五
辺りはもう暗くなっている。それも当然だ。スマホを取り出すと時計は二十時になろうとしていた。
実行委員が始まる時間になったとき、選択講義室Aに入るとすでに何人かはそろっていた。特に席の指定はされていなかったので一番廊下側の五つ席が並んでいるうちの真ん中の席に座る。
席に座り、辺りを見回すと黒板の前に立っている何人かに見覚えがあることに気づいた。生徒会のメンバーだ。この学校の文化祭は生徒会の全員が実行委員として参加をするという話は聞いていた。
会長をはじめ、メンバーが全員そろっているように思えた。生徒会長の男子生徒の名前はいまいち覚えてないが、資料を片手に副会長の女子生徒と何かを話し合っている。生徒会役員とおぼしき人たちはどこか緊張しているような表情に見える。
教室自体はそこまでうるさくはなかったが、何を話しているかは聞き取れなかった。
ぼーっと話し込んでいる会長と副会長の姿を見ていると突然生徒会長がこちらを向いてきた。目が合ったと思うと会長は笑顔を見せたが、僕はとっさに目線をそらした。どことなく生徒会のような人の前に立って行動する人には怖さを感じる。
第一回の文化祭実行委員は順調とはいえなかった。とういのも、各クラスから選ばれた実行委委員の中から全体の実行委員長や副委員長を決めなくてはならないのだ。これがまた決まるのに時間がかかった。副委員長はそこまで時間がかからなかったが、委員長が決まらなかった。
おまけに生徒会のメンバーは実行委員長や副委員長等の役職に就くことはできないというルールがあるのも弊害になったかもしれない。
委員長は基本三年が担当するので二年である僕は関係ない。僕は一向に決まらない委員長が出てくるのを待っていた。三年の中で事前に決めおいてくれよとも思ったが、最近は忙しかったため、仕方なかったのかもしれない。
その後しばらくして委員長が決まり、早速各部門に分かれての作業となった。各部門にはすでに割り振られていて、僕は制作部門に割り振られていた。
この部門は主に文化祭のポスター作りや会場の装飾に関する部門であった。同じクラスの横谷さんも同じ部門で密かにガッツポーズをした。これで多少はサボれる。しかし制作部門には一つの関門が待っていた。
それは制作部門の部長、荒滝ゆりあさんだ。ゆりあさんは、この学校の美術部であるらしく部員からもその腕を認められているらしい。さらに超がつくほどの真面目で、いかにもリーダーらしい人である。
全体での集まりが終わった後は各部門で解散するように言われていたが、制作部門はなかなか解散できなかった。というのもゆりあさんが進められるところまで進めようよといって、熱が入ってしまったのだ。その流れを断ち切ることができず、時計の針がどんどん進んでいったのだ。そして学校を出たのは各部門で最後だった。生徒会による文化祭本部の集まりより遅くなるとは思わなかった。
これから文化祭までほぼ毎日実行委員があり、今日のように準備をする。毎日この時間に終わって帰りが遅くなっては、ゲーセンにも行くことができないのはおろか、僕自身の自由な時間さえ無くなってしまう。ましてや帰宅部であることを利用されて余計な仕事を押しつけられてはさらに面倒である。どうにか楽にやる方法はないのか。それを考えるだけだった。
学校を出ると空は真っ暗だった。しかし学校前の国道は街灯や行き交う車でかなり明るい。あいにく実行委員の中に仲の良い友達はいなく、同じ方向に帰る人もいなかった。
国道沿いに歩き、自宅前に繋がる路地にでる。国道とは違ってこの道はかなり暗かった。いつもの登校時とは景色がまるで違った。道を歩く人もおらず、ただただ暗闇が広がっているようだった。数メートル先も見えない。先ほどまで明かりところにいたからなおさらだ。しかし止まっていても家には帰れないので歩きだす。
暗さに目が慣れてくると見たことのある景色が視界に広がる。そして、国道からは見えなかったはず、いや、本当は見えていたのかもしれないが国道からは暗闇の印象が強すぎて気づかなかっただけなのだろう。街灯がほんの少しだけ道を照らしている。
しかし明るいのは街灯の下だけに過ぎず、頼りなかった。家を目指して歩いているとふとロングの事件のことを思い出した。ロングも未明に遺体が発見されたということは夜中に殺されたということになる。きっと暗い中で急に殺されたのだろう。こういった人気のない場所で静かに。
なぜ今、このことを思い出したのかは分からない。ロングの死に対して特別な思いがあったわけではなく、それどころか僕はそもそも他人に興味がない。気の合う友達とつるめていればそれでいいと思っているタイプの人間だ。急にロングのことを思い出したのは暗さに恐怖を感じただけなのかもしれない。と頭ではいろいろと考えているが歩みは止めない。ここ最近の事件で身の回りには充分気をつけるように学校や親から言われている。
早く家に帰るに越したことはない。そう思っていたときだった。右後ろ、ちょうど首のあたりから何かが伸びてきた。すぐにはそれが何か認識できなかった。暗さのせいではない。それがあまりにも急に出てきたのと、日本の路上では普通、見る物ではなかったからだ。
ナイフだ。
刃渡り数十センチほどであろうナイフの刃がこちらを向いている。そして聞き覚えのある声が聞こえた。
「日本の警察は優秀だからすぐ捕まるよ」




