正義の花
私にとっての正義が他の人にとっても正義とは限らない。
その言葉は私の戒めだ。
正義を履き違えてはならない。
昔はよくそれでトラブルを起こしていた。
自分の正義を相手に押しつけて。
周囲から徐々に煙たがられ、孤立していった。
もうあんなのは御免だ。
だから口をつぐむようになっていた。
余計な波風を立てないように。
言葉を呑み込んで。
気づけば自分の意見も言えなくなっていた。
大学の講義室。
顔見知りの二人が言い争いをしていた。
昔の私だったら二人の間に飛び込んで強引に止めようとしただろう。
無意識に一歩引く。
たまたま後ろにいた彼にぶつかる。
「あ、ごめん」
彼は小学校からの同級生で中学、高校、そして大学まで一緒だった。
私が正義感を振りかざしていた頃から人が離れていった時、さらには自分の意見も言えなくなった現在のことも知っている。
彼は静かな視線で見下ろしてきた。
「また一歩引くの?」
「……引くよ」
「それでいいのか?」
「いいのよ」
「本当に?」
「いいの!」
皆騒ぎのほうに夢中になっているから私が多少声を荒らげても視線を向けられることはない。
「そう」
彼は私の横をすり抜けて騒ぎのほうに足を向ける。
ふと思い出す。
人が離れていく中、彼だけはルドベキアの花をくれて励ましてくれた。
ぐっと拳を握る。
無意識に後退ろうとする心を叱咤して震える足を一歩、前に踏み出した。
読んでいただき、ありがとうございました。




