あでやかな美人の花
「これなら今晩にでも咲くんじゃない?」
月下美人の鉢を見ながら告げる。
「本当?」
「うん。月下美人って一晩しか咲かないんだよ」
「へぇー。じゃあ一緒に見る?」
「うん!」
そう言ってくれたからてっきり二人きりだと思っていたのに。
午後七時頃になって訪ねてみたら他に女性がいた。
「こんばんは」
にこやかに挨拶をされる。
「あ、こんばんは」
反射的に返しながら彼女をまじまじと見てしまう。
彼女はそんな私の不躾な視線にもにこにこと微笑っている。
明るく人懐っこい笑顔が素敵なあでやかな美人だ。
どうしよう、勝てる要素がない。
「今日はごめんね。私も一緒で」
「……いえ」
彼が声をかけたのなら私に何か言う権利はない。
私と彼は恋人でも何でもないのだ。
「なるほど。こういう子がタイプか」
彼女は何故か一人で頷いている。
そこへ彼がやってきた。
私と彼女が一緒にいるのを見て険しい顔になる。
えっ? 何? 私別に何もしてないけど?
頭の中で忙しく言葉が飛び交う私の目の前で彼は彼女に向けて言う。
「姉貴、何か余計なこと吹き込んでないだろうな?」
「えっ、お姉さん!?」
「いつも弟がお世話になっています」
女性に丁寧に頭を下げられて反射的に頭を下げ返す。
「こちらこそお世話になっております」
「あら、弟には勿体ないくらいのいい子ね」
「姉貴、余計なことは言うな」
「余計なことって?」
お姉さんは楽しそうだ。
「茶化すつもりなら帰れ」
「はいはい。ごめんなさい。貴女もごめんね。ちょっと見たらすぐに退散するから少しだけ一緒に見させてね」
「あ、はい、構いません」
「ありがとう」
盛大に溜め息をついた彼がこっちと庭のほうに回る。そちらに月下美人の鉢が置いてあるのだ。
叔父一家が家を建てたのに転勤で北海道に行くことになり、戻ってくるまで彼がここを借りているらしい。
月下美人の花は午後八時頃から咲き始めるのでまだ咲いていない。
お互いに自己紹介しながらお姉さんと話しているうちにすっかりと打ち解けていた。
彼の子供の頃の話も聞けて楽しい。
花が咲いてからも花を見ながらお姉さんときゃいきゃい話してしまっていた。
静かに彼が近づいてくる。
「あのさ、あまり姉貴に懐かないで」
「え?」
「俺ももっと君と話がしたい」
そう告げる彼の顔は月の光の下でもわかるくらい真っ赤で。
「う、うん」
同じくらい赤くなっている自覚を持ちながら私は頷いたのだった。
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