むだなことの花
ご飯を食べにおいでよ、と言われて彼の家にお邪魔した。
いいジンジャーが手に入ったんだ、と彼はにこにこ顔で出迎えてくれた。
出されたのはもちろんジンジャー料理だ。
それ程得意ではなかったが、彼の料理は美味しく、するすると食べられてしまう。
私が食べている姿を彼は嬉しそうに見ている。
自分が作ったものを美味しそうに食べてくれるのを見るのが好きなのだと前に言っていた。
食事をしながらぽつぽつと会話を交わす。
「むだなことはしたくない」
何かの話のついでにぽろりと言葉がこぼれ落ちた。
彼の手が止まる。
私はそれ以上は何も言わなかったけど、代わりに誤魔化すようなことも言わなかった。
少し考えるような間を空けて彼が唐突に言う。
「料理を美味しくするには、一手間が大切なんだ。素人にとっては面倒くさいとかむだだと思うようなことだろうけど」
「何が言いたいの?」
「むだって何だろうね、ってこと」
私は黙り込んだ。
返す言葉が思いつかない。
彼は少し慌てたように言葉を重ねた。
「別に責めてるわけじゃないよ。そういう考えの人も多いと思うし」
「……うん」
「まあ、むだかどうかなんて、結局その人がそう思うかどうかだからね」
黙って頷く。
「本人がむだだと思わなければそれはむだではないでしょ? 周りから見てどんなにむだだと思えても」
「それは、そうだね」
「ごめん。余計なことを言ったね」
私は首を横に振った。
「そんなことないよ。その通りだと思うし」
彼の眉尻は下がったままだ。
だから私は話題を変えようと気になっていたことを訊く。
「ところで、この花、何?」
白い蝶みたいな花が食卓の上、ガラスの器に活けられていた。
「ジンジャーだよ」
「え? しょうがの花ってこういう花なの?」
「ううん、別物。葉や根茎がしょうがに似ているからジンジャーって言うんだって。別名花縮砂」
「へぇ、そうなんだ」
知らなければしょうがの花だと思うだろう。
彼がつんと花をつつく。
「この花だって人によってはむだだよね。君はむだだと思う?」
私は首を振った。
「よかった」
彼はほっとしたように微笑う。
確かに彼の言う通りなのだ。
「私は私にとってのむだなことはやりたくない、でいいと思うことにしたよ。それを強制もしたくない」
「うん」
彼が穏やかに頷く。
それでいいのだ。
そして話題は別に流れ、食事は再開された。
読んでいただき、ありがとうございました。




