沈静の花
今日は近くの山へとハイキングに来ていた。
山といってもそれほど高い山ではない。
近所の人が山菜を採りに入るくらいの山だ。
ふと道端に咲く花に目が留まった。
淡紫色の花が一つの茎に連なるように咲いている。
「これ、何の花だろう?」
「擬宝珠ですよ」
通りがかった男性が教えてくれる。
「擬宝珠って、あの?」
「はい。橋の欄干についているやつですね」
「何で擬宝珠?」
「つぼみが似ているかららしいですよ」
「似てます?」
「そこまでしっかりと観察したことはないのですが、似ているものもあるのではないでしょうか?」
「あー、なるほど。そういうことか」
思わず言葉が崩れた。
男性が小さく微笑い、頷く。
「何でも当て嵌められてしまいますね」
「そうなりますよね。まあ、でも名付けた人が最初に擬宝珠が浮かんだのでしょうから」
「その当時多くの人に"確かに"って思わせなくてはなりませんけどね」
「確かにそうですね」
二人で微笑い合う。
「ちなみに花言葉は"沈静"です」
「何故でしょう?」
「さすがにそこまでは……。寺社の欄干にもついていますから、そこからの発想かもしれませんね」
「ああ、なるほど」
それならあり得そうだ。
もう一度擬宝珠の花を見てから言う。
「物知りなんですね」
「趣味なんです。こういう野草の写真を撮るのが」
スマホを操作して見せてくれる。
どれもこれも私には名前すらわからない。
それを彼は一つずつ説明してくれる。
「こんな感じで写真を撮っていて、気になるので花の名前を調べたりしているんです」
「見せていただいてありがとうございました。きちんと花の名前を調べたりするのも素敵だと思います」
「ありがとうございます。よかったらご一緒しませんか? いろいろ植物のことについて教えてあげられると思いますよ」
「はい。ありがとうございます」
「……警戒心、足りなくないですか?」
「ここはそれなりに人も入る山ですよ?」
「それでもです」
「まあその時は自分の人を見る目のなさを恨むことにします」
「そう言われると裏切れませんね」
「え、本当に裏切るつもりだったんですか?」
「いいえ。行きましょうか」
「はい」
私たちは並んで歩き出した。
読んでいただき、ありがとうございました。




