↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/133

【第12話】クレーベルの夜

「……やっと帰ってきた」


辺りはすっかり暗闇に包まれていた。


昼間は多くの人で賑わっていた大通りも、今では行き交う人の数が減り、店先に設置された僅かな街灯が、ぼんやりと道を照らしている。


大地は見慣れ始めたクレーベルの街並みを眺めながら、大きく息を吐いた。


「お疲れさまでした」


「エレナさんも、お疲れさまでした」


朝から森へ入り、薬草を探し、スライムの群れと戦った。


こうして無事に街へ戻ってこられたことに、大地は改めて安堵する。


「もう夜も遅いですから、先にギルドへ行って依頼達成の報告を済ませましょう」


「そうですね」


二人はそのまま冒険者ギルドへ向かった。


◇


「お帰りなさいませ」


冒険者ギルドの扉を開ける。


昼間とは違い、ギルド内はかなり落ち着いた雰囲気になっていた。


依頼帰りの冒険者たちが数人いるものの、酒場のような騒がしさはない。


「お疲れさまでした。薬草採取の依頼ですね」


受付嬢が二人に気づき、笑顔で声をかけてくる。


「はい。こちら、確認をお願いします」


大地は背負っていた籠をカウンターの上へ置いた。


「確認しますね」


受付嬢は籠の中から薬草を一束ずつ取り出し、状態を確認していく。


「……一、二、三……」


しばらくして、受付嬢が顔を上げた。


「十束。状態も問題ありません」


「よかった……」


大地はホッと胸を撫で下ろす。


「依頼達成です」


受付嬢が帳簿へ達成の記録を書き込む。


「今回の薬草採取の依頼報酬は、大銀貨一枚となります」


「……大銀貨?」


大地が首を傾げる。


「……はい? 何か問題がありましたでしょうか?」


「いえ、そういう意味じゃなくて」


受付嬢が一枚の硬貨を取り出し、カウンターへ置く。


大地の目が、その硬貨へ釘付けになった。


「エレナさん! 大銀貨って、どれくらいの価値なんですか?」


「大銀貨ですか?」


エレナは少し考える。


「大銀貨は銀貨十枚分の価値ですね。薬草十束の採取ですから、初心者向けの依頼としては、それなりの報酬だと思います」


「なるほど……」


大地は差し出された大銀貨を、少し緊張した様子で受け取った。


手のひらに乗った、一枚の硬貨。


日本で見慣れていた紙幣や硬貨とは違う。


それは、この世界で初めて自分の力で稼いだお金だった。


「……これが、この世界で初めて自分で稼いだお金か」


思わず、しみじみと眺めてしまう。


「どうしました?」


エレナが隣から覗き込む。


「いや……なんか、感慨深くて」


「そうですね」


エレナも柔らかく微笑んだ。


「自分で働いて得たお金ですから」


「はい」


大地は大切そうに大銀貨を財布へしまった。


すると、受付嬢がもう一つ、小さな袋を取り出した。


「それと、こちらもございます」


「?」


「先ほどのスライムから採取した魔石です」


「おお!」


大地の顔が一気に明るくなる。


「これも買い取ってもらえるんですか?」


「もちろんです。魔石は魔道具の動力源などにも使われますので、冒険者ギルドで買い取りを行っています」


受付嬢は袋から魔石を取り出し、光にかざして状態を確認する。


「こちらは……大銀貨二枚と銀貨五枚になります」


「そんなに?」


大地が思わず目を丸くする。


「魔石って、結構高いんですね」


「魔物の種類や魔石の純度によって、買い取り価格は大きく変わります。今回の魔石は状態も良かったので、この金額になりました」


「なるほど……」


大地は頷きながら、今日の収入を頭の中で計算する。


「じゃあ、今日の収入は――」


「大銀貨三枚と銀貨五枚ですね」


エレナが先に答えた。


「おお……!」


大地の顔が一気に明るくなる。


「なんか……やっていけそうな気がしてきたぞ!」


「……ふふっ。はしゃぎすぎて、帰り道で転ばないようにしてくださいね?」


「大丈夫ですよ!」


大地は嬉しそうに財布を眺める。


しかし、そんな大地を見ながら、エレナが少し苦笑した。


「とはいえ、毎日これだけ稼げるわけではありませんよ」


「……あ」


「今回は薬草採取の報酬に加えて、スライムの魔石の買い取りがありましたから」


「なるほど」


「それに、生活するとなれば、それなりにお金もかかります」


「一日、どのくらい必要なんです?」


「節約すれば、一人あたり銀貨二枚から三枚ほどでしょうか」


「じゃあ、二人なら銀貨四枚から六枚ってことですね?」


「はい」


「……それなら、今日の稼ぎでしばらく大丈夫ですね」


「数日は大丈夫だと思います」


「よかった……」


大地は心底安心したように胸を撫で下ろした。


「これで今日は安心してご飯が食べられる」


「ふふっ」


「なんです?」


「いえ。ダイチさんらしいなと思いまして」


「だって、生活していく上で一番大事なのは、食事と寝る場所ですよ?」


「確かに、それはそうですね」


二人は顔を見合わせて笑った。


「じゃあ――」


大地は立ち上がる。


「今日も【金竜王の羽】に行きましょう!」


「はい」


二人はギルドを後にした。


◇


……カランカラン。


「………いらっしゃい」


【金竜王の羽】の扉を開けると、昼間と比べて店内は静かだった。


大通り沿いの店と比べれば、もともと喧騒は控えめな店だ。


それでも、仕事を終えた冒険者や商人たちが数組、酒を飲みながら夕食を楽しんでいる。


「こんばんは、リゼさん」


エレナが店員に声をかける。


「………座って」


相変わらず無愛想な返事だった。


リゼはそれだけ言うと、いつもの席へ二人を案内する。


「いつものディナーでお願いします」


「………」


リゼは注文を確認すると、無言のまま厨房の奥へ消えていった。


「お疲れさまでした!」


席へ腰を下ろした二人は、改めて今日一日の依頼達成を労い合う。


「いやぁ……今日は本当に疲れました」


「朝からずっと歩き通しでしたからね」


「でも、薬草採取も終わったし、魔石も売れた。初仕事としては上出来ですよね」


「はい」


エレナが微笑む。


「それに、スライムの群れまで倒しましたから」


「……あれは予定外でしたけどね」


大地は苦笑する。


ふと、大地は厨房へ視線を向けた。


そこではリゼが無駄のない動きで料理を作っている。


「そういえば、リゼさんって無口で無愛想な雰囲気に見えますけど……」


「はい」


「すごく優しい人なんです」


エレナはリゼを見ながら、少し嬉しそうに続ける。


「私みたいな客にも態度を変えませんし、困っている人がいたら、さりげなく助けてくれるんですよ」


「へぇ……」


大地は再び厨房へ目を向ける。


テキパキと仕事をこなす姿は洗練されており、素人目にもかなりの手練れに見えた。


一端の冒険者にも勝るとも劣らない身のこなしだ。


――それに。


大地の視線が、リゼへ吸い寄せられる。


可愛らしい顔立ちからは想像できない、鋭い目つき。


それでいて、動くたびに分かる、ほどよく引き締まった身体。


「……むふふ」


「……ダイチさん?」


「これは……本当に通っちゃいそうだな」


「……もう!」


エレナが頬を膨らませる。


「ダイチさん? また変なこと考えてるでしょ!」


「い、いや! そんなことはないですよ!」


「絶対怪しいです」


「そ、そういえば!」


大地は慌てて話題を変える。


「貨幣の価値って、だいたいどんな相場なんですか?」


「貨幣の価値ですか?」


エレナが首を傾げる。


「はい。今日初めて自分でお金を稼いだので、ちゃんと把握しておきたいなと思いまして」


「そういうことでしたら……」


エレナが説明を始める。


そのタイミングで、料理が次々と運ばれてきた。


湯気の立つ肉入りの煮込み料理。


焼きたての香ばしいパン。


そして、簡単な野菜料理まで並べられる。


「例えば、この煮込み料理が大銅貨六枚。それから焼きたてのパンが大銅貨二枚ですね」


「ふむふむ」


大地は料理を眺めながら、エレナの説明を聞く。


この世界の貨幣価値を日本円に置き換えるなら、おおよそこんな感覚らしい。


鉄貨一枚 → 約10円

銅貨一枚 → 約50円

大銅貨一枚 → 約100円

銀貨一枚 → 約1,000円

大銀貨一枚 → 約10,000円

金貨一枚 → 約100,000円

大金貨一枚 → 約1,000,000円


「一人分で大銅貨八枚……日本円にすると、大体八百円くらいか」


「……えん?」


エレナが不思議そうに首を傾げる。


「……あ」


しまった。


この世界に日本円なんて存在しない。


「いや、なんでもありません!」


大地は誤魔化すように笑う。


「大体の相場感は分かりました! 今日は僕がご馳走しますよ!」


「そんな、気にしなくても大丈夫ですよ」


「いえいえ!」


大地は胸を張る。


「こんなに色々してもらって、何もしないのは男が廃ります。今日は僕にご馳走させてください!」


「……ふふっ」


エレナが少し嬉しそうに笑う。


「では、お言葉に甘えさせてもらいます」


「はい!」


大地は満足そうに頷いた。


「それにしても……思ったより安いですね」


「ここは庶民向けの食堂ですから」


「なるほど」


会話が一段落したところで、二人はさっそく料理へ手を伸ばす。


「……うまい」


大地の口から、思わず声が漏れる。


「ふふっ」


「やっぱり、疲れた後の飯は最高ですね」


「今日もたくさん歩きましたからね」


エレナも煮込み料理を口に運ぶ。


「……美味しい」


「ですよね!」


大地はパンを煮込み料理の汁に浸しながら、満足そうに頬張った。


「この世界に来てから、なんだかんだ食事には困ってないな」


「それは良かったです」


「でも――」


大地はパンをちぎりながら、ふと思い出したように呟く。


「温泉宿を作るなら、料理のこともちゃんと考えないとな」


「料理ですか?」


「はい」


「ダイチさん、料理ができるんですか?」


「……」


大地の手が止まった。


「……久しく作ってませんが、ある程度ならできますね」


「ふふっ」


エレナが楽しそうに笑う。


「なんですか、その笑い方!」


「いえ。少し意外だっただけです」


「一人暮らしが長かったですからね。自炊くらいはしてましたよ」


「では……」


エレナが少しだけ首を傾げる。


「いつか食べてみたいですね」


「え?」


「ダイチさんの料理」


「……」


大地は少し照れたように笑う。


「じゃあ……そのうち」


「楽しみにしています」


二人は再び食事を続けた。


今日一日の出来事を話しながら。


森での薬草採取。


突然の魔物との遭遇。


そして――。


大地のステータス画面に新しく表示された、謎の温泉効能。


「……そういえば」


エレナがスープを飲みながら口を開く。


「明日は、温泉の検証をするんですよね?」


「はい」


大地は頷く。


「『生命力回復』が本当に使えるのか、確かめてみたいです」


「私も協力します」


「お願いします」


エレナは少しだけ真剣な表情になる。


「ただし――」


「はい?」


「検証だからといって、無茶なことはしないでくださいね?」


「しませんよ!」


「本当ですか?」


「本当です!」


「……なら、いいですが」


エレナは小さく笑った。


◇


やがて二人は食事を終え、店を出た。


「ごちそうさまでした!」


「………また」


背後から、リゼの短い声が聞こえる。


二人はそのまま宿へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。