心の平安の花
「とにかく大人しくしていて。何もしないで」
夫はとても真剣な顔だ。
圧を感じる程強い視線で言われる。
「僕の心の平安のためにも」
「何それ。私はいつだって大人しくしているでしょ」
「君の自己評価はどうなってるんだ」
嘆くように言われてきょとんとする。
「え、自分の行動に責任の持てる常識人だよ」
「信じられない。何でそんな自己像が持てるの!?」
「何でそんなふうに驚くかな? 私はいつだって自分の行動に責任を持っているよ」
とうとう彼は頭を抱えてうずくまってしまった。
同じようにしゃがみこんでつんつんとつつく。
それでも彼は動かない。
ふむと頷いて立ち上がった。
これは放っておくに限る。
一歩踏み出したところでばっと立ち上がった彼に腕を掴まれる。
「どこ行く気!?」
「え? 庭だけど?」
「だから大人しくしていてって言ったでしょ」
「庭に行くだけじゃん」
「庭に行って何するつもり?」
「ん? 草むしりとか?」
「その、とか、が怖い。絶対他に何かしでかすつもりでしょ」
「しでかすなんて失礼な。まあ、ついでに何かするかもしれないけど」
「だから信用できないんだよ。大人しくしてて。だいたいこんな真っ昼間に草取りなんて何考えてるの!熱中症で倒れるよ!」
「それはきちんと水分を取るから大丈夫」
「信用できるわけないでしょ」
「えー、何で?」
「何でじゃないよ。自分の行いをしっかりと顧みてごらんよ」
一応胸に手を当てて振り返ってみる。
うん、と頷く。
「私は私が責任を取れることしかしてない」
「は? あー、でも確かに自分で責任取ってる」
夫は再び頭を抱えてしゃがみ込む。
毎度のことながら疲れないのかと心配になる。
夫がそんなに情緒不安定になるのは私といる時だけだ。
他の人を選べばよかったじゃん、そうしたら穏やかに生きられるのに、と昔言ったことがあったけど、見たこともない顔で滅茶苦茶怒ったのでそれ以降言ったことはない。
ふとそんなことを思い出した。
仕方ない。ここは私が譲歩することにしよう。
「仕方ないな。部屋の中からペチュニアの花でも眺めながら昼寝してるよ」
「うん、そうしてて」
疲れたように言われる。
大人しくお気に入りのソファに横たわる。
彼がブランケットをかけてくれる。
夫は本当に過保護だ。
でもそんな扱いが嫌いじゃない。
くすぐったい思いを抱えながらそっと目を閉じた。
読んでいただき、ありがとうございました。




