従順な人の花
「ねぇ、私より自分のほうがあなたに相応しいって宣戦布告されたんだけど」
「誰に?」
知らない女性だったけど彼女はわざわざ名乗って宣戦布告してきた。
その名前を告げると、ああ、と平坦な声が返った。
この反応からして彼女の完全なる片想いだと判明した。
まあ疑ってはいなかったけど。
「彼女、体育会系か何か知らないけど上の言うことを何でも聞くんだよね」
「それで?」
「従順な人って一緒にいて面白くない」
「そっか」
これは彼が彼女に気持ちを移す可能性はかなり低いようだ。
それはそれとして一つ気になった。
「ん? 私っておもしれー女枠?」
「そんな認識があるの?」
「いやないけど」
「おもしれー女とは恋人にはなれないよ。疲れそう」
「確かに」
「僕にとって君は一緒にいて楽しい人だよ」
「それならよかった」
彼が渋面になる。
「にしても、君を排除して後釜に座ろうって随分と卑怯だな。これは評価を変えないとならないかな」
「彼女にしたら正々堂々と勝負しているつもりなのかもしれないよ?」
「え、嘘だろ」
「スポーツやってたなら有り得そうじゃない? こそこそ奪うのは好きじゃない、みたいな感じで」
「それ、履き違えてるよ」
「でも有り得そうじゃない?」
「まあ否定できないけど」
彼は顔をしかめた。
「やっぱ無理だな」
もともと恋愛対象だと思っていなかったようだけど、今のを聞いて完全にないとなったようだ。
「考えが相容れない」
まあそうだろう。
何より彼女は自分勝手だ。
「自分のことばっかりで僕の気持ちなんて何一つ考えてない。きっと、僕の趣味だって受け入れないだうね」
彼の趣味は山野草を育てることだ。
今夢中になっているのは八代草だ。
私は植物に興味はないけど彼の趣味を否定するつもりはない。
きちんと生活の空間さえ残しておいてくれれば山野草まみれになっていても別に構わない。
「趣味を受け入れないかはわからないけど、確かにあなたの気持ちは何も考えていなそうね」
彼は心底嫌そうな顔で頷く。
「でもさ、何より、」
肩に彼の腕が回り、そのまま抱き寄せられる。
「僕が君のことを好きな気持ちを完全に無視しているよ」
「そうね」
そのまま彼に寄りかかる。
きっとそれが彼女の最大の敗因だろう。
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