青春の喜びと悲しみの花2
三年間彼とは同じクラスだった。
話したのは何回あるかどうか。
親しく話すこともできず彼を見ていることしかできなかった。
卒業式を終えた今はもう話す機会はないだろう。
こうして何もできないままこの恋は散っていくのだ。
なんとなく帰る気がしなくてぶらぶらと歩いていると気づけば中庭に来ていた。
その花壇に植えられている花に目が留まり、足を止めた。
「これは、プリムラ・ジュリアン……?」
前に彼が恋人に教えていた花の名だ。
あまり花には詳しくなくて花の名前なんて全然わからないのに、その名前は覚えてしまった。
自信はないけどたぶんそうだ。
彼らが立ち去ってからどんな花か確認したもの。
だけど。
「違うよ、これはプリムラ・ポリアンサ」
聞こえてきた声に驚いて振り向く。
そこには私が片想いをしている彼がいた。
「え、どうしてここに……?」
彼はぽりっと頬を掻いて答えてくれる。
「今ちょっと会いづらい人が校門に向かっていったから時間を潰しに」
「会いづらい人……」
それって、たぶん、彼女だよね。
元カノさん。
「うん」
彼が花壇の前にしゃがみ込んだので私もその横にしゃがみ込んだ。
浮かれた気分にはとてもなれない。
「今さらながら手放したものの大切さに気づいてさ」
彼は苦笑した。
だけど決して私を見ない。
彼はただ心情を吐露したいだけだ。
私の返事なんて求めてない。
だから私は黙って彼の話を聞く。
「この花の花言葉知ってる? "青春の喜びと悲しみ"なんだ」
「そう、なんだ」
喉に声が絡んで辛うじてそう返すことしかできない。
まるで私のようだと思った。
「今の僕の心境だ」
それに返す言葉は出てこなかった。
だけど彼は私の言葉など元々求めてなどいない。
「何であんな簡単に手放してしまったんだろう……?」
それは完全な独り言だった。
だから返さなくても、返す言葉など出てこなくとも気にされることはない。
よいしょと彼は立ち上がった。
私に苦笑してみせる。
「変なことを話しちゃってごめんね」
「ううん」
「ありがとう。じゃあ元気で」
「うん、元気で」
彼は軽く手を上げて振り返ることなく去っていった。
「本当、残酷だなぁ」
泣き笑いで呟く。
ーーそれでも、彼への恋心が私の青春で、喜びと悲しみそのものだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




