従順の花
華鬘草の花が咲き乱れる下でその男とは出会った。
その男は唐突に私の頬に手を伸ばしてきた。
微塵も自分が受け入れられないなどと考えていない自信満々の表情で。
私はぱしんとその手を弾いた。
「気の強い女だな」
「従順な人間がいいなら他を当たって」
「そんなつまらない人間はいらない」
きっぱりと言われる。
「へぇ、そう」
従順な人間をつまらないと言う男に少し興味が湧いた。
未だに昔の価値観に無意識に引きずられている者も多いというのに。
「一緒にいるなら自分の意志をしっかり持っている者のほうがいい」
「何それ」
「プロポーズだ」
「は? 付き合ってもないのに? 初対面なのよ、私たち」
「そうだな」
男は頷く。そして「だが」と続けた。
「そんなことは関係ない。お前以上に気になる存在はこの先も出てきそうにない」
「そんなのわからないじゃない」
気持ちは移ろうもの。
絶対などありはしない。
「俺に愛されるのが怖いか?」
「有り得ないわね」
「なら捨てられるのが怖いか?」
「捨てる気なの?」
「まさか。ただ怖いのかと聞いている」
それに答えるつもりはない。
だから別のことを口にした。
「まずは惚れさせてみなさい」
話はそれからだ。
男はにいっと唇の端を吊り上げた。
「望むところだ」
そんな二人の話を華鬘草の花だけが聞いていた。
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