忠実の花2
あれは高校の美術の授業のこと。
グループごとに教師が適当に置いたもののデッサンをする課題だった。
私たちのグループは海老根の鉢植えだった。
「これを忠実に写すのって難しくない?」
「うん、難しい。困ったね」
思わず半眼になってしまう。
「こういう時ってアドバイスをくれるものじゃない?」
「残念。デッサンって俺も苦手」
「何それ」
二人で笑い声を上げて教師に怒られたのも今となってはいい思い出だ。
そんなふうに笑い合っていたのに。
今のあなたは遠い。
遥か高みの存在になってしまった。
私には手を伸ばすことすらできなくなった。
もうきっと私のことなんて覚えてない。
あんなことを言っていたのに、彼はあの後めきめきと実力をつけていったのだ。
私だってそれなりにできるようにはなったけど、彼の足下にも及ばなかった。
才能の差なのか、努力の差、なのかもしれない。
才能があったうえにかなりの努力を重ねていた。
才能がある人間にさらに努力まで重ねられたら凡人には到底追いつけない。
そして少しずつ距離が開いていき、いつしかその背すら見えなくなった。
彼は大きな賞を獲るような画家先生だ。
私はしがない絵画教室の雇われ先生だ。
この先人生が交わることは恐らくないだろう。
彼とは一時同じ時間を過ごしたーー
スマホが震える。
手に取って確認すれば画面の表示は彼、背景はあの日の海老根だ。
震える手でタップする。
そして耳に当てた。
「もしもしーー」
読んでいただき、ありがとうございました。




