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雨ノ若  作者: 八戸黎樹
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2/21

 二


今日も授業が終わり、帰りのホームルームも終わった。帰ろうかと荷物をまとめていると

「なあ、知ってる?人って死ぬまでに平均五人の殺人犯とすれ違ってるらしいぜ。ってことは俺らもいずれすれ違うんだろうな」

 いつの間にか僕の席に近づいてきてそう言ってきたのは友樹だった。

「へえーそうなんだ」

と棒読みで返したのは友樹とほとんど同じタイミングで来た榊原光哉(さかきばらみつや)だ。

「なんだよその棒読み」

 友樹は不満そうであるが、僕は光哉の意見に同意だ。にしても今日の雑学は酷いな。今までは「コアラは水を飲まない」とか「ドライブスルーには馬でもいける」といったような信用に足る証拠等があるものを聞いたが、今回はどうにも信じられない。

「それってあくまでも平均だろ?まず日本じゃその数はもっと少なくなるだろ。」

 と、僕は反論した。

 最近の日本では大きな殺人事件は起きていない。最後に起きたのは十年くらい前の関西での事件であったはずだ。

当時、僕は小学一年であっただろうか。京都だか奈良だかでテロを模倣したような殺人事件が起きた。犠牲者は老若男女合計一四三人、銃やナイフ、さらには手作りの爆弾さえも使った犯行であった。主犯は石原大司郞(いしはらだいじろう)。戦後でも指折りの凶悪殺人犯として死刑判決を受けた。そのほかにも数名の幹部や実行犯も実刑判決を受け、未だに獄中生活を送っているに違いない。

僕の記憶ではその事件が日本で起こった最新の大きな事件だ。といっても自分がリアルタイムで見た情報ではなく、事件を風化させないようにするために毎年ニュースでこの事件は報じられているのを見た事による記憶だ。その後は大きな事件が起こっておらず、平和な国であることを実感する。

「なんだよ二人とも。分かったよお前らが信じてくれないっていうのは」

 さらに不満そうな友樹であったが、友樹の性格上、こういうのは放っておいても平気なので特にこれ以上は何も言わない。光哉も同じ考えになっているだろう。

「じゃあ、今日もいつものゲーセン行こうぜ」

 さすが鳥頭。ここまでの不機嫌さはすでに忘れてしまったのだろうか。友樹が提案してきた。

僕ら三人は部活に入っておらず、学校が終わってしまえばやることはない。放課後は三人でどこかに遊びに行くというのが日課になっていた。どこに行くかはその日の気分によってだった。

「いいね、行こうか」

 光哉が答える。見た目は真面目そうで、ガリ勉という言葉が似合いそうな光哉だが、実際はそうでもなく、頻繁に遊びにも出かける。とはいっても友樹より頭の悪いやつはこのクラスにはいないだろうが。

僕ら三人は並んで昇降口を出た。ゲームセンターは僕の家とは反対方向にある。しかしまだ十六時だ。一日が終わるにはまだ早すぎる時間だった。

 十九時、友樹と光哉とはゲームセンタ―で解散した。二人とは変える方向が反対になる。

外に出ると日は落ちていて暗くなり始めていた。僕はゲームセンターに来たときの道を引き返していく。

学校の前を通り過ぎるとまだ活動中の部活もあるようでグラウンドには照明がついていた。国道は相変わらず車が多く、街灯も多いので道自体はかなり明るい。

国道を抜け、自宅がある通りに出る。朝は小学生で賑わっていたこの道も今となっては帰宅するであろうサラリーマンがちらほら見えるだけで静かだった。この道は国道と違い、街灯が少なく道はかなり暗かった。とはいってもいつもと同じ道なのでとくに何も考えず、自宅に向かう。

 家に着くと「おかえり」と母さんの声が聞こえる。「ただいま」と返しリビングに入る。夕食とお風呂を済ませ、気づいたら二十一時。リビングでくつろいでいると、テレビが夜のニュースを報道し始めた。どうやら今日の昼に大阪で通り魔があったらしい。見たところ現場は大通りではなく裏路地のような場所で、被害者は五人。全員が出血による死亡らしい。犯人は未だ逃走中。警察が捜査に追われているらしい。

「怖いね。十年くらい前も京都で似た事件があったよね」

 と母さんが心配そうに言う。

「日本の警察は優秀だからすぐ捕まるよ」

 どこか他人事に思えたが、今の僕にはそう答えることしかできなかった。でも事件は大阪だ。東京で起きたわけではない。たまにある事件と何ら変わりないと思いながら僕は階段を上がり、自室に向かった。

今日は特にやることもないので、寝てしまおうかとベッドに入る。しかしここで数学の課題をやっていないことに気がついた。やらないという手もあったが、数学担当はロングだし、やらなくて怒られるのも面倒くさい。まあ、数学はそこまで苦手ではないので一時間あれば余裕で終わるだろう。そう思うとベッドから起きた僕は机に向かった。

 翌朝は七時に起きた。結局数学の課題は新しい単元の始まりということもあり、二十分ほどで終わった。きっといつも通り友樹はやってこないんだろうな。そう思いながら階段を降りた。


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