


残る二体が左右へ散開する。


「ダイチさん、左!」


「了解!」


左から飛び込んできた魔鉱狼の爪が、大地の顔面を掠める。


大地は身体を沈め、紙一重でかわした。


そのまま懐へ潜り込む。


「遅い!」


腰を捻り、拳を叩き込む。


――ドゴンッ!


魔鉱狼が大きく吹き飛び、地面を転がった。


「残り一体!」


背後から気配。


「右!」


「分かってる!」


振り向きざま、大地が脚を振り抜く。


――ドンッ!


蹴り飛ばされた魔鉱狼が地面を何度も転がり、壁際で動きを止めた。


「……終わり」


大地は軽く息を吐いた。


三体。


それも、普通のウルフより遥かに強い魔物だった。


しかし大地にとっては――。


「この魔物、強かったのか?」


まるで散歩の途中で小さな障害物を片付けたような顔で尋ねる。


エレナはしばらく黙っていた。


「……昨日のウルフとは、比べ物になりません」


「やっぱり?」


「恐らく、一般的な基準ならBランク相当の危険度がある魔物です」


「Bランク……」


大地は倒れた魔鉱狼を見る。


「昨日のウルフと大差ないように感じるがな」


「ダイチさんが異常なだけです!」


エレナが思わず声を上げた。


「そ、そうなのか?」


「そうです!」


エレナは真剣な顔で頷く。


「普通の冒険者なら、三体を相手にすれば命懸けですよ」


「……温泉のおかげだな」


大地は苦笑した。


「便利すぎるな、この温泉」


エレナは何とも言えない表情を浮かべた。


そのとき、大地が倒した魔鉱狼へ近づく。


「もう一度、鑑定してみるか」


「何か分かるかもしれませんね」


大地が手をかざす。


「鑑定」


【魔鉱狼】


【体内に低純度魔鉱石を蓄積】


【魔鉱石の蓄積量に比例して魔力耐性が上昇する】


「……体内に魔鉱石がある」


「本当ですか?」


「うん」


大地は表示を眺めながら考える。


「魔鉱石を食べて、身体の中に溜め込むことで強くなったってことか」


「そう考えてよさそうですね」


「なるほど……」


大地は倒れた魔鉱狼を見る。


「この鉱山にいる魔物は、みんな魔鉱石の影響を受けてるのかもしれないな」


「その可能性は高いと思います」


二人は倒した魔鉱狼から必要な素材を回収すると、さらに坑道の奥へ進んでいった。


◇


坑道の奥へ進むにつれ、明らかに様子が変わっていった。


最初は岩肌ばかりだった壁に、少しずつ鉱石が目立つようになる。


やがて――。


「……これ、普通の鉱石じゃないよな」


大地が足を止めた。


壁のあちこちに、黒く光る鉱石が埋まっている。


その隣には青白い光を放つもの。


さらに奥には、銀色に輝く鉱石まで見える。


「はい」


エレナが慎重に近づく。


「……魔力を感じます」


「鑑定してみる」


大地が壁へ手を向ける。


「鑑定」


【魔鉱石】


【魔力を蓄積する性質を持つ鉱石】


【純度:高】


「やっぱり魔鉱石だ」


大地は周囲を見渡す。


「これだけの量……」


「普通ではありません」


エレナの声にも、驚きが滲んでいた。


「これほど濃密な魔力を持つ鉱床は、私も見たことがありません」


「そんなに珍しいのか?」


「はい」


エレナは魔鉱石へ手を近づける。


しかし――。


「……っ」


僅かに眉を寄せた。


「どうした?」


「いえ……」


エレナは一度手を引く。


「この鉱石、近づくだけでも魔力へ干渉してきます」


「魔力に?」


「はい」


大地は改めて壁を見る。


「じゃあ、魔物が強くなった原因も……」


「この魔鉱石である可能性が高いでしょう」


「なるほどな」


大地は腕を組む。


そして、ふと別のことに気づく。


「じゃあ、これってかなり価値がある?」


エレナが頷く。


「恐らく」


大地の目が輝いた。


「……もしかして」


宿の建設資金。


土地。


建材。


調理設備。


これから必要になるものはいくらでもある。


「これ、売れたら……」


「かなりの金額になる可能性があります」


「……一攫千金じゃん」


大地の顔が、少しだけ緩んだ。


しかし――。


「ダイチさん」


エレナの声が、急に硬くなった。


「どうした?」


「少し……変です」


「何が?」


エレナは胸元へ手を当てる。


「魔力が……安定しません」


「魔力?」


「はい」


エレナは目を閉じ、身体の中へ意識を集中させる。


いつもなら、呼吸とともに自然に巡る魔力。


それが――。


「……っ」


エレナが眉を寄せた。


「魔力が乱れて……安定しません」


「この魔鉱石が原因なのか?」


「恐らく……」


エレナの額に、薄く汗が浮かぶ。


大地の表情が変わった。


「それ、大丈夫なのか?」


「今のところは問題ありません」


エレナは微笑もうとする。


「簡単な魔法なら使えると思います」


「でも、無理はするなよ」


「はい」


「危なくなったら、すぐ戻ろう」


「分かりました」


大地は周囲を見渡す。


さっきまでとは明らかに違う。


奥へ進むほど、魔鉱石の量が増えている。


そして――。


魔鉱石が増えるほど、エレナの魔力への干渉も強くなっている。


「……何かおかしいな」


大地は小さく呟いた。


それでも二人は、さらに奥へ進んだ。


◇


整備された坑道から外れ、奥へ進む。


そこから先は、明らかに人の手が入っていない。


崩れた岩。


剥き出しの鉱脈。


狭くなった通路。


その途中で、何度も魔物と遭遇した。


「また来ます!」


エレナの声が響く。


暗闇から現れたのは、巨大なトカゲ型の魔物だった。


「鑑定!」


大地が視線を向ける。


【メタルリザード】


【魔鉱石を摂取した大型爬虫類】


【外皮の一部が金属化しており、物理・魔法双方への耐性を持つ】


「メタルリザード!」


大型の魔物が、地面を揺らしながら咆哮する。


「グオオオオッ!」


「ずいぶんと硬そうだな!」


大地が拳を構える。


「この魔物も、魔法が効きにくいはずです!」


エレナが杖を構える。


「試してみます!」


エレナが魔力を集める。


しかし――。


「……っ」


魔力が一瞬、乱れた。


「エレナ?」


「大丈夫です!」


エレナは集中し直す。


「疾き風よ、我が意に従い、その身を刃と成せ」


風が渦を巻く。


「見えざる刃となりて、敵を斬り裂け――」


――『ウィンド・ブレード』!


鋭い風の刃が、メタルリザードへ向かって飛翔する。


直撃。


――キィンッ!


しかし、甲高い金属音を響かせて弾かれた。


風の刃は霧散し、メタルリザードには傷一つ残っていない。


「……本当に効かない!」


「魔鉱石の影響です!」


エレナが悔しそうに唇を噛む。


「魔力を吸収するだけじゃない。身体そのものが魔法に対して強くなっているんです!」


「なるほど!」


大地は駆け出した。


メタルリザードが巨大な尾を振り抜く。


「よっ!」


大地は跳び上がり、頭上を通過する尾をかわす。


着地と同時に地面を蹴った。


「そこだ!」


拳がメタルリザードの頭部へ叩き込まれる。


――ドゴンッ!


「硬っ!」


拳に強烈な衝撃が返ってくる。


まるで金属の塊を殴ったような感触だった。


大地は一瞬、手を振る。


「……こいつ、今までの魔物とは全然違うな」


メタルリザードが大口を開く。


その巨体が、大地へ向かって突進してきた。


「でも――」


大地は拳を引く。


「これなら!」


踏み込む。


身体全体の力を拳へ集める。


「もう一発!」


――ドォンッ!


鈍い轟音が坑道に響いた。


メタルリザードの巨体が大きく浮き上がり、そのまま数メートル先まで吹き飛んでいく。


岩壁へ激突し、土煙が舞った。


「……すごい」


エレナが呆然と呟く。


「これほどの魔物を……ほとんど力任せで……」


「温泉のおかげだな」


大地は軽く手を振る。


だが、その表情から笑みが消える。


「でも、こいつら……本当に強くなってる」


その後も、二人は何度も魔物と遭遇した。


魔鉱狼。


メタルリザード。


そして、これまで見たことのない、魔鉱石の影響を受けた様々な魔物たち。


共通しているのは――。


異常な身体能力。


そして、魔法への高い耐性。


それでも、大地は足を止めなかった。


温泉によって強化された身体能力。


昨日から繰り返してきた戦闘によって、少しずつ身についてきた魔物との戦い方。


最初は一体倒すだけでも必死だった。


だが今では――。


「次!」


拳を叩き込み、魔物を吹き飛ばす。


「まだ来る!」


横から襲いかかる魔物を蹴り飛ばす。


「右!」


エレナの声に反応し、身体を捻る。


迫ってきた牙を紙一重でかわし、そのまま顎を打ち抜いた。


――ドゴォッ!


魔物が地面へ転がる。


「……すごい」


エレナが思わず呟いた。


大地は止まらない。


「この程度なら……」


大地は拳を握る。


「なんの問題もない!」


次々と魔物が倒れていく。


しかし――。


二人が進むほど、魔鉱石の量は増えていった。


そして同時に。


エレナの表情も、少しずつ険しくなっていった。


「……ダイチさん」


「どうした?」


「この先……」


エレナが、暗闇の奥を見つめる。


「さらに魔力の濃度が高くなっています」


大地も足を止めた。


ルミナスの光が照らす先。


そこには――。


これまでとは比べ物にならないほど、濃密な魔鉱石の鉱脈が広がっていた。


壁だけではない。


天井にも、地面にも。


黒く、青白く、銀色に輝く鉱石が、まるで生き物のように坑道を覆っている。


「……なんだ、これ」


大地は息を呑んだ。


「魔鉱石……多すぎないか?」


エレナも答えられない。


ただ、その鉱脈を見つめている。


「……こんな鉱床……」


エレナが小さく呟いた。


「私も、見たことがありません」


その瞬間。


――ズン……。


遠くから、地面を揺らすような音が響いた。


二人は同時に顔を上げる。


「……今の、何だ?」


エレナが杖を握り直す。


「分かりません……」


――ズン……。


また、響いた。


今度は先ほどよりも近い。


坑道の奥から、何か巨大なものが動いている。


そんな錯覚を覚えるほどの振動だった。


大地は無意識に拳を握った。


「……どうやら」


暗闇の先を見据える。


「この鉱山、ただ魔物が増えてるだけじゃなさそうだな」


エレナも静かに頷く。


「……はい」


二人の前には、さらに深く続く暗闇が広がっていた。


その奥で何が起きているのか――。


まだ、二人には分からない。


ただ一つ確かなのは。


この鉱山で起きている異変が、想像していた以上に大きなものだということだった。


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