郷愁の花
「あら」
思わず声を上げた。
通りかかった家の庭先で枝いっぱいに小さな白い五弁の花をつけた木を見つけた。
ゆすらうめだ。
今は遠く離れた郷里のことがふっと脳裏を掠めた。
この花が郷愁を誘うのは幼い頃の記憶に紐付いているからだろう。
庭に植えられていたこの木の近くで幼馴染みとよく遊んだ。
実のつく時期には摘んで食べたりもした。
淡い初恋の想い出だ。
故郷は遠く、幼馴染みとも縁遠くなってしまった。
彼はまだあの地にいるのだろうか?
既にあの場所に実家もなく友人たちも故郷を離れて久しい。
彼の近況を聞ける者はいなかった。
元気にしているといいな、と何気なく思う。
もしここで再会したら運命っぽい、などといつもなら考えないことを思ったのは郷愁に引かれたからだろうか?
思わず苦笑した、その時ーー不意に名前を呼ばれた。
「え?」
視線を向ければ同い年くらいの男性がいた。
どこか懐かしく感じる。
「やっぱりそうだ。覚えてないかな?」
彼が名乗った名前は初恋の幼馴染みの名前だ。
「え、嘘? 本当に?」
まさか思い出していた彼がいるなんて、偶然にしても出来すぎてないだろうか?
「うん。元気だった?」
「ええ。貴方は?」
「元気だったよ。まさかこんなところで会えるなんて」
「ね。私もびっくりしてる」
「この後時間ある?」
「ええ、大丈夫」
「よかったら寄ってかない? もう少し話したいし」
「ええと、どこに?」
「ああ、ごめん。この家、実家なんだ」
彼が指したのはゆすらうめの植えられた庭のある家だ。
「高校の時にこっちに引っ越してきてさ」
私は中学校に上がるタイミングで引っ越したので知らなかった。
「そうだったのね」
「うん、よかったらどうぞ」
「ありがとう。お邪魔させてもらおうかな」
「うん、どうぞ」
まるでゆすらうめが繋いでくれた縁のようだ。
そんなことを考えながら笑顔で歩き出した彼の後をついていった。
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