あなただけの花
わたしがほしいのはあなただけ。
他には何もいらない。
若い頃ならそう言えたのだけど。
今はとてもそんなふうには言えない。
あれは世の中のことを何にも知らなくて、それでも生きていられたからこそ言える言葉だ。
世間を知った私はもうあの頃の純粋さを失ってしまった。
それを惜しいとは少しも思わない。
今の私にはいろいろしがらみがある。
それが嬉しいのだ。
それは大切なものが多いということだ。
だから恋にだけ突っ走れない。
自分の人生なんだから自分の幸せを一番に考えればいい、そういうふうに言う人もいるけれど、幸せなんて人それぞれだ。
私はしがらみの中にいることが幸せなのだ。
そのために、この恋を手放そうとも。
まあ、その前に完全な私の片想いなのだけど。
恋に落ちた瞬間を覚えている。
『これ何? 薊?』
『よく似ているけど、違うよ。田村草って言うんだ。薊と違って棘がない』
『へぇ。よく知ってるね』
『好きだからね』
『そうなんだ』
花を前にしたそれだけの会話だった。
そこから気になって、気づけば彼の姿を目で追うようになっていた。
彼は来月から異動になり、他県に移る。
告白するならあまり時間がない。
だけど、私は心を決めた。
このまま何も告げずに彼を見送ろう。
そう決めれば心が穏やかになった。
きっとそれでいいのだろう。
読んでいただき、ありがとうございました。




