第3章 第9話 私達、友達じゃないですか!
戻って、魔王城の現在。
勇者レザは魔王ゴヴァの部屋の前に立ち、必死に説得を行っていた。
「魔王様!何度も繰り返しますが、魔王太后様とお話をしてはいただけないでしょうか!彼女は魔王様にお会いしたいと希望しております!」
しかし返事はない。
「魔王太后様は魔王様ご夫妻に謝罪したいと申しているのです!どうか部屋から出てきてください!魔王……いや、ゴヴァちん様!」
「うるさいなあ!そして誰がゴヴァちんだ!その名で呼ぶのはやめろ!」
「あ!ゴヴァちん様だ!ゴヴァちん様が出てきたちん!」
「吾輩のこと馬鹿にしてるだろ!?」
しかしさすがに我慢の限界だったのか、魔王ゴヴァは部屋から飛び出してきた。
「そもそも勇者!依頼内容とは話が違うじゃないか!吾輩は母と会いたくないからお前に対応を頼んだぞ!」
「しかし、ちんゴヴァ様!魔王太后様のお気持ちを伺い、私はこちらに足を運んだのです!」
「『ちん』と『ゴヴァ』を入れ替えるな!お前本当はふざけてるだろ!」
ゴヴァはさすがに怒りが頂点に達したのか、レザの胸ぐらを掴んで彼のことを軽々と持ち上げる。
「今のお前がしていることは職務怠慢!越権行為!おまけにシンプル侮辱!営業マンとしてこれはどうなんだ!勇者レザ!」
もちろんレザの胸にはゴヴァの言葉が突き刺さっている。
確かに彼の言う通りこれは当初の依頼内容を無視したものだ。しかし今のレザにとってはもうそんなことは重要ではない。
胸ぐらを掴むゴヴァの腕の力は徐々に強まっていく。それでもレザは負けじと心のうちを訴えた。
「今ここで魔王太后様と話さないと一生後悔しますよ!別に私は『仲良くしろ』なんてことは言っておりません!『一目でいいから会って、話を聞いてあげてください』とお願いしてるのです!」
するとゴヴァはさらに眉間に皺を寄せ、レザに自身の顔を近づけると大声でこう叫ぶ。
「確かに面倒ごとを押し付けたのは謝る!しかしこれはこちらの家族の問題なんだ!……もう余計なことはするな!報酬は後日渡すから今すぐ帰れ!」
そしてレザは硬い床に叩きつけられ、怒り心頭といった様子のゴヴァは自室へと戻っていった。
こうしてその場にひとり残されたレザ。
「どうしましょうか。なかなか説得は上手くいきませんね」
勇者レザは、途端に静かになった魔王城の廊下にあぐらをかいて座り込みながら頭を悩ませる。しかしいつまでもこんなことはしてられない。こういうことは『鉄は熱いうちに打て』だからだ。
なので彼はすぐに次の手を考えなければと立ち上がり、廊下の窓から見える庭園に目を向けたのだが。
「……ん?」
庭園の奥にいるのは複数の影。普段は庭師ではないとなかなか足を踏み入れないような場所だが、目を凝らしてみると。
「あれはソワリラ様?それにイーファ様も」
そこにはジェリサの侍従であるサイクロプスのソワリラと、この魔王城に勤めているガーゴイルのイーファがいた。
イーファは家出した魔王妃シルヴェを探す際、そしてカウィズと出会った『赤い城』へと赴く際にレザの移動手段となってくれた魔族。普通のガーゴイルよりも体が大きく、移動手段としての役割も果たしているのだ。
そしてレザはイーファのことを割と気に入っており、魔王城内部で会ったときにも言葉を交わすほどであった。
「……」
庭園の奥ではソワリラが身振り手振りをしながら高圧的に何かを話をしているようであり、イーファはどこか困ったような素振りをしているように見えた。
そして顎に手を当てたレザはその様子に何か違和感を抱いた。
「ふむ、営業マン危機管理レーダーがビンビンに反応しますね。これは……」
◇◇◇
その日の夕方。
レザはある魔族を探しに魔王城内を歩き回っていた。ちなみにジェリサには「必ず魔王様とお話できるようにしますのでお待ちください」と声をかけおり、彼女はその言葉を聞いてうなずいて大人しく待ってくれている。
するとじきに、目的の魔族が見つかる。
「で、でも……もうそんなことしちゃいけないし……。だけどあれをしないとイーファが殺される……。うう……イーファはどうすればいいんだよ……」
「あら?イーファ様じゃありませんか。何をされてるんですか?」
「あ!ゆ、勇者様!」
首を垂れて肩を落としながら、見るからに落ち込んだ様子のイーファ。レザは彼を見つけると即座にそばへと駆け付けた。
「今日一日、全然お話できていませんでしたね。お元気ですか?」
レザは自身の目的が察知されないように、自然な演技で爽やかに挨拶をする。しかしイーファの方は勇者が何かを指摘したわけではないのにもかかわらず。
「ゆ、ゆゆゆゆ勇者。お、お疲れ様ですすすすすすすす……」
見るからに動揺していた。
「……何かありましたか?」
「い、いえ!な、なんでもないですよよよよよ!」
「……」
「……」
イーファは明らかに泳いでおりその声も震えてしまっている。もはやこれは鎌をかける必要などなく、後ろめたいことがあるとすぐに分かってしまうレベルだ。
するとレザはイーファの両肩をぐっと掴み、その目を真っすぐ見つめてこう口を開いた。
「イーファ様。何かお悩みでもお抱えですか?」
静かな、しかし力強いレザの声は廊下に響く。
「イーファ様は魔王妃シルヴェ様を探す時も『赤い別荘』に赴いた時も。私と一緒だったじゃないですか。見るからに今のイーファ様は誰にも言えないような悩みを抱えているかとお見受けします。……ささいなことでも構いません。私にその心の内を開け、気を楽にしてください」
「い、いやでも……」
慌てて目を逸らしてしまうイーファ。だがここでレザは対ジェリサでの経験を基に、何の淀みも無い透き通った瞳で切り札となる言葉をわざとらしく放つ。
「イーファ様。私達は……私達は種族の垣根を超えた友人じゃないですか!ベストフレンドじゃないですか!」
レザが発した力強い言葉。
これを聞いた瞬間、そこまでうつむいていたイーファはハッとした表情で顔を上げる。次第に彼はその目に涙を溜めると同時に鼻もすすり始めた。
「ゆ、勇者様……!」
「ご安心くださいイーファ様!私とあなたは硬い友情で結ばれた仲!私はいつでもあなたの味方ですよ!」
そう言いながらレザはイーファには見えないようにニヤリと口角を上げ、近くにあった誰も使っていない部屋に入るよう促した。




