鋭敏の花
「別れてほしいの」
「理由を聞いても?」
言われると思った。
彼が理由もなしに別れを承諾しないとわかっていた。
だから用意しておいた理由を口にする。
「好きな人が、できたの」
鋭敏な彼の視線がわたしを貫く。
お願い気づかないで。
このまま騙されて。
祈るような気持ちで彼を見返す。
彼の目がすっと細められた。
「嘘だね」
あっさりと言われる。
「う、嘘じゃないよ」
冷静に答えなければならなかったのに、声が上ずる。
「その動揺が嘘だって語っているよ」
「うぅ」
思わずうめき声が漏れた。
もうこれでは誤魔化せない。完全に嘘だとばれた。
いや最初からばれていた。
「誰かに何か言われた?」
わたしは黙り込んだ。
「言われたんだね」
それにも沈黙する。
彼が鋭くわたしを見据える。
「誰に何を言われたかは知らないけど、別れる気はないから」
わたしはただ見つめ返すことしかできない。
「それとももう僕のこと好きじゃなくなった?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「よかった」
ほっとしたように彼が微笑う。
もう好きでない、と言えば別れられたのでは、と思ったけどもう遅い。
どうせその嘘はすぐにばれる。
それに、その嘘だけは告げたくはなかった。
でも、とぽろりと弱音がこぼれ落ちる。
「好きな気持ちだけで乗り越えられないことだってあるよ……」
彼の手がぎゅっとわたしの手を握る。
「それでも頑張ってほしい」
すぐには頷けない。
「僕もできる限りのことはする。とりあえずは君に余計なことを言った連中には忠告するよ」
「……うん」
もう一度だけ頑張ってみよう。
二つに結んだ髪の瑠璃玉薊を模した飾りに彼がそっとキスをした。
彼からもらった初めてのプレゼントがこの髪ゴムだった。
この髪ゴムを身につけていた時点で嘘はすぐにばれる運命だったのだろう。
「ごめんね。手放してあげられない」
苦しそうな声だ。
それだけ彼はわたしのことを好きでいてくれているのだ。
「ううん、いいの。わたしのほうこそごめん。弱気になってた」
「そこまで追い詰められていたんだね。気づいてあげられなくてごめん」
「相談しなかったのはわたしのほうだよ」
「これからは一人で抱え込まないで」
「うん」
彼はわたしを抱き締めた。きつく。まるで、離さないというかのように。
わたしはそっと彼の背中に手を回し、ぎゅっと抱き締めた。
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