荘厳の花3
何度来ても背筋が伸び、荘厳な建物の前で足を止めてしまう。
いつまで経っても慣れない。
それに呆れも苦笑もせずに彼はそっと手を引いてくれる。
古いだけだよ、と彼は言うけどそんなことはない。
柱一つ、彫刻一つ取っても職人の技が光る質のいいものなのだ。
だからこそ毎回圧倒されてしまう。
「お邪魔します」
「どうぞ」
靴を脱いで上がり、長い廊下を歩く。
飾られている大きな花瓶には鹿の子百合が何本も差してある。
恐らく華道で使った残りだろう。
勿体ないから飾っていると聞いた。
華道の先生をしている伯母様に習って趣味でやっているとか。
住む世界が違うと感じてしまうけどそれを言うと彼は怒る。
「確かに住んでいる家は古いけど、サラリーマン家庭の一般人だよ」
と。
でもここは明治時代に建てられたもので彼の家もいわゆる旧家なのだ。
ど庶民の私の家とは違う。
「今日両親は出掛けているから。会えなくて残念がっていた」
「私も残念がってたって伝えてくれる?」
「うん、わかった」
彼の顔が綻ぶ。
彼の両親も気さくで、彼と同じように「ごく普通のサラリーマン家庭だからそんなに緊張しなくて大丈夫」と言ってくれている。
ただどうしても気後れしてしまう。
廊下を歩くのも縮こまっている私の手を引きながら彼が言う。
「結婚するまでには慣れてね」
「うぅ、頑張る……」
「うん、頑張って」
彼は時々本当に容赦がない。
「大丈夫、すぐ慣れるよ」
「そうかな?」
今だって全然慣れないのに。
「何なら毎日うちで夕食食べる?」
「それは現実的じゃないよ」
そもそも遅番もある仕事なので毎日同じくらいの時間に来るのが無理なのだ。
「そっか。残念」
本当に残念そうだ。
「ま、結婚したら毎日顔を合わせられるからね。それまで我慢」
「そうだね」
笑顔で言えば彼も微笑んだ。
でも急に立ち止まって真剣な顔で私を見る。
「今のうちに言っておくね」
何かあるのだろうかと俄かに不安になる。
「僕と結婚するって決意してくれてありがとう」
彼は私が心のどこかで逃げようとしていたことに気づいていたのかもしれない。
それでも、私は自分の心と向き合って決めたのだ。
彼と共に生きる、と。
彼に微笑みかけた。
「貴方が大好きよ」
彼の顔がくしゃりと歪む。
それでも微笑んで泣き笑いの顔になる。
「僕も愛しているよ」
堪えきれないかのように彼にきつく抱きしめられた。
「ありがとう」
「うん」
彼の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめ返した。
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