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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第23話】夢への第一歩


クレーベルを出てから、しばらく歩く。


街道を離れ、森へ入る。


さらにその先へ進むと――以前訪れた温泉地が見えてきた。


「……戻ってきたな」


大地が呟く。


木々の間から、白い湯気がゆっくりと立ち上っている。


「はい」


エレナも嬉しそうに微笑んだ。


「やはり、落ち着きますね」


「分かる」


大地も頷く。


街の喧騒から離れた森。


鳥の鳴き声と木々のざわめき。


そして、温泉から漂ってくる独特の香り。


以前はただの『温泉を見つけた場所』だった。


けれど今日からは違う。


「ここを拠点にするんだな」


「はい」


二人は周囲を見渡した。


温泉のすぐそばには木々が生えているが、少し離れた場所には開けた場所もある。


大地はその一角を指差した。


「テントは、あそこにしよう」


「温泉から近すぎず、遠すぎない場所ですね」


「何かあったときにすぐ戻れるし、周囲も見渡しやすい」


「良いと思います」


「じゃあ――設営開始だ」


大地はアイテムボックスからテントを取り出した。


以前なら、これだけの荷物を運ぶだけでも一苦労だっただろう。


しかし今は、必要な道具を簡単に取り出せる。


「便利だな……アイテムボックス」


「本当に羨ましいです」


二人でテントを組み立てる。


さらに、その横に簡単な焚き火場を作った。


水を置く場所。


食料を保管する場所。


調理をする場所。


荷物をまとめておく場所。


必要最低限ではあるが、少しずつ『生活する場所』らしくなっていく。


「よし」


大地は腰に手を当てた。


「とりあえず、寝る場所は確保できた」


「思ったより快適ですね」


エレナがテントを眺めながら微笑む。


「温泉もありますし」


「それは確かに」


二人は顔を見合わせて笑った。


ただの野営地。


それなのに――。


これから始まる生活を想像すると、不思議と心が弾んだ。


◇


「じゃあ、次は道を確認しよう」


大地は冒険者ギルドでもらった地図を広げた。


「ここが今いる場所」


「はい」


「ここから山道に入って――」


指で道をなぞっていく。


「この先が鉱山だな」


「距離としては、それほど遠くありません」


エレナが地図を覗き込みながら答える。


「ここからなら、歩いて十五分程度でしょうか」


「十五分なら近いな」


「ただし、実際に歩いてみないと正確な時間は分かりません」


「そうだな」


大地も頷く。


地図には鉱山へ続く道が記されている。


途中には森。


岩場。


そして、細い山道。


「この道を通って鉱山まで行くわけか」


「はい」


「なら、明日からはここを往復することになるな」


「そうですね」


二人は地図を見ながら、鉱山までの経路や危険になりそうな場所を確認していく。


「それから、魔物が出た場合の動きも決めておこう」


「はい」


「俺が前に出て、エレナが後ろから援護する」


「基本はそれで問題ありません」


「危険な魔物がいたら?」


「その場合は私が先に動きを止めます。その隙にダイチさんが攻撃してください」


「了解」


二人は簡単な戦闘時の役割を確認した。


まだ実戦で試したわけではない。


だからこそ、実際に魔物と戦いながら調整していく必要がある。


「よし」


大地が地図を畳む。


「だいたい分かった」


「では――」


エレナが温泉へ視線を向けた。


「魔物討伐をするのであれば、ここで身体能力を強化しておいたほうがいいですね」


「そうだな」


大地も頷く。


「じゃあ――」


エレナが少しだけ頬を赤らめる。


「……入りましょうか?」


「……そうしよう!」


◇


白い湯気が立ち上る温泉。


大地はゆっくりと湯船に身体を沈めた。


「……はぁ」


思わず声が漏れる。


全身の力が抜けていく。


「やっぱりこれだな……」


「今日はかなり歩きましたからね」


エレナも隣で温泉に浸かる。


二人だけの静かな時間。


大地はふと、隣にいるエレナへ視線を向けた。


昼間の明るい光に照らされたエレナの姿が、手拭いで体を隠しながら入浴している。


「……」


気がつけば、大地はエレナをじっと見つめていた。


「……ダ、ダイチさん」


エレナが恥ずかしそうに声をかける。


「そんなに見られると……緊張します……」


「……ごめん」


そう言いながらも、大地は視線を逸らせなかった。


「はい……」


「………隠さないで見せてくれ」


「………っ!」


顔を下に向けながら、コクンと少し頷き、手拭いを恥ずかしそうに取り払った。


太陽に照らされるエレナの体は、月明かりに照らされる時と違って、よく見える。


「……綺麗だ」


「……は、恥ずかしいです」


「きゃっ!」


温泉の中でエレナを引き寄せ、後ろから優しく抱きしめる。


「……だめです…」


振り向いて大地の表情を上目遣いで見つめる。


「……我慢できそうにない」


「……っ」


エレナの顔が一気に赤くなる。


「……もう」


恥ずかしそうに俯くエレナ。


その姿を見ていると、大地の心臓まで妙に速くなる。


「……ダイチさん」


「ん?」


「……少しだけなら」


エレナは小さな声でそう呟いた。


◇


「ダイチさん! 聞いてるんですか!?」


「ふぁい……」


「今から魔物討伐で体力を使うのに、どうしてその前に体力を使ってしまうんですか!?」


「ふぁい……」


「こんなことをしていたら、温泉宿が遠のいていくだけですよ!」


「それなら、言ってくれればよかったのに……」


大地は少し拗ねたように呟く。


「……あんな真剣な顔をされたら、断れないです」


エレナは頬を赤くしたまま、小さな声で答えた。


(……おや?)


大地の中で、何かがひらめく。


(形勢逆転の兆し……!)


「……分かった」


大地は神妙な顔で頷いた。


「もう、出発前はしないよ」


するとエレナは少しだけ身体を縮こまらせ――。


「…………そ、その……」


「ん?」


「たまになら……大丈夫ですから……」


「……たまにぃ?」


大地がニヤリと笑う。


「……そ、その……いじわるです……」


エレナは顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。


そんなエレナの反応が可愛くて――。


大地は、つい少しだけからかってしまうのだった。


◇


「さて」


大地は気を取り直す。


「一応、確認しておこう」


意識を集中させる。


『温泉効能強化LV:EXが発動しました』


『身体能力向上の効果を強化します』


温泉の効果が身体へと浸透していく。


大地の身体に、力が満ちていく感覚があった。


「……よし」


ステータス画面を開く。


(効果時間を120分に設定して……っと)


【ステータス】


HP:2,550(85+2,465↑)


MP:30


力:240(8+232↑)


防御:210(7+203↑)


素早さ:240(8+232↑)


魔力:4


魔法防御:6


運:11


「……相変わらず、とんでもないな」


「何度見ても慣れませんね……」


エレナも苦笑する。


「これなら、今日の依頼も大丈夫そうだ」


「油断は禁物ですよ」


「分かってる」


大地は頷いた。


「でも、今日は周辺の魔物を相手に、実際の動きを確認しておこう」


「連携の確認もしておきましょう」


「そうだな」


二人は温泉を出ると、周辺の森へ向かった。


◇


「……何かいます」


しばらく歩いたところで、エレナが足を止めた。


「え?」


「前方、茂みの向こうです」


大地も目を凝らす。


ガサッ。


ガサガサッ。


茂みが大きく揺れた。


「結構いるな」


「おそらく、魔物の群れです」


次の瞬間――。


「グルルルッ!」


二体の狼型魔物が茂みから飛び出してきた。


続いて――。


「ブモォォォッ!」


地面を揺らすような咆哮が響く。


「……猪?」


現れたのは、巨大な猪だった。


ただの猪ではない。


体長は大人の男の身長を軽く超え、鋭く湾曲した牙が口元から伸びている。


「ブラッドボアです」


エレナが即座に答える。


「猪型の魔物ですね。突進力が非常に強いので――」


「じゃあ、俺が止める」


「え?」


大地が前へ出る。


ブラッドボアが地面を蹴った。


ドドドドドッ!


凄まじい勢いで突っ込んでくる。


「ダイチさん!」


「大丈夫!」


大地は逃げなかった。


むしろ――。


正面から迎え撃つ。


「……よっ!」


両手で牙を掴む。


「うおっ!」


凄まじい衝撃が全身を駆け抜ける。


足元の地面が大きく抉れた。


それでも――。


「……止まった」


大地の足が地面に深く沈む。


しかし、ブラッドボアの突進は完全に止まっていた。


「…………」


エレナが固まる。


「…………」


大地も固まった。


「……止めちゃった」


「はい……」


エレナは呆然とした表情を浮かべる。


「本当に、正面から……」


「温泉効果、すごいな」


「すごいという言葉では足りない気がします……」


「そう?」


大地は首を傾げる。


そして、そのままブラッドボアを持ち上げた。


「うわっ」


「せーの!」


――ドォン!


地面に叩きつける。


ブラッドボアは、そのまま動かなくなった。


「……終わった」


「はい……」


「これ、食べられるのかな?」


「食べられますよ」


エレナが答える。


「ブラッドボアの肉は、きちんと血抜きをすれば美味しいことで知られています」


「本当?」


大地の目が輝く。


「じゃあ、今日の晩ごはん決定だな」


「ふふっ」


「猪肉の料理か……」


大地は想像する。


焼肉。


味噌焼き。


鍋。


「醤油も味噌もあるし……」


「楽しみですね」


「よし!」


大地はブラッドボアをアイテムボックスへ収納した。


「じゃあ、次!」


「次、ですか?」


「まだ周辺に魔物がいるんだろ?」


大地は拳を握る。


「せっかくだから、時間までどこまでやれるか試してみよう」


「では、私も魔法で援護します」


「連携確認だな」


「はい」


◇


その後。


二人は温泉地の周辺を広く歩き回った。


ゴブリンの群れ。


ウルフ。


角を持った兎型魔物。


大型のトカゲ型魔物。


そして――。


「またブラッドボアだ!」


「今度は二体ですね」


「任せて!」


大地が駆け出す。


一体の突進を横へ避ける。


その隙を狙って、もう一体が襲いかかってくる。


「ダイチさん、右です!」


「了解!」


エレナの声に反応し、大地が身体を捻る。


そのまま二体の間へ入り込み――。


「まとめて!」


拳を振り抜く。


――ドォン!


二体がまとめて吹き飛んだ。


「……すごい」


「今の、連携としてどうだった?」


「完璧です」


「よし!」


大地が笑う。


「じゃあ、次!」


エレナも楽しそうに微笑んだ。


「はい!」


その後も二人は周辺にいる魔物を次々と討伐していった。


大地が前衛として敵を引きつける。


エレナが魔法で援護する。


危険な魔物には、エレナが先に動きを止める。


隙ができたところを、大地が一気に仕留める。


「左!」


「了解!」


「後ろです!」


「任せて!」


「上!」


「……上!?」


大地が慌てて見上げる。


巨大な鳥型魔物が急降下してきた。


「うわっ!」


大地が反射的に拳を振り上げる。


――ドンッ!


鳥型魔物がそのまま空へ吹き飛んでいった。


「……」


「……」


二人は顔を見合わせる。


「……今のも一応、連携ってことで」


「はい」


エレナが笑う。


「そういうことにしておきましょう」


◇


「……結構倒したな」


大地は森を見渡した。


周囲には、討伐した魔物の素材が並んでいる。


「今日は腕試しのつもりでしたが、思った以上の数になりましたね」


「ちょっとやりすぎちゃったかな?」


「冒険者ギルドの依頼対象でもありますから、問題はないと思います」


「それならよかった」


大地は素材を鑑定する。


「ブラッドボアの肉……高品質」


「高品質?」


「うん」


大地は嬉しそうに笑う。


「今日の晩ごはん、期待できそうだ」


「では、私が下処理をします」


「お願いしていい?」


「もちろんです」


◇


「……ダイチさん」


「ん?」


「少し、周辺を見て回ってもよろしいですか?」


「もちろん」


エレナは森の中へ入っていく。


「何するんだ?」


「食べられるものを探します」


「食べられるもの?」


「はい」


エレナはしゃがみ込み、地面に生えている植物を確認していく。


「これは食用です」


小さな葉を摘む。


「こちらは山菜ですね」


さらに別の植物を見つける。


「これは薬草です」


「そんなのまで分かるの?」


「森で暮らしていた頃から、植物には慣れていますから」


エレナは慣れた手つきで植物を選別していく。


「こちらは食べられますが、下処理が必要です」


「へぇ」


「これは香りが良いので、肉料理に使えます」


「料理の材料まで揃っていくな」


「そして、こちらは傷薬の材料になります」


「薬草か」


大地は感心しながらエレナの作業を眺めていた。


エレナはただ採取するだけではない。


葉の形。


茎の色。


匂い。


周囲の環境。


それらを一つずつ確認している。


「すごいな」


「慣れているだけですよ」


「いや、それがすごいんだって」


大地は採取した植物を手に取る。


「鑑定」


視界に情報が浮かぶ。


『キール:食用野草』


『若葉を食用とする。加熱すると苦味が減少する』


「ちゃんと鑑定にも出る」


「では、こちらもお願いします」


「鑑定」


『スピカ草:薬草』


『煎じて飲むことで軽度の疲労回復を促す』


「便利だな」


「これなら、採取依頼にも使えますね」


「魔物を倒して、食材も手に入って、薬草まで採れる」


大地は周囲を見渡した。


「この場所……意外と資源豊富なんじゃないか?」


「そうですね」


エレナが頷く。


「温泉だけではありません」


「食材も薬草も採れる」


「水もあります」


「魔物もいる」


「そして、鉱山も近い」


「……宿を作る場所として、かなりいいんじゃないか?」


「私も、そう思います」


二人は顔を見合わせた。


◇


夕方。


二人は簡易拠点へ戻った。


大地は焚き火を起こし、エレナがブラッドボアの肉を下処理する。


「これ、かなり大きいな」


「二人では食べきれないでしょうね」


「じゃあ、保存できるようにしたほうがいいかな?」


「アイテムボックスの中に入れておけば、品質が落ちないと聞いたことがあります」


「それなら安心だな」


大地は購入した調味料を取り出した。


油。


塩。


砂糖。


そして――。


「醤油に味噌、みりんもある」


「ダイチさんの料理、楽しみです」


「期待して待っててよ」


大地は笑った。


「さて、やってみるか!」


エレナが採ってきた山菜を眺めていた大地は、その中に見覚えのある根菜を見つけた。


手に取って匂いを嗅ぐ。


「……この匂い……」


懐かしい香り。


記憶の中にある日本の食卓が蘇る。


「ショウガだ!」


「ショウガ……ですか?」


「うん!」


大地は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、これとブラッドボアの肉を使ってみるか」


ブラッドボアの肉を適度な厚さにスライスする。


木の器にショウガをすりおろし、醤油、みりん、酒を合わせる。


そこへ肉を入れて、しばらく漬け込んだ。


「この間に、山菜も調理しよう」


山菜を刻み、茹でてから水気を絞る。


醤油を少し垂らせば――簡単なお浸しの完成だ。


「そろそろいいかな」


肉に味が染み込んだところで、よく熱したフライパンへ投入する。


――ジュワァァァッ!


瞬間、香ばしい匂いが辺りに広がった。


「……!」


エレナの目が輝く。


「すごくいい匂いです……。お腹が空いてきました」


「もう少しでできるよ」


大地は肉をひっくり返しながら笑う。


「簡単なものしか作れないけどな」


肉にしっかりと火が通ったことを確認する。


そして、器に盛り付ける。


「後は――」


朝、市場で買ったパンを添えて。


「出来上がり!」


大地が胸を張る。


「ブラッドボアの生姜焼きと、山菜のお浸しだ!」


「わぁ……」


エレナが料理を見つめる。


二人は並んで食事を始めた。


「いただきます」


「いただきます」


エレナが初めて嗅ぐ香りに誘われるように、肉を一口頬張る。


「……!」


目を大きく見開いた。


「……お、おいしい……!」


「どれどれ?」


大地も一口食べる。


そして――。


「これだよ、これ!」


思わず声が弾む。


「やっぱり美味いなぁ」


「こんな美味しい料理……食べたことありません」


エレナは幸せそうに頬張っている。


「ダイチさんの故郷のお料理ですか?」


「そうだよ」


大地は頷く。


「豚の生姜焼きって言って、俺も好きでよく食べてたんだ」


「もっとダイチさんのお料理を食べてみたいです!」


「再現できる料理がどれだけあるか分からないけど……」


大地は笑う。


「できるだけ試行錯誤してみるよ」


「楽しみです」


二人はその後もしばらく食事を楽しんだ。


◇


ひとしきり食事を楽しんだ後。


二人は焚き火を囲みながら、今日一日の出来事を振り返っていた。


「そういえば……」


大地がステータス画面を開く。


「今日、かなり倒したよな」


「はい」


「レベルもかなり上がってますね」


大地が画面を確認する。


今日一日で、レベルは二から十まで上昇していた。


「一気に八も上がったのか……」


「かなり効率が良かったようですね」


今回戦ったのは、Cランク相当の魔物が多かった。


中級冒険者のパーティーが攻略するような場所だけあって、経験値の効率も良いらしい。


「明日からも、この辺りを中心に依頼をこなしていけば、かなり稼げそうだな」


「はい」


大地は改めてステータスを確認する。


【ステータス】


氏名:ユモリ ダイチ

種族:人間

LV:10


HP:450

MP:68


力:31

防御:28

素早さ:36

魔力:12

魔法防御:15

運:14


「……結構上がったな」


(明日からは、強化の倍率を少し下げて、その分、効能時間を伸ばしてみようかな……)


温泉の効果。


冒険者としての経験。


そして、これから建てる宿。


まだ始まったばかりだ。


それでも――。


少しずつ前に進んでいる。


◇


やがて、辺りは完全に暗くなった。


森の中には静かな夜が訪れている。


焚き火の向こうには、白い湯気を立ち上らせる温泉。


その光景を眺めながら、大地はぽつりと呟いた。


「……なんか」


「はい?」


「本当に、生活が始まった感じがするな」


エレナも温泉へ視線を向ける。


「はい」


そして、穏やかに微笑んだ。


「ここが、私たちの最初の拠点です」


「うん」


大地は頷く。


「明日から、ここを拠点に鉱山へ向かう」


「はい」


「依頼をこなして」


「お金を稼いで」


「少しずつ宿を作っていく」


「はい」


エレナが頷く。


「楽しみですね」


「……ああ」


大地は笑った。


まだテントしかない。


立派な建物もない。


客室もない。


温泉宿と呼ぶには、あまりにも何もない。


それでも――。


「まずは――」


大地は立ち上がった。


「温泉だ!」


「ふふっ」


「ゆっくり浸かって、明日に備えよう!」


「はい!」


二人の笑い声が、静かな森の中に響いた。

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