有徳の人の花
彼は誰に対しても親切だ。
困っている人がいるとさりげなく手を貸している。
有徳の人、というのは彼のような人をいうのだろう。
ただ、彼は人に頼られるばかりで、あまり人に頼ることはしないのではないだろうか?
それでは疲れてしまうのではないかと心配になる。
だからふらりと一人で我が家の庭に現れた時には何も言わずに迎え入れることにしていた。
庭にはテーブルセットが置かれていて、彼はいつもそこで静かに時間を過ごしている。
私はできるだけ邪魔をしないようにしている。
きっと一人で過ごしたいだろうから。
今日も一人で来て椅子に座ってぼんやりと庭を眺めている。
テーブルセットのところにはパラソルが立ててあるとはいえ暑いだろう。
だが恐らく家の中に誘っても彼は入ろうとはしないだろう。
彼なりの何か線引きがあるように思える。
それならば。
諸々準備をしてお盆に載せて庭へと運ぶ。
アイスコーヒーにはコーヒーを凍らせた氷を入れて。
バニラアイスにはミントを添えて。
このミントは庭で育てているものだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
ふわりと彼が微笑う。
その目元に影があった。
「疲れてますか?」
思わず訊いてしまう。
彼は力なく微笑う。
「大丈……いや、少し、疲れたかな」
珍しい。彼がこんなふうに弱音を言うのなんて初めてだ。
「いつもありがとう」
「いえ、私は何も……」
「ここにいさせてくれているでしょう。何も聞かずに。それがどんなに救いになっているか。ここは、貴女は僕にとって心安らげる止まり木だ」
彼がここで安らげているのならよかった。
「お役に立てているならよかったです」
「通じなかったかな?」
彼がぽつりと何かを呟いた。
だけど、残念ながら私にはよく聞き取れなかった。
「何かおっしゃいましたか?」
彼は緩く首を振った。
それから私を真っ直ぐに見上げて微笑む。
「よかったら、だけど、一緒に食べない?」
「あ、はい。なら私の分も持ってきますね」
「うん。待ってる」
「いえ、アイスが溶けてしまうので先に食べていてください。それとも中に入りますか?」
彼はゆるりと首を振る。
「ううん、ここがいいかな。貴女さえ構わないのなら」
「私は別に構いません。ではすぐに持ってきますね」
私は自分の分を取りに慌てて屋内へと戻った。
その背を彼が優しい眼差しで見つめていることには全く気づかずに。
読んでいただき、ありがとうございました。




