謙譲の美の花
スマホを弄っていた彼が顔を上げて、突然言った。
「『謙譲の美』ってさ、何か受け取る側の傲慢さというか、都合のいいようにっていう意図を感じる」
彼の眉間には皺が寄っていて本当に不快に思っていることが伝わってくる。
「どうしたの? 急に」
「いや、今日、モントブレチアを買ってきたから育て方を調べていたら花言葉が出てきてさ、それが『謙譲の美』だったんだ」
「うん、それで?」
「『謙譲の美』って何だよ、そんなに控えめなのが美徳なのか、って思っちゃってさ」
「ああ、まあわかるよ」
「本当に?」
「私だってそんなことを押しつけられたら嫌だもん」
「だよね」
彼は何度も頷いている。
余程不快に思っているようだ。
これは少し気を逸らしたほうがいいかもしれない。
「でもさそこまで深く考えてのことじゃないんじゃないの? 控えめなものの中にも美を見出だす日本人の心みたいなものなんじゃないかな?」
「言われるとそんな気もしてくる」
「でしょう。だから気にすることはないよ。ただの日本人の奥ゆかしさを表しているだけだって」
「そっか」
一応の納得を見せた。
よかった。これでどうにか気を逸らせた。
でないと延々と聞かされるところだった。
あとどうしても指摘しておきたいことがあった。
私もたいがいだと思う。
「それと謙譲って控えめって意味じゃないよ。一段自分を下げて相手を上げることだよ」
彼の眉根が再び寄る。
「それもなんか嫌なんだよね」
「まあそれだって気持ちの問題で媚びへつらうわけじゃないじゃない」
「それはそうなんだけど」
彼の口がちょっとだけへの字に曲がっている。
わかるけど納得できないようだ。
その姿がちょっと可愛いと思ってしまった私もたいがいだ。
屁理屈ばかり捏ねる彼と間違いがあれば訂正しないではおられない私。
周囲からちょっとだけ浮いている二人。
でもお互いに相手を否定することはなく、本音で語れる相手。
だからこそ私たちはお似合いなのだろう。
読んでいただき、ありがとうございました。




