感受性豊かの花
彼からふわりと爽やかな香りが香った。
「いい香りだね」
「香り?」
「柑橘系みたいな香りがしているよ」
彼は自分をくんくんと嗅いでいる。
「あー、ベルガモットかも」
「ベルガモット?」
「ハーブの一種だよ。ミカン科の常緑樹のベルガモット・オレンジの香りによく似ているからその名がついたんだ。さっきハーブ畑の中で作業していたから匂いがついたんだろうね」
「あ、柑橘類じゃないんだね」
「そっちのほうは知ってたんだ」
「何となくそんなイメージだっただけ。ほら入浴剤のパッケージに描かれているのは柑橘類だから」
「ああ、確かに。そっか。世間一般的にイメージするのはそっちか」
「うん、そうだと思う」
「そっか。じゃあ君はこの香りが柑橘類のベルガモットだと思ったのか?」
「うーん、ちょっと違うかな、とは思ったけどハーブがあるなんて知らなかったし」
「そっか」
くんともう一度嗅ぐ。
「やっぱちょっと違うかな」
「どう違う?」
どこか楽しそうに彼が訊く。
「柑橘類のベルガモットのほうは遠くに海を見渡せる小高い丘の上のイメージだけど、ハーブのほうは風渡る草原のようなイメージかな」
「どんな香りかじゃなくて風景で喩えるなんて君は感受性豊かなんだね」
「そうかな?」
「そう感じるけどね」
自分ではよくわからない。
それにしてもいい香りだ。
つい無意識に香りを嗅ぐ。
「ところで、」
「うん?」
「そんなに嗅がれるとさすがに恥ずかしいんだけど」
「え? あ、ごめん!」
思ったより近づいていることに気づいて慌てて飛び退く。
ゆっくりと彼が両手を広げる。
笑顔だ。
「そんなに嗅ぎたいならほらおいで」
ぶんぶんと首を振る。
そんな恥ずかしいことはできない。
絶対顔が真っ赤だ。
そんな私の様子に彼は声を上げて笑った。
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