優美な女性の花
目を輝かせてハンバーグを頬張る彼を見て噂話を思い出す。
彼の好きな人は桜のように優美な女性だとか。
私とは全然違うタイプだ。
彼の好きな人がそういう人なら、彼の好きな人は私ではない。
彼が手を止めて私を見る。
「どうしたの?」
噂はあくまでも噂だ。
でももし本当なら、この想いは捨てて友人として傍にいよう。
どんな形であれ、傍にいたい。
意識して軽い口調で訊く。
「貴方の好きな人は桜みたいな優美な人って本当?」
「誰から聞いたの?」
本当なんだ。
彼は違えばはっきりと否定する。
「ちょっと噂で」
小さく溜め息をついた彼はカラトリーを置いて真っ直ぐに私を見る。
「僕は、僕の好きな人はその名前のように優美な人だよ、って言ったんだ」
「え?」
私の名前は春を象徴する花の樹の名前だ。
まさか……?
「そう、君だよ。気づいてなかった? 僕は君としか食事に行かないのに。周りは知っているのに君だけが知らないなんて不思議だね」
「だって、言われてないから」
「お互い様だよね。僕も言われてないし」
これは完全に私の気持ちはバレている。
「でも、私なんて全然優美じゃないし」
「君も含めて皆誤解している。君は全然がさつじゃないよ」
「え、がさつだよ」
「君はちょっと、いや、かなり不器用なだけ。だからがさつに見えているんだ。そこに皆目がいっているけど、よく見ると君の動きってしなやかで優美なんだよ。まるで舞を舞っているようなんだ」
うっとりと語っているけど、彼は一体何を見ているんだろう?
「それを僕が知っていればいいかなって思ってたけど、あまりにも君のことをがさつだって貶すから頭に来て。まさか君に話す人間がいるなんてね」
「いや噂として流れてきただけ」
「僕が君を好きなことは隠していないから君の耳に入るようにと悪意で流された噂だ。後で対処しておくよ」
「う、うん」
御愁傷様、と誰か知らないけど言っておく。
「君は僕に愛されている自覚を持ってほしい」
「言ってくれれば持てると思うよ」
「そう? じゃあ覚悟していて? 後でたっぷりと聞かせてあげるから」
楽しそうな笑顔だ。
早まった、かも?
「さすがに食事中はちょっとね。雰囲気だって大切だよ」
「それはそうだね」
「でしょ。この後ドライブ行こうか?」
「うん」
私は知らなかった。
綺麗な桜の夜景を前にして彼に何度も情熱的に愛を告げられ、半泣きになりながら「もう勘弁して」と訴える未来が待っていることを。
読んでいただき、ありがとうございました。




