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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【ミレッタside】街に愛されるドワーフの少女ーその1

【ミレッタside】街に愛されるドワーフの少女ーその1


今日は、雲ひとつない快晴だった。


街並みには、秋の柔らかな日差しが降り注いでいる。


街道沿いには商店が立ち並び、肌寒くなり始め、職人たちが冬に向けた準備を進めていた。


新しく建てられた住宅からは、家族の楽しそうな声が聞こえてくる。


そんな賑やかな街を、大地は一人のオレンジがかった赤髪の少女と並んで歩いていた。


「……まだ全然許してないからな…」


「仕方ないだろ?辺境伯様から呼びつけられてたんだから」


「分かってるけど…セリーナと二人で……あたしだって寂しいって気持ちあるんだから…」


「えっ?なんだって?」


「今の無し!なんでもねぇよ!」


大地は慌てながら、隣を歩くミレッタを見た。


彼女は腰に手を当て、いかにも不満そうな顔をしている。


もっとも、その表情に本気の怒りがないことくらい、大地には分かっていた。


セリーナとともに一ヶ月にわたる旅を終え、ようやく『大地の湯宿』へ帰ってきた大地。


その間、ミレッタはここに残り、街の発展と魔道具の管理を任されていた。


もちろん、彼女の腕なら何も問題はない。

それどころか、大地が留守にしている間にも、街の魔道具は次々と改良されていた。


しかし――。


帰ってきた大地には、どうしてもやらなければならないことがあった。


「……というわけで、本日はミレッタ様のご機嫌取りを兼ねた、魔道具の見回りに同行したいと思います」


「いつも通りだから!あたしは別に機嫌なんて悪くないもんね!」


「そりゃよかった。じゃあ、今日はもう帰ってもいいかな?」


「ダメに決まってるだろ!」


即座に返ってきた返事に、大地は思わず笑ってしまった。


「はいはい。最後までお付き合いしますよ」


「ふんっ。最初からそう言えばいいんだよ」


ミレッタはそっぽを向いた。


だが、その頬がほんの少し赤くなっていることに、大地は気づいていた。


どうやら、ご機嫌取りはそれなりに効果があるらしい。


「さて、と。次はこの住宅だね」


ミレッタは手元の図面を確認した。


そこに記されているのは、住宅に設置する暖房設備の配置図だった。


冬が近づくにつれ、この街にも冷たい風が吹き始めている。


温泉があるとはいえ、すべての住民が毎日温泉に入れるわけではない。


特に小さな子供がいる家庭や、年配の夫婦が暮らす住宅では、冬の寒さは大きな問題だった。


そこでミレッタと大地が考案した、魔道具を利用した暖房設備である。


「これを設置すれば、魔石を動力にして温風を送り込める。室内の温度も一定に保てるから、夜中に冷え込んでも安心だよ」


「へえ。温度調節までできるのか」


「当たり前だろ。温度を一定に保てなきゃ、暖房設備としては半人前さ」


ミレッタは得意げに胸を張った。


「それに、魔力の消費もできるだけ抑えてある。魔石を頻繁に交換しなくても済むようにね。これなら、魔道具に詳しくない人でも簡単に使えるはずだよ」


「さすがだな。そこまで考えてあるとは」


「ふふん。もっと褒めてもいいんだよ?」


「はいはい、天才魔道具技師様」


「……なんだい、その適当な言い方は!」


口では怒りながらも、ミレッタは嬉しそうだった。


彼女は魔道具のことになると、途端に饒舌になる。


自分が作ったものが誰かの役に立つ。


それが、彼女にとって何よりの喜びなのだ。


「ほら、ダイチはそっちを持って!」


「えっ、俺もやるの?」


「当たり前だろ! この室外機、結構重いんだからね!」


「……はい、喜んで」


大地は言われるまま、魔道具の本体を持ち上げた。


見た目はそれほど大きくないが、内部には魔石や魔力制御用の部品が組み込まれているため、なかなかの重量がある。


「よいしょっと……。これ、思ったより重いな」


「だから言っただろ。ほら、もう少し右! そこじゃ配管が届かない!」


「はいはい……」


「はいは一回!」


「はいっ!」


そんなやり取りをしながら、二人は暖房設備を取り付けていった。


大地が本体を固定し、ミレッタが配管と魔力回路を接続する。


最後に魔石を装填すると、魔道具の表面に淡い光が灯った。


「……よし。試運転するよ」


ミレッタが操作盤に手を伸ばす。


次の瞬間。


ふわり、と温かな風が吹き出した。


「あ、暖かい……!」


玄関先で見守っていた住人の女性が、驚いたように声を上げた。


「これなら、冬も安心ですねぇ」


「うん。使い方は簡単だから、心配しなくていいよ。温度を変えたいときは、このつまみを回すだけ。何かおかしいと思ったら、すぐに知らせてくれよ」


「ありがとうございます、ミレッタちゃん。本当に助かります」


女性は何度も頭を下げた。


ミレッタは少し照れくさそうに頬を掻いた。


「な、何言ってんだよ。これくらい、どうってことないよ」


その様子を見て、大地は微笑んだ。


「よし、次の家に行こうか」


「そうだね。まだまだ設置する場所はあるんだから、さっさと行くよ!」


ミレッタは、いつもの調子で歩き出した。


その背中を、大地は楽しそうに追いかけた。


それからも、二人は街のあちこちを回った。


商店の裏手に暖房設備を取り付け、職人の作業場では魔力回路の調整を行う。


住宅によって構造が異なるため、設置作業は決して簡単ではなかった。


「ミレッタ、ここの配管なんだけど……」


「ん? ああ、それなら壁沿いに回しておくれ。そっちの方が邪魔にならないからね」


「分かった」


「それと、魔石の交換口はもう少し低くしておこう。年寄りでも簡単に手が届くようにさ」


「なるほど。そういうところまで考えてるんだな」


「使う人のことを考えなきゃ、いい魔道具なんて作れないだろ?」


ミレッタは、さも当然という顔で答えた。


その言葉を聞いて、大地は改めて彼女の仕事ぶりに感心した。


ミレッタは、単に優れた魔道具を作るだけではない。


それを使う人間がどんな暮らしをしているのか、何に困っているのか。


そうしたことまで考えたうえで、設計を行っているのだ。


だからこそ、彼女の作る魔道具は、この街の人々に必要とされているのだろう。


そして、そのことを証明するように――。


「おや、ミレッタちゃんじゃないか!」


通りの向こうから、年配の男性が声をかけてきた。


「よぉ!じいさん。暖房の調子はどうだい?」


「おう、おかげさまで快適だよ。去年までは冬になると、朝起きるのが辛くてねぇ」


隣にいた奥さんも、にこにこと笑っている。


「これのおかげで、今年は安心して冬を迎えられそうですよ。本当にありがとうね」


「だから、お礼なんていいってば! 何かあったら、すぐに知らせておくれよ!」


ミレッタは、照れくさそうに手を振った。


二人に別れを告げて歩き始めると、今度は作業場の職人たちが声をかけてくる。


「ミレッタ! こっちの魔力炉も調子がいいぞ!」


「そりゃよかった! でも、無理に出力を上げんなよ! 故障の原因になるからね!」


「分かってるって!」


「本当かねぇ……。今度確認しに来るから、変な改造をしてたら承知しないよ!」


「はははっ!」


職人たちの笑い声が響いた。


さらに、路地の向こうからは小さな子供たちが駆け寄ってくる。


「ミレッタ!」


「おっ、おまえら。今日も元気だな?」


「今日は何して遊ぶの!?」


「……って、こらこら! あたしは今、仕事中だよ!」


「えーっ!」


子供たちが一斉に不満の声を上げる。


「あとで遊んでくれる?」


「うーん……。仕事が終わったらね!」


「やったー!」


子供たちは嬉しそうに飛び跳ねた。


ミレッタは、そんな彼らに笑顔を向けながら、軽く手を振った。


「いいかい? 約束だからね! それまではちゃんとお母さんのお手伝いをするんだよ!」


「はーい!」


元気な返事が響く。


その様子を、少し離れた場所から見ていた大地は、思わず足を止めた。


「……すごいな」


「ん? 何がだい?」


「いや……」


大地は、楽しそうに笑うミレッタを見つめた。


「本当に、みんなから好かれてるんだなって思ってさ」


「……は?」


ミレッタは、きょとんとした顔をした。


「そ、そんなことないだろ。あたしは、ただ魔道具を作ったり、修理したりしてるだけだよ」


「それだけじゃないだろ」


大地は、優しく微笑んだ。


「みんな、ミレッタが来ると嬉しそうな顔をする。困ったことがあったら真っ先に相談してくるし、子供たちだって一緒に遊びたがってる」


「……そ、それは……」


「ミレッタが、みんなのことをちゃんと考えてるからだよ」


その言葉に、ミレッタは口をつぐんだ。


頬が、じわじわと赤くなっていく。


「……な、何言ってんだよ。ほら、次に行くよ!」


彼女は逃げるように歩き出した。


「おーい、待ってくれよ!」


大地は笑いながら、その後を追いかけた。


けれど、彼女の赤くなった耳を見ていると、どうしても頬が緩んでしまうのだった。


昼過ぎ。


二人は、街の中心部から少し離れた路地裏にいた。


表通りと比べると人通りは殆どない、建物の隙間から差し込む日差しが、石畳の上に細長い影を落としている。


「さて、最後はここだね」


ミレッタは図面を広げ、建物の裏手を確認した。


「この家の室外機を取り付ければ、今日の予定はひとまず終了だ」


「ようやく終わりか……」


大地は、肩をぐるりと回した。


「いやあ、今日は働いたなぁ」


「まだ気が早いぞ。本体を固定してないだ ろ!」


「……はい」


大地は苦笑しながら、室外機を所定の位置へ運んだ。


ミレッタが配管の位置を確認し、大地が本体を押さえる。


狭い路地裏での作業だったが、二人は息の合った動きで設置を進めていった。


「もう少し右……そう、そこでいいよ」


「これでいいか?」


「うん。じゃあ、そのまま押さえてておくれ」


ミレッタはしゃがみ込み、配管を接続し始めた。


細い指が工具を操り、部品を一つずつ確実に固定していく。


その横顔を眺めながら、大地はふと口を開いた。


「……なあ、ミレッタ」


「ん? 何だ?」


「お前ってさ、本当にいろんな人たちから信頼されてるんだな」


ミレッタの手が、一瞬だけ止まった。


「……な、何だよ。急に」


「いや、今日一日、一緒に回ってて思ったんだよ」


大地は、穏やかな声で続けた。


「職人さんたちも、お年寄りの夫婦も、子供たちも。みんな、お前のことを頼りにしてる。魔道具の技術だけじゃなくて、ミレッタ自身が好きなんだろうな」


「…………」


「俺、嬉しかったよ」


大地は、そっと微笑んだ。


「俺のミレッタが、街のみんなから愛されてるって分かってさ」


「…………っ!」


ミレッタの肩が、びくりと跳ねた。


「なっ……! な、な、何を言って……!」


顔が一気に真っ赤になる。


「お、俺のって……! ダ、ダイチ、こんなところで……!」


「ん? 何かおかしいこと言ったか?」


「お、おかしいに決まってるだろっ!」


ミレッタは慌てて顔を背けた。


しかし、工具を持つ手は、先ほどよりも明らかにぎこちなくなっていた。


「ほ、ほら! 作業の邪魔だよ! さっさと本体を固定するんだ!」


「はいはい」


大地は笑いながら返事をした。


だが、ミレッタはもう彼の顔をまともに見られなかった。


頬はもちろん、耳まで真っ赤だ。


「……えへへ……」


小さく呟きながら、ミレッタは分からないように俯いて、嬉しそうにしている。


その姿があまりにも可愛らしくて、大地は思わずどくんと胸を締め付けられる。


「……ミレッタ」


「な、何だよ……?」


「こっち向いてよ」


「い、嫌だね!」


「どうして?」


「恥ずかしいからに決まってるだろっ!」


思わず飛び出した本音に、ミレッタはハッと口を押さえた。


「…………」


「…………」


二人の間に、妙な沈黙が流れた。


やがて、大地が小さく笑う。


「……そっか」


「~~~~っ!」


ミレッタは、とうとう耐えきれなくなった。

そのまま、工具を持った手を止めて、両手で顔を覆ってしまう。


「……もうっ! ダイチ、本当にずるいよ……!」


「え? 俺、何かした?」


「しただろ! いっぱいしただろ!」


「ははっ、ごめんごめん」


大地は笑いながら、彼女の隣にしゃがみ込んだ。


そして――。


そっと、ミレッタの肩に腕を回した。


「……っ!?」


ミレッタの身体が、ぴたりと固まる。


「……ダイチ?」


「ん?」


「……な、何を……」


「いや、可愛いなと思って」


「~~~~っ!!」


ミレッタは、とうとう顔を上げられなくなった。


「……ば、馬鹿……!」


その声は、いつもの威勢のよさとはまるで違っていた。


大地は、そんな彼女を優しく抱き寄せた。


背中に腕を回し、そっと髪に触れる。


「……いつも、ありがとな」


「…………」


「街のことも、魔道具のことも。俺がいない間、いろいろ頑張ってくれたんだろ?」


ミレッタは、しばらく黙っていた。


やがて、小さく頷く。


「……まあね」


「本当に助かってるよ」


「……当たり前だろ。あたしは、この街の魔道具を任されてるんだからね」


そう言いながらも、彼女の声は少しだけ震えていた。


大地は、彼女の頬にそっと手を添えた。


「……ミレッタ」


「……何だい?」


「キスしていい?」


その問いかけに、ミレッタは目を見開いた。


そして、顔を真っ赤にしたまま、視線を泳がせる。


「……っ、い、いちいち聞かないでよ……」


「それじゃ、いいってこと?」


「……っ!」


ミレッタは唇をきゅっと結んだ。


それから、ほんの少しだけ、大地の胸元に顔を寄せる。


「……好きに、しなよ……」


その小さな声を聞いて、大地は優しく微笑んだ。


そして、彼女の顎にそっと手を添えると、ゆっくりと顔を近づけた。


二人の唇が、静かに重なる。


最初は、触れるだけの優しい口づけだった。


ミレッタは目を閉じ、大地の服をぎゅっと握りしめる。


離れたあとも、彼女は顔を伏せたまま動かなかった。

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