独立の花
彼もそろそろ独立するのでは、と事務所内で噂になっていた。
彼とは昼休みに一緒にお弁当を食べる仲だ。
彼が事務所にいる時は、の話だが。
彼は打ち合わせのために外に出ていることも多いのだ。
昼休み、一緒に近くの公園のベンチでお弁当を広げた時に思いきって訊いてみた。
「独立するの?」
彼は動きを止めた。
それから私から視線を逸らして答えてくれる。
「……そろそろどうか、とは言われている」
「そっか」
何年かしたら皆独立や別の事務所に移るために辞めていく。
事務員の私には関係ない事柄ではあるが。
彼もその時期に来たということなのだろう。
彼が独立してしまったらこうやって一緒にお昼を食べることもなくなる。
それは、寂しい、な。
不意にそんな本音が湧き上がってくる。
何だかんだ言ってこうやって彼と昼食を共にする時間が好きだった。
すっと視線を逸らした先では薊の花がコンクリートを割って咲いていた。
名を呼ばれて彼に視線を向けた。
彼が真剣な目で私を見ている。そのまま口を開いた。
「独立する時に、ついてきてほしい、って言ったらどうする?」
「え?」
思ってもいなかったことを訊かれて目を見開いた。
彼は尚も私を真剣に見たまま言葉を紡ぐ。
「正直どこまで実力が通用するかはわからない。それでも一緒に来てほしい」
言葉だけ聞くとプロポーズのようだ。
実際は仕事の勧誘でしかないけれど。
でも、本当にそれだけだろうか?
とくんと胸が跳ねる。
これを訊いたら、後戻りできない。
関係は確実に変わるだろう。
唾を飲み込み、口を開く。
「それは、事務員として?」
彼の瞳が揺れる。
彼が唾を飲み込むのがわかった。
彼も、緊張しているのだ。
「公私ともに支えてほしい」
息を呑む。
覚悟をして訊いたつもりだったが、実際に聞くと衝撃的だった。
彼は私から視線を逸らさない。
「急に言われても困るのもわかっている。無責任と感じるかもしれない。だけど、本気なんだ。だから、考えてほしい」
彼は真剣な目で私を見ている。
私も真剣に考えなければならない。
「わかった。ちゃんと考える」
そう答えると彼は表情を緩めた。
昼食を再開する。
何気ない素振りで先程見た薊に視線を向ける。
アスファルトを突き破って生えている強い花だ。
私も同じように強くあれるだろうか?
読んでいただき、ありがとうございました。




