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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第9話】温泉チートの秘密


「ダイチさん! ちゃんと聞いてるんですか?」


「……ふぁい」


先ほどまでの喧騒が嘘のように消えた森の中。


木々の間から差し込む柔らかな日差しの下で、エレナの怒号が響き渡っていた。


「ダイチさん!」


「……はい」


「考えなしに行動することは、とても危険なことなんです!」


「……ふぁい」


「ダイチさんのことを思って言ってるんですよ!」


「……ごめんなさい」


正座した大地は、まるで学校の先生に叱られる生徒のように小さくなっていた。


先ほどまで「俺の時代が来た!」などと全裸で調子に乗っていた男と同一人物とは思えない。


「今回は比較的弱い魔物だったから良かったですけど、森の奥にはもっと強い魔物だってたくさんいるんです!」


スライムたちは、冷静さを取り戻したエレナが放った火魔法によって一瞬で焼き払われ、事なきを得た。


「……はい」


「もし、もっと強い魔物に遭遇していたら……」


エレナの声が、少しだけ震える。


「……ダイチさんに何かあったらと思うと……」


「…………」


大地は顔を上げた。


エレナの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。


「……エレナさん」


「なんですか……?」


「この度は、ご迷惑をおかけしました」


大地は深く頭を下げた。


「もう二度と、エレナさんを心配させるようなことはしません」


「……本当ですか?」


「はい」


「本当に?」


「本当です」


「……約束ですよ?」


「約束します」


エレナはしばらく大地を見つめたあと、ようやく小さく頷いた。


「……なら、いいです」


「ありがとうございます」


大地はホッと息を吐く。


そして――。


(……怒ってるエレナさんも可憐だなぁ)


などと、密かに思っていた。


もちろん、そんなことを口に出せば、再び説教が始まることは分かっている。


大地は黙っておくことにした。


それにしても――。


(こんなに良い子なのに、なんでこんなに嫌われてるんだよ……)


エレナのことを思う。


真面目で、優しくて、困っている人間を放っておけない。


(……この世界の奴ら、見る目なさすぎだろ)


大地は心の中で、ひっそりと憤慨した。


◇


説教が終わったところで、大地は先ほどの出来事をエレナに説明した。


「つまり、『泉質調整LV:1』によって付与された身体能力向上の効果が、『温泉効能強化LV:EX』によって極端に増幅された……ということですね」


「はい」


大地はステータス画面を開く。


「俺の場合、身体能力向上の効果が約100倍にまで跳ね上がったみたいです」


【HP】3,000

【力】500

【防御】500

【素早さ】500


改めて見ても、とんでもない数字だ。


「……やはり、普通ではありませんね」


「ですよね」


エレナはステータス画面を眺めながら考え込む。


「しかし、強力すぎるがゆえに、やはり制約があったんですね」


「3分だけっていう、あれですよね」


「はい」


大地は頭を掻く。


「3分って短すぎません?」


「ですが、あれだけの能力上昇ですからね」


エレナは苦笑する。


「むしろ3分も維持できることのほうが驚きです」


「……確かに」


大地は納得した。


考えてみれば、力が約100倍。


もしこれが何時間も続くのであれば、もはや人間ではなくなる。


「それに……」


エレナが続ける。


「私の場合は、身体能力向上の効果が8時間程度は継続するようです」


付与されたバフ効果に関しては、効果と効果時間がステータス画面に明記しているようだ。


「8時間!?」


大地は驚いてエレナを見る。


「はい。先ほどからほとんど変化がありません」


エレナは自分のステータス画面を確認する。


【バフ効果】

⭐︎身体能力向上 残り415分/480分

HP・力・防御・素早さの能力値UP


【HP】1,634(1,500 + 134↑)

【力】100(80 + 20↑)

【防御】86(69 + 17↑)

【素早さ】144(115 + 29↑)


「効果の強さは違っても、持続時間は長い……」


「おそらく、この能力値アップが一般的な数値上昇で、『温泉効能強化』によってダイチさんだけは大幅強化されたということなんでしょう。」


「なるほど……」


大地は腕を組んだ。


二人は顔を見合わせる。


「……これ、かなり重要な発見じゃないですか?」


「はい」


エレナも頷いた。


「温泉の効能を調整できれば、使い方次第で大きく役立つと思います」


「例えば?」


「疲労回復、怪我の治療、体力増強……」


エレナは指を折りながら挙げていく。


「スキルによってどんな項目の能力値アップがあるかわかりませんが、もし効果の種類や強さ、持続時間をある程度調整できるようになれば――」


「温泉宿として、かなり強い武器になりますね」


「はい」


大地の目が輝く。


「……研究してみる価値はありそうだな」


「そうですね」


大地はステータス画面のスキル欄へ目を向けた。


【温泉サーチLV:1】

【泉質調整 LV:1】

【温泉効能強化 LV:EX】


「まずは、このスキルについて色々試してみないと」


「はい」


大地は決意を新たにする。


「俺の異世界生活を、この温泉が変えてくれるかもしれない」


◇


「……あ」


エレナが突然、何かを思い出したように声を上げた。


「どうしました?」


「薬草採集です」


「あ」


二人は同時に依頼書を見る。


そこには――。


【薬草十束】


という文字が書かれていた。


「……完全に忘れてましたね」


「はい……」


「そもそも俺たち、何しに森へ来たんでしたっけ?」


「薬草を採りに来たんです」


「そうでした」


大地は遠い目をした。


温泉を発見し。


スライムと遭遇し。


チート能力を検証し。


そしてエレナに説教される。


「……薬草採集って、こんなに大変なものでしたっけ?」


「ダイチさんが寄り道しすぎなんです」


「……ごもっともです」


大地も森の奥を見る。


木々の隙間から差し込む光。


その先には、まだ見ぬ世界が広がっている。


「……ますます面白くなってきたな」


大地は立ち上がった。


「よし! まずは薬草十束!」


「はい!」


二人は再び、薬草採集へと戻っていった。

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