使命と伝令の花
「あ、はい。近くにいるのでいいですよ」
彼が上司からの電話を受けているのを少し離れたところで待っていた。
ただ、話の雲行きは怪しい。
今日は休日だ。
そして今はデート中だ。
それなのに、彼はどうやら引き受けるつもりのようだ。
相手の声は聞こえないが、彼の声は聞こえる。
彼の態度からもそれが伝わってくる。
どうして……
思いかけて、思考を止める。
考えても仕方ない。
通話を終えた彼が軽く駆け寄ってくる。
彼は眉を下げてわたしに告げた。
「ごめん。ちょっと行ってくる。待ってて」
もう彼の中では決定事項のようだ。
自分の使命だと言うように伝令のために走っていく。
わたしはそれを黙って見送るしかなかった。
その背が見えなくなるまでじっと見ていた。
彼は一度も振り返らなかった。
誰かの命がかかっているとか、緊急性の高いものならまあわかる。
でもそうでないようなのに。
スマホを忘れた同僚に連絡事項を伝えるだけらしい。
それは彼が行かなければいけないことなのだろうか?
他の人では駄目なのだろうか?
急ぎでないなら出勤している者が伝えに行けばいいのに。
そんなふうに考えてしまうわたしは心が狭いのだろうか?
だけど、今日は彼はれっきとした休みなのだ。
わざわざ休みの彼を遣いっ走りにしなくても、とどうしても思ってしまう。
はぁと溜め息をついた。
思ったより重かった。
仕方ないと思う。
まさかデートを邪魔されるとは思っていなかったのだから。
それに、彼をいいように使われるのも。
何だかもやもやする。
とりあえず、どこかで彼を待たなくてはならない。
歩き出す。
近くでダッチアイリスの花が揺れていた。
読んでいただき、ありがとうございました。




