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雨ノ若  作者: 八戸黎樹
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ロングと連絡が取れなくなって一週間たった朝、衝撃のニュースが流れてきた。

「ニュースです。今日未明、東京都世田谷区の路上で私立弥生ヶ前学園教員の熊井長雄さんが遺体で発見されました。警察は殺人事件として捜査をしています。また、大阪、長野、千葉での連続殺人事件とも関連があるとしています」

 階段を降りたところで僕は立ちすくみ、そこから動けなくなってしまった。朝ご飯を食べていた父さんと母さんも食べる手を止め、ニュースに見入っている。今まで人ごとだったことがもう逃げられなくなった。この街に殺人犯がいる。もしかしたらもうすでにすれ違っているかもしれない。「死ぬまでに平均五人の殺人犯とすれ違っているらしい」いつだかの友樹の雑学がより僕の恐怖を煽る。

「熊井先生って藤十郎の担任だよね?」

 母さんが沈黙を破るように聞いてきた。

「うん。最近行方不明になってたけど……」

 これ以上なんて言ったらいいのか分からなかった。

スマホを開いてみるとグループラインには、ネットニュースの記事が貼り付けられていた。開くとロングのニュースであった。

その後には「今日学校あるかな」「さすがに休みじゃない」といったような会話が出ている。ロングの死についてより、みんなは今日学校があるかないかの方に興味があるようだ。

とりあえず僕は朝食を食べ、学校に行く準備をはじめた。朝食を食べ食べ終わるくらいのタイミングでラインが届き、学級委員から今日は臨時休校との連絡が入った。今日は僕も一日家にいることにしよう。父さんは変わらず仕事があるようで、家を出る前に

「二人とも今日は外に出ないようにな。誰か尋ねてきても宅配とかなら居留守していいから。とにかく気をつけてな」

 そう言って家を出発した。その日は僕も母さんも家から出ずに過ごした。

 

翌日は学校があったが、午前中で放課になると連絡があった。家を出ると、小学校は普通にあるのだろうか、小学生は登校をしていた。しかし集団登校をしており、緑のベストを着た地域の人と警察が見守りながら登校している。大阪の事件後とは変わって、明らかに警戒していた。

国道に出てからもパトカーが至る所に見られた。だが、社会人にとっては単なる平日でしかないらしく、車通りが多いのはもちろん、歩道を歩くサラリーマンもいる。

学校に着くとさすがに校庭では部活の朝練はやっていないらしく、静かだった。しかし駐車場にはパトカーや普段見ない大型のバンなどが止まっており、騒がしさを感じた。

教室に着き、チャイムが鳴ると菩薩が入ってくる前に校長先生が入ってきた。

「皆さんおはようございます。もう皆さんもご存じかと思いますが、このクラスの担任の熊井先生が天国に旅立ってしまいました。悲しいことではありますが、皆さんが悲しい顔しては熊井先生も悲しいと思いますので明るく、元気に過ごすようにしてください」

 クラスは重たい空気に包まれているが、特に泣き出したりする生徒はおらず、終始無言だった。そこに続いて校長が、

「このクラスの担任は副担任の佐々木先生がそのまま担任になりますのでよろしくお願いします。あと、引き続き熊井先生について何か情報がある人は先生に報告するようお願いします」

 と言って校長は教卓の横に控えていた菩薩に軽くお辞儀をして教室を出て行った。菩薩は校長が出ていったのを確認し、教卓の前に立つと

「まあ、みんなそういうことだからよろしくな。とりあえず校長先生が言っていた通りに明るく元気に過ごそうな」

 菩薩がそう言うと多少なりの明るさは取り戻したようで、近くの人とおしゃべりするような人も現れた。その後も菩薩が話を続ける。

「今日は知っていると思うけど午前中で放課になるからよろしく。で、今日の授業はクラスで過ごすように言われてるから、せっかくだし今度ある文化祭のクラス実行委員でも決めようか。じゃあ、学級委員任せちゃっていいかな」

 と言って、臨時の学級会が始まった。クラスは少しばかり明るい雰囲気に包まれる。ロングが死んだ後に文化祭の話をするとはなんてのんきなんだとは思いもしたが、クラスの雰囲気を壊すわけにはいかなかった。気がつけばもう文化祭の話し合いをするような時期か。最近は事件の連続でなかなか落ち着かない時期を過ごしていたため、すっかり忘れてしまっていた。ただ、実行委員には僕は絶対になってはならない。面倒くさすぎる。

 翌日からは通常通り六限まで授業がある。通学路を歩くと小学生は変わらず集団登校をしていて、警察の姿も見られる。学校にはパトカーが止まっており、パトカー以外の車の数も昨日に比べて多かった。テレビ局の取材もあると聞いた。校長先生や教頭先生はこれから忙しい日々を過ごすのだろう。

ホームルームが始まり、菩薩がいろいろ話すかと思えば

「えっと、特に僕から話すことはないんだけどなんかみんなから連絡とかある? ないなら終わりにしようかと思うけど」

 衝撃だった。ロングの時はつらつらと関係ないことを話されて時間を延長されてきたが、菩薩はものの二十秒で終わりにしようとしている。

「よし、なさそうだな。じゃあ……」

 と終わりにしようとしたところで

「あ、忘れてた。横谷(よこたに)と神谷。えーっと横谷は今日休みか。じゃあ神谷、ホームルーム終わったら前来てな。よし、じゃあ終わり!」

 三十秒ほどで終わったホームルームはいつぶりだろうか。二年になってからは初めてかもしれない。最後に先生に呼ばれた理由は自分では分かっている。ホームルームの終の挨拶顔割、クラスがざわつき始めると、あの馬鹿が僕の方に近づいてくるなり言ってきた。

「神谷、なんで先生に呼ばれたんだよ。なんかやらかしたのかぁ?」

 煽るような口調で話しかけてくる。

「お前じゃないんだから説教されるわけないだろ。あんまりからかってると二度と課題手伝わないからな」

「おっとそれは勘弁してくれよ」

 朝から全くもって面白くない冗談をぶつけられた僕だが、横井が単純にからかっているだけというのは承知済みなので特に気にしていない。それより、重要なのは僕が前に呼ばれた理由だ。教卓の前まで行き、先生から一枚の紙を渡された。

「今日文化祭実行委員の集まりが放課後あるから行ってな。今日は横谷が休みだから来たとき情報共有してあげて」

「わかりました」

 そう、あろうことか僕は文化祭実行委員になってしまったのだ。

昨日の学級会、実行委員は男女一人ずつ選出することになっていた。女子は横谷凜(よこたにりん)さんという、真面目であるもののクラスの中心にいるような存在の人が自ら立候補した。

一方、男子はなかなか決まらず、時間が過ぎていった。菩薩の意向により、じゃんけんで決めるのはやめてほしいとのことだったので、決まるのに相当時間がかかった。

そこで、みんなからの推薦であれば良いと判断されたので、クラスのみんなで投票をすることになった。僕は適当に真面目そうなやつの名前を書いたが、いざ開票となるとクラスの過半数が僕に票を入れていたのだ。

当時は戸惑った僕だが、投票で決まったことなので文句も言えずに結果を受け入れるしかなかった。しかし、横谷さんが一緒なら彼女に大部分を任せればいいと思っていたのだ。

だが、彼女が休みとなってはそうはいかない。しかも今回は実行委員初回ということでおそらく重要な連絡等もあるに違いない。僕が聞き逃したら彼女にも迷惑がかかる。

先生からもらった紙には「第一回文化祭実行委委員 於 選択講義室A 時間 一六時」と書いてあった。その下には今日話し合う内容が簡潔に書いてあったが、すぐには目を通さなかった。少しでも自分が実行委員になったという事実から目を背けたかった。

実行委員があっては、せっかくの僕の放課後の時間が潰れてしまう。しかしサボるわけにはいかないので仕方ない。今日は気分の乗らない一日になりそうだ。

一日の授業が終わり、放課後となった。光哉と友樹が僕の席に近づいてくる。

「実行委員さんはこのあと集まりあるから今日は遊びに行けないですね」

 友樹が煽る。

「お前はいつまでそれ言ってんだよ。神谷そろそろぶち切れるぞ」

 光哉がそう言うので

「お前、いい加減にしろよ。友樹」

 と冗談じみて言ってみた。それに対し友樹は

「おっと怖い怖い」

 とこちらも笑いながら答えてきた。どうせまだ集まりまでは時間がある。こうして何でもない時間を過ごして実行委員があることを少し忘れよう。そう思った。

 


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