自然の花
「私と別れて。彼女の手を取って」
告げた途端に彼の目が見開かれた。
「それが自然よ」
「わけわかんねぇよ」
納得いっていないというような顔。
そうね。貴方は真っ直ぐな人だから。
私だって貴方と別れのはつらい。
本当に愛しているから。
だからこそ、貴方を手放す。
私の隣では貴方は幸せになれない。
貴方には誰よりも幸せになってほしいの。
今は納得できなくてもいずれこれでよかったと思える日が来るはず。
恨まれてもいい。
貴方が幸せなら。
「そもそも自然って何だよ?」
「流れ的に最適?」
「意味わかんねぇ」
彼が顔をしかめる。
「彼女、貴方にお似合いよ? 私よりよっぽど」
「俺の意志を無視して何勝手に完結してるんだ?」
ジト目で言われる。
「だ、だって、私の隣じゃ貴方は幸せになれない」
「は?」
彼の声が低くなる。
「何でそんなふうに思うんだ?」
「だって私たちじゃ釣り合わないし、彼女となら家格も容姿も釣り合うでしょう? 性格だって悪くないわ」
「俺の幸せを勝手に決めるな!」
怒鳴られ、身を竦める。
がしっと肩を掴まれる。
「俺と一緒にいるのが嫌なのか?」
そんなことはない。
絶対ない。
でもここは、そうだと言うべきだ。
そうすれば彼は私と別れることを決めるだろう。
でも、唇が震えるだけで声にはならなかった。
彼の視線は痛いくらい必死だった。
そんな顔を見せられて嘘なんてつけない。
力なく首を振った。
力強く抱き締められる。
まるで縋りつくようで、絶対に離すまいとするかのようで。
抱き締め返すか迷う私の視界に野牡丹の花が映り込んだ。
彼と二人で選んで買ったもの。
不意に彼との日々を思い出す。
順風満帆ではなかった。
けんかした日もある。
価値観の違いに悩んだ日もあった。
それでもいつだって一緒に笑い合っていたのだ。
忘れていた。
いや、見えなくなっていた。
ぎゅっと彼に抱きつく。
そして耳元で小さく「ごめん」と謝った。
「仕方ねぇから今回は許してやる。だけど、二度と言うな」
「うん」
私はますます力を込めて彼にぎゅっと抱きついたのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。




