穏和な花
穏和な人を怒らせたら怖い。
その俗説を今身をもって味わっている。
「ちゃんと聞いてる?」
「はい。聞いてます」
「本当にわかってるの?」
「わかってます」
「本当かな?」
「本当です」
もう何回このやりとりをしたかわからない。
まさか彼がここまで怒るとは思わなかった。
私はひたすら身を縮める。
でもこっそりと心の中で言い訳をする。
だって身体が反射的に動いていたのだ。
私が助けなければあの子は階段を転がり落ちていた。
一緒に落ちそうになったけど手すりを持って何とか持ち堪えた。
すぐに彼も駆けつけてくれて腕の中から男の子を引き取り、私も助けてくれた。
助けた男の子は状況がいまいちわかっていなかったのか、元気にお礼を言って階段を駆け下りていった。
階段への恐怖は微塵もないようだった。
それにほっとするやら拍子抜けするやら。
ぼんやりと見送っていると、男の子は海棠の花咲く道を元気に駆けていき、あっという間に見えなくなった。
よかったね、と彼に話しかけようとして彼の顔を見た途端声が出なかった。
彼は静かな表情だったが、どこか怒っているように見えた。
そのまま無言の彼に手を引かれて彼の部屋まで連れてこられた。
それからずっと説教をされている。
ふと言葉が途切れた。
そろそろ説教は終わりだろうか?
そろりと顔を上げようとした時、
「お願いだから」
彼にそっと抱きしめられた。
「あんまり心配かけないで。僕の心臓がもたないから」
彼の身体が震えている。
「あ……」
心の底から罪悪感が込み上げてきた。
「ごめんなさい……」
「本当に無事でよかった。自分の身もちゃんと大事にしてほしい」
「うん……。気をつける」
「……うん」
彼の身体の震えが止まるまでしばらくの間抱きしめられていた。
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