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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第15話】エレナの温泉体験


「……さて」


大地は温泉の前で腕を組んだ。


昨日から何度も入浴を繰り返し、温泉の効果を検証してきた。


「一通り、自分の身体での検証は終わりましたね」


「はい」


エレナが頷く。


「身体能力向上の効果時間は、最大で八時間」


「はい」


「その代わり、効果時間を長く設定するほど、能力の上昇幅は小さくなる」


「3分なら能力値が100倍になり、2時間でも30倍ものステータスアップが見込める……ということですね」


「はい。実際に身体を動かしてみた感じだと、動体視力や反射速度も上昇しているみたいですね」


大地は自分の手を握ったり開いたりしながら頷く。


身体能力が上がっている。


それは間違いない。


だが――。


「でも、まだ一つ重要な検証が残っています」


「重要な検証?」


「はい」


大地はエレナを見る。


「俺以外の人が入ったら、どうなるのか」


大地の目が、キラリと輝いた。


そして――なぜかエレナをじっと見つめる。


「…………」


エレナの動きが止まった。


「……わ、私ですか?」


「もちろんです」


「…………」


エレナは温泉を見る。


そして、大地を見る。


もう一度、温泉を見る。


「……本当にやるんですか?」


「もちろんです」


大地は真剣な顔で頷いた。


「検証ですから」


「ですが……」


エレナは少しだけ頬を赤くする。


「昨日も申し上げましたが、異性の方と一緒に温泉へ入るというのは……」


「いやいや! 一緒には入りませんよ! 本当に!」


「……ですよね」


エレナがほっとしたように胸を撫で下ろす。


「俺は向こうで待っていますから、エレナさんが一人で入ってください」


「……分かりました」


エレナは少し迷ったあと、温泉へと近づいていく。


そして――。


着ていた服を一枚、また一枚と脱いでいく。


大地は慌てて岩陰へ移動した。


「……」


だが。


「…………」


耳だけは、妙に敏感だった。


布が擦れる音。


小さな衣擦れの音。


それらを聞き逃すまいと、大地は全神経を耳に集中させる。


――いや。


集中させてはいけない。


これは検証だ。


決して覗きではない。


そう自分に言い聞かせながら、煩悩と戦う。


「…………」


しかし、脳裏には岩の向こうにいるエレナの姿が浮かんでしまう。


「……いやいやいや」


大地は頭を振った。


「俺は紳士。俺は紳士……」


そんなことを呟いていると――。


「では……試してみます」


「お願いします!」


大地は岩陰からさらに離れた場所へ移動した。


「……本当に見ないでくださいね?」


「見ませんって!」


「絶対ですよ?」


「絶対です!」


エレナは念を押すと、岩陰へと姿を消した。


しばらくして――。


――ちゃぷん。


「……はぁ」


温泉に身体を沈めたエレナの、安堵した声が聞こえる。


「……気持ちいいですね」


「でしょう?」


「昨日も思いましたが、この温泉って本当にすごいですね。エルフの国には、こういった文化がないものですから」


「そうなんですね」


「はい。温泉というもの自体、私は昨日初めて知りました」


エレナの声が、どこか楽しそうになる。


「今のところは……」


エレナは自分の身体を確認する。


「特に身体に変化はありません」


「ステータスは?」


「……確認してみます」


少し間を置いて。


「……あ」


エレナの声が変わった。


「ダイチさん」


「どうしました?」


「効果が付与されています!」


「本当ですか?」


「はい!」


「これを見てください!」


「ふむふむ」


大地はエレナのステータスを確認しようと――。


「…………」


「…………」


気がつけば、二人は至近距離で顔を見合わせていた。


「きゃあっ!」


――バシャン!


エレナは慌てて胸元を隠しながら、首元まで湯に沈む。


そして、ジト目で大地を睨みつけた。


「……じゃなくて!」


「はい!」


「なんで普通にこちらに来てるんですか!」


「いや、その……」


大地は苦笑する。


「漢には、本能という抗えない衝動というものがあるんですよ」


「ありません!」


「綺麗な花は、自然と目で追ってしまうものなんです」


「あっちへ行ってください!」


「引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!」


「もう! いい加減にしてください!」


――バチン!


エレナの渾身の平手打ちが、大地の頬を直撃した。


「ったわばっ!」


――ドゴォン!


大地はきりもみしながら吹き飛び、近くの木へ激突した。


そして、そのまま木の幹に背中を預けるようにして崩れ落ちる。


「…………」


しばしの沈黙。


「……我が生涯に、一片の悔いなし……」


――ぱたん。


「もう……本当にえっちなんですから……」


エレナは呆れたように呟く。


だが、その顔は真っ赤だった。


自分の胸に手を当てる。


ドクン、ドクン、と早鐘のように鼓動が鳴っている。


「…………」


これは怒りだ。


きっと怒りに違いない。


そう思いたい。


◇


気を取り直した二人は、検証を再開した。


「ステータスは、どうなっています?」


大地は今度こそ岩陰から声をかける。


「少し待ってください」


エレナがステータス画面を確認する。


「数値は?」


「ええと……」


エレナが一つずつ読み上げていく。


「HP……と」


そして。


「……力、防御、素早さが上昇しています」


「どれくらいですか?」


「通常時より、約二十パーセントほど」


「二十パーセント……」


大地は考え込む。


「足だけ浸かったときと同じくらいですね」


「はい」


エレナも自分の身体を確認する。


「確かに、身体が少し軽くなっています」


大地の目が輝いた。


「やっぱり他人にも効果がある!」


「はい」


エレナも驚きを隠せない。


「ただ……ダイチさんとは違います」


「そうみたいですね」


大地は顎に手を当てる。


「やはり『温泉効能強化』は、自分にのみ発動するということ……?」


「おそらく」


エレナは少し考えたあと、続ける。


「私自身の能力値や、保有しているスキルとの相性なども関係しているのかもしれません。ですが、現時点ではその可能性が最も高いと思います」


「なるほど……」


大地は唸る。


「これは面白いですね」


「……ダイチさん?」


「もっと細かく調べたい……!」


「やっぱり」


エレナが苦笑する。


「ダイチさん、その顔はまた何か始めようとしていますよね?」


「……バレました?」


「分かります」


エレナは小さくため息を吐く。


「ダイチさんは何かを調べ始めると、止まらなくなりますから」


「いやぁ……だって、面白いじゃないですか」


「ほどほどにしてくださいね」


「善処します!」


「それ、しない人の言い方ですよ」


エレナの呆れた声が、森の中に響いた。

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