なつかしい思い出の花
蕎麦屋の後ろには一面蕎麦畑が広がっている。
白い花がまるで靄のようでそれはそれで何だか壮観な風景に見えた。
夫と一緒に店に入る。
まだ時間が早いからか店内の半分ほどが埋まっているくらいだった。
窓際の席について注文する。
窓の外には蕎麦畑が広がっているのが見える。
「私たちの初デートもこういうお店だったね」
「そうだな」
「初デートなのに」
「君が食べたいって言ったんだぞ」
「あなたが好きだと聞いたからよ」
「そうだったのか」
夫は驚いている。
気づいてなかったようだ。
「そうよ。まあ気づいてなかったのならよかったわ」
「よかったのか?」
「そういう気遣いは知られないからこそでしょう?」
「まあ、そうかもな。あの時知ったらこっちこそ気を遣った」
「でしょう」
納得したように頷いた夫はすぐに首を傾げた。
「今言ったのは何でだ?」
「もういいかなって。私たちの間の絆は今さらそんなことを知ったからって揺るがないでしょう?」
「それは、そうだな」
それだけの年月を重ねてきた。
夜通し語りあったこともあったし、派手に喧嘩して何日も口を聞かないこともあった。
手を取り合って喜んだ日も、手を携えあって困難を乗り越えたこともあった。
全部が全部愛おしくなつかしい思い出だ。
読んでいただき、ありがとうございました。




