節度の花
勢いよく抱きつかれた。
それをべりべりと引き離す。
すっかりと引き離すのもうまくなってしまった。
彼は不満そうに私を見る。
そんな彼に厳しく言う。
「節度というものがあるでしょう」
彼は首を傾げる。
「節度?」
そんな初めて聞いたという顔をされても困る。
「そう。ほら、人が見てるでしょ」
「だから何?」
「何って、節度を守ってって話」
「何で?」
「何でも何もそれが公共マナーだよ」
「それってそんなに大事?」
「え、大事だよ」
「何で?」
「何でって言われても。大事なものは大事なの」
「説得力ないなぁ」
言われなくても私が一番わかっている。
それでもやっぱり周囲の目は気になるし、公共のマナーを守るのは当然だ。
彼が心の奥底まで見透かすようにじっと見てくる。
「何を恐れているの? 他人の目? それとも批難されること?」
すっと目を逸らした。
その両方だ。
「まあ答えなくてもわかるけどね。人の目も批難されることもどっちもでしょ?」
「……わかってるなら、やらないでほしい」
「どうしてそんなに気にするかな」
「どうしてって……」
気になるものは気になるのだ。仕方ないじゃない。
「僕は高らかに言えるけどね。僕の大好きなものは温かい寝床と大文字草と君!」
手を広げて高らかに彼は宣言する。
「ちょっ、恥ずかしいからやめてっ!」
「やだ」
「やだ!?」
あははと彼は笑う。
「ほら行こう」
彼が私の手を握って走り出した。
引っ張られて私も走り出す。
「ま、待って。そんな急がなくったって大文字草は逃げないよ」
「逃げるよ」
大文字草がプリントされた幟がはためく中を彼に手を引っ張られながら駆け抜けた。
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