大切なあなたの花
昼寝をしている夫の傍に座り、その寝顔を眺める。
彼は気持ちよさそうにぐっすりと眠っている。
そんな彼の寝顔を見ているうちに祈りにも似た思いが沸き上がってくる。
大切なあなた。
いつまでも元気で、傍にいて。
もうそれだけでいいわ。
若い頃はそれはそれはいろいろ我が儘を言ったわ。
彼は嫌な顔をせずに私の我が儘を聞いてくれたけど。
今思い返すと悪かったな、と思う我が儘も多々ある。
例えばーー
ちらりと外に視線を向ければみせばやの鉢が目に入る。
鉢は吊ってあり、風に鉢ごとゆらゆらと揺れている。
あの花が好きで、彼にほしいと我が儘を言ったこともあった。
彼は遠くの多肉専門店まで買いに行ってプレゼントしてくれた。
あの時はただ彼の気持ちが嬉しかったのだけど。
今思い返すと、大変だっただろうと思う。
わざわざ休日を潰して買いに行ってくれたのだ。
「んんぅ」と声が聞こえ、夫に視線を戻した。
彼の瞼がゆっくりと持ち上がる。
寝ぼけた瞳が私を捉えた途端、緩やかにほどける。
「おはよう。よく眠っていたわね」
「ん。懐かしい夢を見てたよ」
「どんな?」
「若い頃、君が可愛い我が儘を言ってくれていた頃の夢」
「可愛いなんてものじゃなかったでしょう」
「そんなことはないよ。今度はどんな我が儘を言ってくれるかなって楽しみにしてたんだ」
「物好きねぇ」
「違うよ。君が大好きなんだ」
「まあ」
よいしょと彼が起き上がる。
「まあすっかりおじさんになっちゃったけど、君の我が儘くらい叶えられるよ」
「あなたがおじさんなら私はもうおばさんなんだけど」
「いやいや全然。今でも可愛いよ」
「ふふ、ありがとう」
若い頃なら気を遣って、とか思うけど、もう今は素直に受け取ることにしている。
「本気にしてないね?」
「さあ? どうかしらね」
「まったく」
彼は嘆息した。
心外だ。
不意にそっと腕を伸ばした彼にぎゅっと抱きしめられる。
「愛してるよ。僕の妻になってくれてありがとう」
「私こそありがとう。愛しているから長生きしてね」
「そうだね。僕が先に死んだら君の我が儘を聞く人間がいなくなってしまう」
「そうよ。だからうーんと長生きしてちょうだい」
わざと冗談めかせる。
「鋭意努力することにするよ」
「ええ」
抱き合ったまま、私たちは声を上げて笑った。
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