最終章 第7話 時には魔王様に相談しようぜ
「で、カウィズに怒られたから吾輩のところに来たと?お前が全然動かないから?」
「はい……」
「……」
「……あの。どうして笑いをこらえているのでしょうか。魔王様?」
カウィズから思いの丈をぶつけられた勇者レザは数時間後、魔王ゴヴァの部屋に駆け込んでいた。
「いやすまんすまん。珍しく落ち込んでいたからどうしたんだろうと思ったんだが。この勇者が他人から叱られて相談に来るとは思わなかったからな。し、しかも理由が動かないからって……くくっ」
「……」
「くくく……ふふふ……いや笑ってる場合じゃないのは分かってるんだが……。って、ん?お、おい無言でこちらに向かってくるのはやめろ!すまなかった!きちんと話聞くから!だから怒らないで!お前が本気出したら吾輩マジで死んじゃうから!今吾輩が死んだらマジで大変なことになっちゃうから!」
◇◇◇
「いや本当に申し訳なかった勇者レザ。あれだけ失礼な態度をしたのにもかかわず、その怖い顔を見せるだけで済ませてくれるお前は優しい男だな。ちなみに吾輩はそんなお前にビビって漏らしてしまった」
魔王ゴヴァは涙目になりながらレザへの謝罪を口にする。
「それにしても。何がどうなったらあのカウィズから怒られるんだ。あいつは昨晩だって懸命に魔族の避難に協力してくれていたのに。一体どんな話をした?」
「そ、それは……」
ゴヴァはレザにこう尋ねるが、しかし勇者はその答えに窮してしまう。
そもそも彼は付き合いの長い魔王ゴヴァにすら自身の前世をハッキリと明言していない。今更になってレザは、そこに気まずさやバツの悪さを感じるようになってしまった。
「まあそちらの過去を詮索するつもりはない。しかし今の状況でカウィズと喧嘩してしまうとこちらは困る。それにあくまでも吾輩は依頼主だ」
しかしゴヴァはレザが転生者であることをとっくに分かったうえで、長きにわたり素性を明かしてこなかったその姿勢を、時にツッコみながらも尊重してきたのだ。
「どのようなポリシーを持っていようと吾輩はそれをリスペクトする。だがこれだけは頭に入れておいてくれ。自分が思ってる以上に『勇者』は愛されているぞ?時には弱みを見せろ、それが人間だ」
こう語るゴヴァは、いつもとは違って伏し目がちのレザに対して優しく声をかけた。
どれだけレザが前世での素性を隠そうと。
どれだけレザが秘密裏に女神からの依頼のために動いていようと。
魔王ゴヴァにとって彼は自身を救ってくれた恩人であり……かけがえのない大切な友人だったのだ。
「……魔王様。これまで自身のことを隠し続けていて、大変申し訳ございませんでした。今の私は色々と混乱してしまっている状態なのです。助けて欲しく、全部のことをお話したいと思います」
そして勇者レザは決断した。
日本社会で生き抜くために持ち続けた営業マンとしての矜持よりも、これからも勇者としてこの異世界で生きていていくための未来を優先することを。
◇◇◇
「なるほど。お前の前世は40歳を手前に過労死した元不動産営業マンである真留村富士夫。そして女神から説明を聞いて転生され、和平を成し遂げた後には天界の過失のせいで事情を知らずこちらに来た転生者の存在を知ったと……」
レザからの話を聞き終えたゴヴァは腕組みをして難しい顔をしながらブツブツとその内容を反芻している。
「この転生者というのは2名。両者とも勇者レザが成し遂げた和平に不満を抱いており、吾輩の命を狙っている。このうちの片方であるカウィズは心を入れ替えたが、もう片方のワルケはそうではなさそう……か」
そしてゴヴァはうんうんと少しうなずくと、レザの顔に目を向けた。
「で、そのワルケの前世がお前の営業マン時代の同期の可能性が高いのか?」
「そうです。私は親友だと思っていた人間でした。しかし裏切られてしまい、その時の経験が故にワルケ王太子殿下と顔を合わせたくないのです」
うなだれながら勇者レザは続ける。
「しかしその子供じみた原因のせいでここまで事態は悪化。カウィズ様からの言葉も聞き、遂には自分のことがよく分からなくなってしまいました。私は真留村富士夫なのか、それとも勇者レザなのか」
そんな彼の様子を見たゴヴァは「らしくないなあ。こりゃ重症だな」と言いながらも苦笑いする。
「聞く限り、お前と吾輩・カウィズとは明確に違うことがある。こちら側は前世で未熟なまま命を落とし、転生した。だからある意味開き直れる。吾輩もカウィズも20歳を少し超えたまだ若い頃に死んだからな」
さらに「しかし吾輩もカウィズも前世のトラウマを完全に払拭できているわけではない。それはお前も分かっているだろう」と言うと、ゴヴァは続ける。
「ただお前は違う。前世でそれなりに人生経験を積めたうえで転生した。この差は大きい。だから真留村富士夫としての人生や考え方を棄てることはこの先もできない」
思った以上の冷静な分析にレザは顔を上げて驚いた表情を浮かべてしまう。そしてゴヴァはイスから立ち上がり、そんなレザの方に少し歩み寄ってこう声をかけた。
「お前はレザであり、そして真留村富士夫でもある。そのどちらかを選ぼうなんて無理な話だ。その両方があったから世界は変わったのだから。だがうじうじと部屋の中で考えてたってしょうがない。このままだと魔族側も我慢の限界を迎えてしまう」
加えて「それにあれだけページ数の多い契約書も交わしたんだぞ?しっかり契約履行してくれよ?」とわざとらしく眉をひそめたゴヴァ。
するとその言葉を聞いたレザは。
彼の気持ちを察して、力を込めて両手を握る。
「そうだ、その顔だ勇者。お前の強みはどれだけ困難な状況でもブレずに粛々と仕事をこなせることのはずだ。それにワルケのところには吾輩も共に行こう。一対一よりはマシだろう」
「……承知しました。色々と話を聞いてくださりありがとうございます。それでは今すぐ、レフォ王国へと向かいましょう」
ゴヴァに頭を下げてこう伝える勇者。すると突然部屋の扉が開き、そこにはガーゴイルのイーファが飛び込んできてこう叫んだ。
「ま、魔王様!勇者様!大変です!レフォ王国王家の侍従長と名乗る方がここにやって参りました!」




